鬼滅の刃

□責任の所在
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「ッ、…善逸ッ…!俺の体に爪を立ててくれて良いからッ…!」
「んなことより離せぇぇ!お前巫山戯てんじゃねぇぞ?!ッ…、あっ、ゃ、んぅっ…!…あぁぁぁぁッ…!!」

鼻から抜けるようなその声に、炭治郎のそれが更に熱を帯びる。
ずくりと挿しこんだ先、その狭い場所。
温かく迎え入れてくれているその場所の更に奥を求めて、抉るように腰を蠢かす。

「ッ、だぁぁっ、痛い痛い痛いぃぃっ…!」
炭治郎の背中へと回された手でせめて背中に爪でも立ててやろうかと試みても、もとより剣士として鍛え上げられている体は、爪すら短く切り揃えられており、指先で柔く握り込むのみ。
善逸が使う型は居合いであるため、むしろ他の剣士よりも爪は短い。

そのことを知らないわけでもあるまいに、無理なら爪を立てろなどと言ってきたこの男が恨めしい。
ならばせめてものよすがにとその体にしがみつき、この激しい衝動を受け流すくらいのことしか出来ない。
首筋に回した腕で強く握りこめば、腕の中の炭治郎が嬉しそうな音を立てる。

違う、そうじゃない、早く抜け。
そう言いたいのに、口を開けばまた炭治郎が喜ぶような声が漏れてしまう。

それで仕方なく目の前の肩にがぶりとかぶりつき歯型を刻む。

すると中に挿入りこんでいるそれが、更に体積を増した。

「…、ひ、ゃ、ぁぁぁんっ…!」
目尻から溢れ出る涙を舌で掬われ、もうまともに思考することすら出来ない。

「…好きだっ…!好きだ善逸ッ…!」
熱に浮かされたように放たれる上擦った声が耳朶を擽る。

心臓の音。
あらぬ箇所から聞こえるぐちょりとぬめった婀娜っぽい音。
血液が流れる激しい音。

それら全てが耳から入り込み、善逸の脳を蕩けさせる。

「あ、ゃ、…らっめぇ…!た、たん、じろッ…!!」
抑えるように言葉を紡げば、更に血液が沸騰するような音を醸し出す。

肩を撫でていた手のひらがつぅっと滑り、胸の辺りを撫でさする。
耳朶を食まれ、頬を舐められ、口の中いっぱいに挿し込まれた舌が溢れそうな唾液を掻き乱す。




どうしてこうなった。
善逸は茹だる頭で考える。

深夜を過ぎた頃、良すぎる耳はその音を拾った。
炭治郎の音。
帰ってきたのかと思うのと、酷く苦しんでいる音を聴き込んだのがほとんど同時だった。
寝間着のまま離れの玄関口へと駆け寄り、ふらつく体を支えた。

青褪めた顔。
血の気が引いて冷たくなった腕。

「どうしたんだ?!何があった!!」
腕を掴み肩へと担ぎあげる。
その背中に負われていた禰豆子の箱を下ろし、手近な部屋の中へと下ろしておく。

「しのぶさんのところへ行くか?!」
問うと炭治郎が弱々しく首を振る。

「…鬼は切ったんだ。血鬼術でもない…」
確かに善逸の耳は鬼の気配を探らない。

「なら、何処か怪我でも」
言いながら首を傾げる。
炭治郎の体の何処からも、怪我をして流れる血の音は聞こえない。

「…臭いが…」
「臭い?」
「…鬼の放つ臭気にやられた…。寝たら治ると思うんだが…それより風呂に入りたい…臭いが染み付いていて耐えられそうにないんだ…」

途端に苦しそうに口を抑える炭治郎に、寝間着の裾を絡げる。

「気持ち悪いなら吐いちまえ。ここに吐いていいからさぁ!」
着ていた寝間着を示すと、苦しそうに首を振る。

「…なら少し我慢しろ」
炭治郎の腕を外し、その腰と膝裏を持ち上げる。

呼吸を使い、炭治郎を揺らさぬように注意しながら風呂場へと運ぶ。
すでに湯は冷めてはいるが、それでも体を流すのに問題あるほど冷めているわけではない。

「吐きたかったらここに吐けよ」
抱いて運んだ炭治郎の体を壁にもたれさせ、その膝の上に盥を置く。

善逸は炭治郎ほどには鼻はきかないが、微かに残る腐臭が鼻をつく。
残り香でこれなら、戦いの最中はさぞや辛かっただろうとそう思う。

「風呂に入る力は残ってんのか」
「…早く脱ぎたい…、臭いが籠もっていて辛いんだ…」

常になく弱っている炭治郎を前に善逸は奮起した。

「わかった」
ぱちぱちと指をかけ、炭治郎が着ている隊服の釦を外す。
それを肩から落とし、脱衣所の隅の方へと放り投げる。
同じように脱がせたシャツも放る。
明日の朝、洗濯に出しておけば良いだろう。
とにかく今の間は、臭いが染みついているものをなるべく炭治郎から離してやらなければならない。

