鬼滅の刃

□炭治郎は囲い込みたい
3ページ/3ページ



■■■■■■







「それにしても、意外だったよなぁ」
村田さんが笑いながらそう言う。
俺はといえば、蝶屋敷の縁側で村田さんが奢ってくれた団子を頬張っている。

「なんのこと?」
「竈門だよ、竈門。誰にでも優しくて気の良い奴って評判だっただろ。なのに恋人に関することになると、途端にあそこまで心が狭くなるなんて思わなかった」
「炭治郎?…恋人?」
初耳だ。

「噂になってたぞ。恋人に言い寄る奴らを片端から牽制して、見たことないほど怖い顔して、とにかく囲い込んで他の人間には触らせないように必死になっているって。お前と嘴平もそうだけど、上弦倒すし、鬼殺隊に入ってから急速に階級跳ね上がってるし、柱とも仲良いわけじゃん。そりゃ、普通の奴は敵わないって」
「怖い顔。…あぁ」
あの般若顔か。
確かにあれは怖い。
泣きながら謝って縋り付いたことだって一度や二度ではきかない。

「命を救われたからと一目惚れされて手土産持参で何度も押しかけてくる奴がいたり、初めて目の前で『型』を見てその美しさに惚れられたり、とかく男にもててるらしいからな。あれじゃあ竈門も苦労するだろ」
意味ありそうな笑みを向けられる。

「力でねじ伏せるように横恋慕してくる奴らを牽制して、そのくせ恋人の前ではわかりやすく『恋する男の顔』してるだろ。俺もあいつの真面目で優しいところしか見てなかったから本当意外だったよ」
「へえ」
恋する男の顔、ねぇ。
どんな顔だろ。
あの炭治郎がそんな顔してるなんて、見たら絶対に面白いのに。



「そっかぁ…。炭治郎恋人いるんだ。優しいし、頼りになるし、長男だし、禰豆子ちゃんが妹だし…。だよねぇ。幸せになって欲しいよねぇ」
美味しい団子を咀嚼する。

「…え…?我妻…、お前何言ってるんだ…?」
村田さんが驚いたような音を立てる。



…俺?俺が、なんて…?

はっと気付く。




「あああああ!?炭治郎恋人いるのかよ!!なんだよ!俺聞いてねぇぞ!?」
味わう前の団子をうっかり飲み込んでしまい咳き込む背中を村田さんが撫でてくれる。

「おかしくない!?ねぇおかしくない!?そりゃ炭治郎はさぁ、皆に好かれて友達も多いけどさぁ!!」
咳き込んだことも苦しくて、涙がぼろぼろと溢れだしてくる。

「俺ももしかして友達なのかなぁとか思ってたのに!勘違いかよ!はい知ってましたごめんなさいね!!」
おろろんおろろんと泣いていると、村田さんから戸惑った音が響いてくる。

「村田さぁぁぁん!!…友達だったら普通、恋人の友達くらい紹介してくれるよなぁ!?そうだよなぁ!?」
俺は紹介されていない。
つまり友達ではない。
あまりにも衝撃が激しすぎて感情がついてこない。

「そりゃ確かに一番大好きなのは禰豆子ちゃんですけど!それはもう間違いないんですけどぉぉ!!」
村田さんの胸に縋り付く。

「でもさぁ、禰豆子ちゃんは駄目だって言われてるし、なのに彼女の友達すら紹介してくれないってどういうこと!?もう本当どういうことなの!?納得出来ないよぉぉ!俺だって結婚したいのに!ずっと前からそう言ってるのに!!」
困った音を爆音で響かせている村田さんの隊服の胸の辺りに顔を埋め涙を拭く。

「1人だけ可愛い彼女とあははのうふふかよ!鬼殺隊はお遊び気分で入る所じゃないんだよ!!」
「…ちょ、落ち着け我妻、これはまずい、色々とまずいから!」
引き剥がされそうになるから一層強くしがみつく。

「まさか!?今村田さん『型』って言った!?もしかしてその彼女も鬼殺隊なの!?ねぇそうなの村田さん!?だから噂になってるのね!?俺に友達がいないから同じ鬼殺隊の中でも俺だけ聞いていないってことなのね!?」
「いや、違う違う!いいから落ち着けって!」

