鬼滅の刃

□外堀から埋めていく長男とわかっていない善逸
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色々な記憶を思い出し、善逸はその場で悶える。
「俺のせいかよ!そういや俺、あいつに禰豆子ちゃんがどれだけ可愛いか喋っちゃったわ!!」
蒼白になり、思わず立ち上がる。

「治療してくれてありがとうアオイちゃん!」
「…えぇと…、禰豆子さん、ですか…?」
アオイが戸惑った音を立てていることに、善逸は気付かない。

「俺、炭治郎に謝ってくるよ!!」
「…あぁ…、それは…。そうして貰えるとこちらも助かります…」


「色々とありがとねアオイちゃん!!」
アオイを残し、善逸はそのまま走り出す。
普段なら廊下で走ってはいけません!などと言うはずのアオイも、今夜は何も言わなかった。





「…多分、善逸さんは勘違いをしています…。炭治郎さんが怒っていてとても怖くて、誰も近寄れないから…。それですいません、善逸さんを差し出そうとしているだけなんです。私はお礼を言われるようなことを何もしていません。むしろ善逸さんの身を危険に晒しています。…でもきっと、多分、両想い…ですよね…?大丈夫ですよね…?炭治郎さんのことは信じていますが、無体を働かれそうになったら逃げてくださいね?雷の呼吸とその脚力を、私は信じていますので。…昼からずっと炭治郎さん、本当に般若みたいで怖くて誰も近寄れなくて、普段の炭治郎さんとはまるで違うんです。今日来た彼は一体誰だったんですか?善逸さんに心底惚れ込んでいたようで、最初から炭治郎さんには敵意を向けていました。…彼に一体何を言ったんですか、善逸さん。あの人があれだけ炭治郎さんを敵視していたと言うことは、善逸さんだってきっと炭治郎さんへの恋心がありますよね?大丈夫ですよね?私、炭治郎さんを犯罪者にしようとしているわけではないですよね…?…信じています。善逸さん。炭治郎さん」

アオイは祈るように胸の前で腕を組む。
囁くように喋り続けていた言葉は、善逸へと向けた言葉なのだ。
彼の耳ならきっと届く。
いくら何でも状況も分からないまま飛び込んでいくのは危険すぎる。
だからアオイは贖罪のつもりで語り続けたのだ。
善逸に届けたくて。
今善逸を待ち受けているものがどれだけ危険であるのか知らしめるつもりで。

だがアオイは失念していた。
炭治郎や禰豆子のことで頭がいっぱいになっているときの善逸は、他の音を拾う余裕など全くなくなってしまっているということを。













「たぁんじろぉぉぉ!!!」
善逸は泣きながら部屋へと飛び込み、いきなりの物音に目を覚ましてしまったらしい炭治郎の眠っていた蒲団、その胸元へと飛び込んだ。
慌てて炭治郎は鍛えた体で受け止める。
その衝撃で、怒りでふつふつとしながらも、何とか微睡もうとしていた体が一気に覚醒へと向かう。

「ぜ、…ぜんいつ…!?」
驚いた顔のまま、慌ててその体を抱えたまま半身を起こす。

「ごめんねごめんねぇぇぇ!!」
泣きじゃくり、炭治郎の胸にすりすりと頬を押し当ててくる善逸の姿に、炭治郎の音が一気に弾む。

「俺のせいでごめんねぇぇ!!禰豆子ちゃんがどれだけ可愛くて、炭治郎がどれだけ優しくて頼りになる奴かを散々喋っちまったからさぁぁぁ!それで昼間絡まれちゃったんだろ?本当にごめんなぁぁ!!」
涙の雫が頬を伝う。
その綺麗な水滴を、炭治郎の指先が拭い取る。

「…禰豆子?…俺…?」
ぼやけた頭にはうまく理解が出来ないが、昼間のことを聞き及んだ善逸が何らかの勘違いをしているらしいと言うことだけには気が付いた。

「だって俺、炭治郎のことも!禰豆子ちゃんのことも!大好きだからぁぁぁ!」
首筋に回された力強い腕が、炭治郎の体を抱き込んでいく。

「だから自慢しちゃったの!すごく優しくて可愛くて大好きだって自慢しちゃったんだよぉぉ!まさかそれで禰豆子ちゃんに懸想する奴が出てくるなんて思わなくてさぁぁ!でもそうだよね!禰豆子ちゃん可愛いもんな!そりゃ話を聞くだけで懸想する奴が出てきてもおかしくないよなぁぁぁ!!」
完全に誤解していると言うことには気が付いたものの、まさか本当のことは口に出せない。
彼はお前に懸想していたんだと、そう善逸に教えてやるつもりなど毛頭ない。