上半身が露わになった炭治郎が、善逸の体に凭れかかる。
そのまますんすんと鼻を鳴らしているのに気付き、善逸はその頭髪を掻き回す。

『善逸からは、優しくて強い匂いがする。俺は善逸の匂いが1番好きなんだ』
そう言っていた炭治郎の笑顔を思い出す。

「少しでも楽になるんなら嗅いどけよ。今脱がしてやるからな」
がちゃがちゃと音をさせながら、炭治郎のベルトを外す。

膝の上に置いていた盥がかたんと音を立てながら転がっていく。
より深く匂いを嗅ごうとするように、炭治郎の手が善逸の着ている寝間着の袂を広げ剥き出しとなった肌に顔を押し当てている。

緩くなったズボンを下へとずらし、自分の体に凭れてぐったりしている炭治郎の腰を持ち上げる。
左手で抱いた炭治郎の腰を浮かせ、そのままズボンを取り払う。

下履きにも手をかけて、同じように引き抜いていく。

一糸纏わぬ姿となった炭治郎が、善逸の首元にしがみつく。
匂いを嗅ぐのに必死になっている炭治郎のしたいように身を任せ、善逸は自分も寝間着を脱いでいく。

流石にこの状態の炭治郎を一人で風呂場へ行かせるわけにはいかない。
風呂場で倒れでもしたら大事だ。
自身も全てを脱ぎさり、しがみついている炭治郎の腰を抱えあげながら風呂場へと入る。

「お湯、かけるぞ。ちょっと目を瞑っていろよ」
ざぶりと湯を掛けると、炭治郎が軽く息をつく。
「何回か掛けた方が良いか?」
声を掛けながら何度も何度も頭から湯を掛ける。

…こちらの離れの風呂の湯も沸かしておいて本当に良かった。
善逸もまたほっと息をつく。

本来この離れの風呂は、離れに誰もいなければ沸かすことはない。
今夜はたまたま善逸だけが泊まっていたのだが、一人しかいないときは普段なら母屋の湯を使う。
だが今日は、夜半に炭治郎が戻ってくることを知っていた。

夜遅く母屋を騒がせるわけにはいかない。
それで離れの湯を沸かし、先に自分だけ入っていたのだ。
蓋をしていたからか、湯の温度もそこまで下がってはいない。

湯浴みのお陰か、先程より血色の良くなった炭治郎を見つめる。
どうやら吐き気も収まって来たようだった。

シャボンを泡立て、炭治郎の体を洗う。
急いでいたので手拭いを忘れてきてしまった。
互いにずぶ濡れのこの状態で、今更取りに戻るわけにもいかない。

そこで善逸は、泡立てたシャボンをそのまま自身の手のひらで炭治郎の体へと擦りつけた。
濡れた赤い髪を洗い、顔も洗う。
顔周りは特に念入りに洗っておいた。
少しでも鼻が楽になれば良い。そう思ってのことだ。
頃合いを見計らってざぶりと湯を掛け泡を流し、次は再び泡立てたその泡を肩へと滑らせる。

肩を撫で、背中を撫で、胸元を撫で、足を撫でた。
どうしようかと瞬間思案はしたものの、ここまですれば後はついでとばかりに炭治郎の下肢へと手を伸ばす。
いまだにぐったりとしたまま善逸の体に自身の体を預けている炭治郎からは、先刻からずっと激しい音が鳴り響いている。
臭いを洗い流すためとはいえ、湯あたりさせてしまっては元も子もない。
手早く洗わなければならないのだ。

「…ちょっと、触るぞ」
一応声を駆け、炭治郎の陰茎をするりと撫でる。
陰嚢の辺りを撫で、尻にも手を這わす。

他の男が相手なら考えられないが、炭治郎なら別だ。
それだけ心を許しているし、炭治郎も許してくれていると思っている。

善逸自身はすでに湯浴み済みだ。
なので軽く湯を流すだけにする。

そしてしばし思案する。
手拭いがないと言うことは、体を拭くためのものもないと言うことだ。

流石に2人揃ってびしょ濡れで部屋まで戻るわけにはいかない。

そこまで考えて、善逸は自身が脱ぎ捨ててきた寝間着のことを思い出した。
柔らかな木綿で作られたあの寝間着なら、手拭いの代わりにもなるだろう。


炭治郎を抱えたまま脱衣所へと戻り、揺らいでいる炭治郎の髪を拭き体を拭く。
そして自身の体を簡単に拭う。

ここが誰も来ない離れで良かった。
せっかく脱がせた隊服を着せるわけにも行かないし、2人分の水分を吸った寝間着を着せるわけにもいかない。

そこで再び炭治郎の腰と膝裏を持ち上げて、横抱きのまま部屋へと向かう。
互いに全裸ではあるが、誰かに見られるわけでもないし非常事態なので仕方がない。
善逸は割り切るのも早かった。

