鬼滅の刃

□結婚がまだ憧れ段階の善逸って可愛いよね
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随分長いこと憧れることさえしなくなった『家族』。
それを自分が家族の一員として築くことが出来るなんて、考えただけで胸が騒ぐ。

…赤ちゃん。
…きっと可愛い。
…奉公先でたくさん世話はしてきたけど、すぐに追い出されてきたからどの子も短い間しか世話をすることがなかった。
…今度からは。
…腹で育てて、産んで、育てるのも全部俺。

心臓がばくばくしていてぽわぽわしていて、いつもはちゃんと出来ていることがまともに出来ない。

ご飯の器をひっくり返したり何もないところで転んだり、なほちゃん達にまで心配をかけてしまった。

だけどしょうがなくない?
だって夢見ることすら許されなかった幸せが、目の前に「どうぞ」とぶら下げられてるんだから。


そのままぽわぽわと日々を過ごした。
その間は蝶屋敷を訪れる人達に、伊之助が「善逸と結婚することになった」と報告をしていく。
そのたびに皆、言葉に詰まったような、あり得ない話を聞くような、そんな音で俺を見ていた。

ですよねぇぇぇ!!
俺が結婚出来るとか奇跡過ぎますよねぇぇぇ!!
しかも相手が伊之助!
知ってる人の中で1番の美人!!
ですよねぇぇぇ!
驚きますよねぇ!!!!!

でもねでもね。
伊之助が、こんな俺でも良いって言ってくれたんですよぉぉぉ!!

ぽわぽわした耳にも聞こえる『そんな馬鹿な』の音。

そして皆一様に同じ問いを俺に向ける。

「善逸は、本当にそれで良いのか?」って。

「良いも何も、俺にとっては思ってもみない縁談でしょぉぉぉ?!俺と結婚とか、伊之助正気なのって思いますよねぇぇ?!じいちゃんいたらすげぇ喜ぶわ!今度一緒にひささんところとじいちゃんところに報告行って、それでそのままじいちゃんの家に住めば良いって、そんな話をしてるんですけどねぇぇ!」

自分でも何を言っているのか分からないけど、とりあえず俺が興奮状態なのは皆理解しているらしい。

報告を受けた人の中で、宇髄さんはあまり表情を変えなかった。
この人からは音も聞き取りづらい。
だけど、普段はあれだけ派手神なのに、何故か地味な質問をされてしまった。
「…結婚するってことは、子どもが出来るようなことをするってことだぞ?善逸は本当にそれで良いのか?」

「だよね?!それ大事だわ!伊之助、俺相手でも問題ないの?!」
「問題ねぇ。こういうことだろ」
くいっと顎を持ち上げられたと思ったら、そのまま唇を重ねられてしまった。

「ぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあ?!」
頭の先から爪先まで真っ赤に染まる。

「駄目駄目駄目駄目!顔が良い!伊之助顔が良い!!心臓が止まる!ねぇ俺の心臓動いてる!?」
「動いてるぞ」
伊之助がぎゅむっと乳を揉む。
「今なら言える!!!嫁入り前の娘に無体を働くんじゃねぇぇ!」
「俺と結婚するんだから問題ないだろ」
「そういえばそうね??」
頭に疑問符が浮かぶ。

「…善逸が良いなら、俺は構わないんだがな…」
なにか言いたそうな顔で宇髄さんが呟く。
真っ赤な顔で騒ぐ俺と、涼しい顔をしている伊之助とを交互に見ては帰っていった。


まぁそうでしょうね!?
伊之助みたいに顔が綺麗な人が、こんなちんちくりんと結婚なんて釣り合ってないもんね!?
そうは思うものの、結婚できるというのは素直に嬉しい。

…だけど何で皆一様に、伊之助じゃなく俺の方に「それでいいのか」なんて聞くんだろう。
伊之助がやっぱり気が変わったって言うのはあるかもしれないけど、そこに俺の意思って介在しないんじゃない?
なんで皆、伊之助じゃなくて俺に聞くんだろう。

…俺が駄目だって言う可能性…何かあったっけ…?



ぽやぽやしながら縁側で日向ぼっこをする。
膝の上にはいつものように伊之助が転がっている。

…あぁ…。俺、本当にこのまま結婚するのかぁ…。
…全然…実感無いなぁ…。

なんて思っていたそのとき。


「なになになになに何なの!?」
聞いたこともないような怖い音が響いてくる。

「なんなの!?怖い怖い怖い!伊之助助けてぇ!」

膝の上の伊之助を揺り起こす。

「…来たな…」

何故か落ち着いている伊之助はそれでも俺の膝からおりようとはしない。

「ねぇねぇ!?なんなのなんなの!?」

涙を零しながら喚いていたそのとき。

「…善逸っ!!」

庭先にだんっと砂埃をあげながら炭治郎が現れる。

「え…!?えっ!?何この怖い音!まさか炭治郎なの!?いつもの綺麗な音はどうしちゃったの!?」
目を丸くする。

「伊之助はそこをどいてくれ!」
炭治郎が伊之助に声を掛けるが伊之助は動かない。

「善逸!伊之助と婚約をしたという話を聞いたが本当なのか!?」
「えっ?炭治郎誰から聞いたの!?それよりその怖い音何なの!何してるの炭治郎!?」

「…本当なのか善逸…」
ゴオゴオと溶岩が爆ぜるような音がする。

「えっそうだよ!?それよりどうしたのその音!」
あまりにも怖すぎて近寄れない音。

「…伊之助。善逸との婚約を解消してくれ!今すぐにだ!」

「断る」

「待って待って!?せっかく伊之助が結婚してくれるって言ってくれたのに何言っちゃってるの炭治郎!?」

「善逸は俺と結婚するんだ!伊之助とは結婚しない!」

「何言ってるのよ炭治郎!?」

「俺が先約だ。引っ込んでろ愚図が」

「いいや引っ込めない!善逸は俺と結婚するんだ!」

「口で言わなきゃ意味ねぇんだよ。俺の方が早かった」

「善逸は先着順じゃない!俺の方が善逸のことを愛している!」

「もたもたしてたてめぇが悪いんだろうが。もう婚約済みだ」

「考え直してくれ善逸!」

「直さねぇ。こいつは一度した約束は守るからな」

「善逸!」


2人が何を言い合っているのか意味が分からない。

膝の上に転がっていた伊之助がぐい、と俺の首を引き寄せる。

…うわぁ。顔が良い…。

そう思った瞬間、唇と唇が重なった。

「やめろぉぉぉ!!」

炭治郎の絶叫が、蝶屋敷の庭へと響き渡った。


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