「…大丈夫だ。彼には穏便に引き取って貰った。…きっともう諦めるだろう…」
まろい頬を両手で挟み込む。
そうして少し力を込めると、善逸の頬がむにゅっと押され、柔らかな唇が薄く開く。
その隙間からちろりと覗く赤い舌に、炭治郎の下腹がずくんと疼く。

「良かったぁぁぁ…」
安堵したように息をつく善逸を見て、炭治郎もまた顔が緩んでいくのを感じた。

「安心したら腹減ってきた…。一寸湯を浴びてくるわ。そしたら厨で何か摘まんで来ないとなぁ」
「それなら俺も一緒に湯を浴びよう。実は少し冷えてしまっていたんだ」
そう。
善逸を諦めてくれ、絶対に譲れないのだと言い募る彼を見て、その匂いを嗅いだときからずっと。
炭治郎の心は冷え切ってしまっていたのだ。

「そうなの?んじゃ一緒に風呂行こうぜ!…思い出したら怖くなってきた。俺、今回もまた単独任務でさぁ。鬼が沢山いたのよ。…でも、俺が頭をぶつけて気絶してる間に全部逃げちゃってたの。…うぅぅ…。怒られちまうよぉぉ…」
ぐすんと鼻を鳴らす善逸の手を握る。
「大丈夫だ。善逸は強い。鬼は全部切り終わっているはずだ」
「…お前さん、時々意味の分からんこと言い出すよな…」
そう言いながらも、善逸は炭治郎の手を振りほどかない。

そのまま2人で手を繋いだまま風呂場へと向かった。
衣擦れの音を立てながら、善逸がその肢体を隠していた衣服を脱ぎ払うさまを、炭治郎はただただ見つめた。
さらさらという衣擦れの音が響く度、白い肌が露わになっていく。

炭治郎と善逸は、ほとんどその体格は変わらない。
身長も体重もほぼ差異はない。
それでも何故か善逸は、いつも見上げるように炭治郎を見つめる。
その視線の琥珀がとても綺麗で愛しくて、炭治郎は見つめられるだけで心が浮き立つのを感じている。

一糸纏わぬ姿となった善逸が、「行こうぜ」と気軽に炭治郎を振り仰ぐ。
その後ろ姿を思う存分眺めながら炭治郎も後を続く。

引き締まった体。
上半身は細く、足にはかっちりとした筋肉をつけて、実に美しい体だと炭治郎はそう思っている。
髪の色と同じ色の体毛。
それが一層煌めきを増しその白い肌を引き立て輝かせている。

風呂場で並んで体を洗う間も、しっかりと視線を這わせ続けた。
白い胸。
白い下腹部。
金色を纏った下肢。
鍛えている体であっても、それでもその筋肉はあくまで柔らかいのだと言うことを炭治郎は知っている。

触れたい。
口付けを交わしたい。
その全身余すところなく、舌を這わせて、それから…。
そんなことを考えながら視姦し続けていた。

善逸はまったく意に介すことすらなく、ざぶりと湯を掛けた後、湯船へと体を沈ませていく。
「炭治郎も来いよ。冷えてるんだろ。一緒にあったまろうぜ!」
にぱりと笑まれ、炭治郎もつられたように笑んでいく。

不思議なものだ。
そう考える。
先刻までずっとこの心は冷えていた。
善逸に懸想する男が現れて、真っ直ぐ自分に宣戦布告をしていったのだ。
彼は善逸のことを、『善逸さん』と名前で呼んだ。
善逸から饅頭を綺麗に半分こされたのだと自慢してきた。
どれだけ優しくされたか、星明かりの下で輝くあの金色がいかに美しかったか。
そんなことをつらつらと語っていた。

炭治郎はそれに激昂した。
善逸は俺のものだ触るな近寄るな懸想するなと厳しく詰め寄った。
なほたちが怯えて涙を浮かべるほど、驚いたアオイが慌てて3人娘を離れた場所へ避難させるほど、その怒りは凄まじかった。
肋を折ってやらなかったのは、頭突きをお見舞いしてやらなかったのは、本当にたまたまのことなのだ。
もしここでこいつが怪我をして蝶屋敷へと滞在することになってしまったら。
今日明日のうちには帰ると言っていた善逸と鉢合わせてしまう。
それを思い出し寸前でとどまった。