炭治郎の体から剥ぎ取った隊服も濡れた寝間着もそのままにして脱衣所を後にする。
炭治郎の体からはずっと激しい濁流のような音が渦巻いている。
早く落ち着かせて眠れるようにしてやりたい。
善逸の頭の中にはそればかりがあった。

部屋へと戻り、炭治郎の体に寝間着を着せかける。
下履きはないがまぁあとは寝るだけなので構わないだろう。
そう思って、軽く巻き付けた寝間着に帯だけを巻いておく。

自分も予備の寝間着を羽織り、帯を結ぶ。
厨へと1人出向き、水を満たした水差しと湯飲みを2つ盆に載せて部屋へと運ぶ。
炭治郎の顎を引き湯飲みに満たした水をこくりと飲ませる。

はぁ、と熱い息を吐いてはいたが、顔の血色も良くなっているし心音も強くなっている。
変わらずばくばくと凄まじい音を立ててはいたが、その音からは元気さを感じ取ることが出来る。
少なくとも帰ってきた直後のような軋んだ痛みを感じさせるものではない。
そのことに安堵し、善逸は炭治郎の頭を柔らかく撫でていった。

「大丈夫そうだな。あとはあれだ、しっかり寝てたら治るって」
頷きながら空になった湯飲みを受け取り盆へ置く。
布団を敷き、そこへ炭治郎を寝かせようと思ったときだった。

善逸の視界がいきなり反転したのだ。

「え…?なになに?どうしたの炭治郎?」
簡単に羽織っただけの寝間着はすでにはだけている。
炭治郎の視線が善逸の姿を頭の先から足の先まで舐め回すかのように這う。
善逸の四肢を押さえつけ、荒い息を吐く炭治郎を見ても、善逸はまるで警戒などしていなかった。

「まだ辛いのか?いいぞ、俺の匂いならいくらでも嗅いどけ」
そのまま炭治郎の頭を抱き寄せて自身の胸元へと引き寄せる。

「このまま抱っこで寝てやろうか?俺の匂い好きだもんなぁ炭治郎は」
頼られているみたいで嬉しい。
思わず笑みがこぼれていく。
それで善逸は炭治郎の体を抱きしめるようにしながら布団を引き寄せた。

炭治郎から鳴り響く音がどんどん大きく強くなる。
その音を聞きながら善逸はうとうととし始める。

温かな体。
何よりもいっとう大好きな炭治郎の音。

帰ってきたときのあの弱々しい音がこんなにも力強くなってきた。
そのことを単純に喜びながら瞳を閉じた。

元々それまでは眠っていたのだ。
また温かな湯を浴び、炭治郎の体温と音にくるまれていては起きてなどいられない。
それでうつらうつらしていたから、炭治郎の指が自身の体をなぞり始めたことにも意識を向けることはなかった。

『善逸の匂いを嗅いでいると落ち着いてよく眠れるんだ』
そう言っていた炭治郎の言葉を思い出しながら微睡む。
だから、炭治郎の手のひらが寝間着の袷をこじ開けて侵入してきたときも、裾を広げて足を撫でさすって来たときも、善逸は全くそういう意識は抱いてなどいなかった。

すんすんと匂いを嗅がれ、その鼻が肌に触れても、唇が肌に触れても気にはならなかった。

「…足りない…、もっと…」
そう言いながら炭治郎が寝間着をはだけさせ肌に吸い付いてきたときもほとんど微睡んだままだった。

善逸にとって大切なのは、炭治郎の音が元気に鳴り響いていることだ。
音が霞んでいたり歪であったりすればすぐに目を覚まし駆け寄るが、このときはそうした音だとは感じなかったので本当に何の気なしに炭治郎の頭を撫で続けていた。

寝間着が肩から滑り落とされても、帯を引き抜かれても、肌の上を舌と手のひらが這いずり回ってもどうでも良かった。

炭治郎が元気を取り戻したみたいで良かったなぁなどと、のほほんと考えながら微睡み続けていたのだ。


違和感を覚えたのは、下履きをつけないまま寝てしまっていた体の、本来下履きに覆われているはずの場所を炭治郎の手のひらがぐ、と握り込んできたときだ。

「…ん…?」

微睡みからゆるゆると引き戻される。
やんわりと陰茎を握り込まれ、お尻の割れ目の辺りをなぞられる。

「…んん…?」

微かに声を上げると、耳朶を食みながら炭治郎の声が耳を犯す。

「…もっと、匂いを嗅がせて貰っても良いだろうか…?」
その声色の優しさに、思わずとろんとしたまま頷く。

炭治郎の舌が善逸の唇をなぞる。
んあ、と思わず口を開けると、隙間からするりと舌が入りこんで来た。
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