「村田さんのその音ぉぉぉ!!やっぱりそうなんだぁぁぁ!鬼殺隊内で恋愛とか巫山戯てんじゃねぇぞ!!粛正だよ!即!粛正!!隊律違反でしょ!?なぁこれは完全に隊律違反だよなぁぁ!!」
「だから違う、すまない、俺の勘違いだ我妻!!竈門に恋人はいない!竈門の片思いだ!」
「嘘だぁぁ!!噂になるくらい可愛い彼女がいるんだ!誰!?誰なの!?俺が知ってる子!?」
「いや、だからそれが我妻っ…!」

「知ってる子なんだ!!…はっ…まさか…、カナヲちゃん…?アオイちゃん?…俺が知ってる可愛い子ってだけで、該当者ほぼそこじゃねぇか!!!」
怒りが収まらない。

「違う!いいから落ち着けよ我妻!」

「これが落ち着いていられるかぁぁぁ!言っとくけど村田さんの音で全部分かってるからね俺は!!俺が任務で怖い思いしたり怪我したりしてる間に蝶屋敷で可愛い子とあははのうふふかよ!!とんでもねぇ炭治郎だ!!」

カナヲちゃんもアオイちゃんもとても可愛い。
俺がどれだけ口説いても一度も靡いてくれたことのない彼女たちでも、相手が炭治郎ならきっと靡いてしまうに違いない。

さすがになほちゃん達と言うことはないだろう。
それは完璧に犯罪だわ。
俺だってその場を取り押さえたら即粛正だわ。

…カナヲちゃんやアオイちゃんと…あははのうふふ…。
そんなの羨ましすぎて血の涙が出てしまいそう。

「うわぁぁぁん!!村田さぁぁぁん!!!」
村田さんにしがみついて思い切り泣きじゃくる。

「はな、離れてくれ我妻!やばいって!絶対やばいって俺が!!」
逃げだそうとするから必死に抱きついてその場に縫い止める。
村田さんだって彼女とかいないはず。
なんとなく音で分かる。
だから俺の仲間だ。
友達だと思っていた炭治郎の裏切りで俺の心はずたずただ。

伊之助も仲良いつもりでいるけれど、あいつ所詮猪だからこういう恋愛ごとには疎すぎる。
女の子のこと雌とか呼んじゃったりしてるしね。

俺は本当に人間関係が希薄だから、他に友達とかいないんだ。舐めるなよ。
仲良いと思っていた相手に裏切られると、他の人達より疲弊が大きくなる。
だから、つまり。


「もう俺には村田さんしかいないんだぁぁ!村田さぁぁぁん!!」
更に激しく抱きついたとき、背後から轟音が響いてきた。


「何をしているんだ!?…善逸何があったんだ!どうしてそんなに泣いているんだ!?」
まさに般若顔の炭治郎が怒り心頭といった体で立ち尽くしている。

「違う!違うからな竈門!!」
「いいから今すぐ善逸から離れろ!善逸が泣いている匂いがしたから慌てて来てみれば…!善逸を泣かせた上に抱きしめるなんて、何をやっているんだ村田さんは!!善逸を離せ!!」
「いやよく見ろよ!俺じゃないからね!?竈門の方こそ我妻ともっと話し合えよ!」

「離れろと言っているのが聞こえないのか!?」
「我妻に言え我妻に!俺の手はここだ!宙に浮いている!!!よく見ろよお前も!!」

「二度と善逸に近寄るな!善逸、いいから来るんだ!」
「俺は無関係だからな!?俺を巻き込むなよお前ら!」

「いつまで善逸を抱きしめているつもりだ!」
「人の話を聞けよ!我妻!いいから離してくれ!」
「善逸!」

炭治郎の手が俺の手首を掴む。
骨が折れそう。
痛い。

せっかくの優しい村田さんまで俺から引き剥がそうなんてしてくるから、俺も爆発した。
だって酷い。あまりにも酷すぎる。

「駄目だ駄目だ駄目だぁぁ!村田さんは優しいんだ!俺はこれからもずっと村田さんに話を聞いて貰うんだ!!」

「善逸!?」

「俺、お前みたいな奴とはもう口利かないからな!!」

泣きながら炭治郎を指さし宣言する。



鼓膜をつきさすような轟音が、辺りに鳴り響いた。


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