それでも炭治郎の怒りは相手に伝わったようで、最後には酷く怯えたような匂いをさせていた。
二度と来るな、近寄るな。
そう叫んでその背中を追い払った。
それなのに彼は帰り際、「明日また来ますから…!」そう叫んで帰って行った。

そうして誰も近寄れないほど怒りを爆発させ、追い払われるかのように離れの部屋へと引き込もらされ、仕方が無く寝ようとしたが到底眠れるものではなかった。

…そんなところへ、善逸は帰ってきてくれたのだ。
そして胸の中へと飛び込んできてくれた。
温かな体を絡ませてくれた。
そのことだけで、こんなにも気持ちを上向かせてしまうのだから、本当に善逸は凄い。
そんなことを思いながらも、炭治郎の目線はずっと善逸の体の上を這い続けていた。

「風呂から上がったら、善逸は部屋で休んでいると良い。俺が厨で何か見繕ってくるから。任務で疲れただろう?」
そう言うと、嬉しそうにこくんと頷く。

「炭治郎は優しいよなぁ。俺、炭治郎のこと大好きだよ」
「あぁ。俺もだ。善逸のことを大好きだし、誰よりも愛している」
「駄目でしょ。そこは禰豆子ちゃんが一番でしょうが」
ちろりと睨まれて、思わず相好を崩してしまう。


部屋へと戻った善逸を見送り、脳内で先ほどの淫らな光景を反芻する。
白い体。
それを押し倒し陵辱する己の姿までをもきっかりと思い浮かべた。

残っていた飯をおにぎりにして、それに醤油を垂らし焼きおにぎりを三つ用意する。
残っていた味噌汁を温め直す。
香の物を添え、2人分の茶を淹れ、整えたそれらを盆に載せて部屋まで運ぶ。

この廊下からでも薫る甘い匂い。
優しくて強くて、いつまででも嗅いでいたくなる柔らかい匂い。
それをすんっと胸に吸い込む。

部屋へと戻ると、いつもの通り寝間着を着崩した善逸がそこで寛いでいた。
「良い匂い!ありがとう炭治郎!」
満面の笑顔で自分が作ったものをまくまくと頬張る姿を愛おしく見つめる。


「…そういえば、ちょうど良かったな。間に合ったぞ善逸。前にしのぶさんが言っていただろう。明日が丁度その日だ!」
「え?明日?」
「予防接種の日だ。最近流感が流行っているらしいからな」
「…えっ…。あの、怖い奴…?…あれ、明日なのかよ…」
ぶるりと震えるその背中をなぞってやる。

「大丈夫だ。俺がついているからな。何があっても俺はお前を手放さないぞ、善逸!」
「たぁんじろぉぉ!!怖いよぉぉぉ!!」
ぐすんぐすんと抱きついてくる体をひしと抱き寄せ、その綺麗な体を形作る稜線を撫でさする。
薄布一枚隔てただけの温かな体をくるみこむように、肩を撫で、背中を撫で、そして尻も撫で弄った。

ー…明日来る、と彼はそう言っていた。
きっとあの男もまた、明日の予防接種に来るのだろう。
そんな理由でもなければ、『柱』の屋敷でもあるこの蝶屋敷には足を運びにくい。
だからきっと、今まで追い払ってきた奴らもまた、善逸と会えるであろう明日の予防接種を狙ってくるに違いないのだ。

…今度こそ、あいつらの恋の息の根を止めてやる。
善逸は余すところなくその全てが俺のものだ。
それを思い知らせてやらねばならない。
その代わり俺は自身を善逸へと差し出す。
そして2人で禰豆子を守るのだ。
そう決めているし、善逸だってずっとそうしてくれている。

そんな決意を固めていると、善逸がうつらうつらとし始めていることに気付く。
お腹がくちくなったからなのか、任務の疲れが出たからなのか。
…それとも。
…俺の音を聞いて、安心したせいなのか。

とろんとしている善逸の体を抱き込み、その項へと唇を落とす。
啄むように食み、ちゅっと軽く吸う。
全く抵抗をする気配のない善逸を見て取り、強く何度も何度も吸い上げていく。
そうして刻まれた赤い痣。
それを三つほど刻み込んだところでようやく、炭治郎は善逸の体を自身の蒲団の上へと抱き上げる。
そのまま同じ蒲団へと潜り込み、匂いを吸い込みながらその体をぎゅうっと抱きしめる。

「…愛しているよ、善逸。…俺にはずっと、お前だけだ…」
すやすやと呼吸を紡ぐその唇に、自身の唇をそっと重ね合わせた。


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