鬼滅の刃

□外堀から埋めていく長男とわかっていない善逸
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「や…、やだぁぁ…、たんじろ…、俺無理…むりだよぉぉぉ…」
ぐすんぐすんと泣きながら、それでも善逸は炭治郎の体にしがみつく。

「こわい…、こわい…」
裸の胸が炭治郎の裸にしがみつき、その肩の辺りに唇を押し当てる。

「おれ、は、初めてっ…!なんだからな…!だから…、こんな…、む、むりぃ…」
熱を帯びてしっとりとした体を炭治郎に押し当てるかのように、善逸はその首筋に腕を這わす。

「い、痛いんだよな…?なぁ…痛いんだよなぁ…?」
涙を零しているその潤んだ琥珀が、炭治郎の赫灼と絡み合う。

「なにか言ってくれよぉ…、ぐすっ…、なぁ、…たんじろ…」
素肌の上に炭治郎の羽織を羽織らされ、腰を支えられ、善逸は炭治郎の体に腕を絡めてしがみつくしか出来ない。

「…俺の肩に、歯を立ててくれて構わないから…、だから、なぁ…、善逸…」
くるみこむような甘い声で、炭治郎が優しく背中を撫でる。

「ゃっ…!むり…!!そんな…、そんな太いの、入らないっ…!」
いやいやと頭を揺らす度、金の髪が炭治郎の頬を擽っていく。

「…ゃ、だぁ…!こわい…、助けて…たんじろ…」
ぐすんぐすんとしゃくり上げている白い肌を、炭治郎の手が優しく撫でていく。

「大丈夫だ、善逸。…こうして俺に抱きついていてくれれば、大丈夫だから…」
肉刺の潰れた厚い手のひらが、肩を撫で、背を撫で、腰の辺りを愛おしそうに撫でていく。

「た、…たんじろぉ…」
甘い声で名を呼ばれた男が、両手で柔らかくその尻を揉む。

「…んんぅぅっ…」
炭治郎の唇が、食むようにまろい頬をなぞっている。

「…俺の音だけを聞いておいてくれ…善逸…」
優しい声が届いたのか、善逸は覚悟を決めたように、こてんと体を炭治郎へと預けていく。

「たんじろ…、…っく…、ぐすっ…」
差し出された体を愛おしそうに慈しみながら、炭治郎がその耳朶を口に含みながら白い腕を撫でていく。

「…こうしている間に、終わるからな…。噛み痕でも爪痕でも、俺の体に刻み込んでいてくれ…」
じゅくりと音が立つほど強く耳朶を吸い上げる。

「…ひぃゃぁぁぁっ…、んぅぅ!!み、耳、だめぇぇ…!」
強く吸われ、舌を這わされ、ちゅくっと音を立てるかのように啄まれ。
その刺激に耐えられず、善逸は一層激しく炭治郎の体へとしがみつく。

「…好きだ。善逸。愛してる。…善逸も、俺のことを好きだろう…?」
善逸の指先が炭治郎の剥き出しの背を伝う。

「…たんじろ、のおと…!…が、…いちばん、すきぃ…!」
爪も短く切り揃えられている、剣士として手入れされているその指。
それが、鍛えあげられた肌の上へと柔い指先だけを滑らせていく。

「…や、あぁぁぁっ…!いた…、いたいよぉぉ…!!」
ぽろぽろと零れ落ちていく涙を、炭治郎の舌が全て舐め取っていく。

「好きだ。愛してる。善逸」
耳朶を舐め、頬を食み、涙の雫に舌を這わせるその男の眦は、どろりとした熱に犯されている。

「…んっ…!ぁっ…!熱いっ…!」
一際大きく声を上げる善逸の体の、その腕が跳ねる。
その声に浮かされるのか、炭治郎は指先が白くなるほどの力で善逸の体を抱き潰す。

「…よく頑張ったな…、偉かったぞ、善逸…」
柔らかな金の頭に顔を埋め、すんすんと匂いを嗅ぐ。

「…いたい…、あつい…、たんじろ…」
蕩けた蜂蜜のような濡れた瞳が、炭治郎を上目遣いで見上げその欲を煽り立てる。

「大丈夫だ。…善逸には俺がついているからな…。善逸は俺だけのものだ。…誰にも渡さないし、触らせない…」
汗に濡れた額に口づけ、流れた涙の後を追いかけるように舌先でなぞる。

「…干菓子があるから、あとで一緒に食べような…。よく頑張ったぞ、善逸」
炭治郎の優しい声と善逸が泣きじゃくる声だけが、部屋の中に反響する。

「…ん…」
腰を抱き込むようにして、炭治郎は愛おしそうに金の髪へと口づけた。















ー…俺達は一体何を見せ付けられているんだ…。

村田は完全に引いていた。
その周囲には20人ほどの隊士達が列をなしている。

ー…あぁ…。でも、ある意味これも竈門の計算か…。そういう意味じゃ、あいつの完全勝利だな…。

村田には、良く聞こえる耳も良く嗅ぎ取れる鼻もない。
それでもわかる。
我妻に懸想していた奴らが数人、この世の終わりのような顔で立ち尽くしている。

ー…それにしてもあれはやりすぎだろ…。どれだけ牽制してくるんだ竈門の奴は。
ー…そもそも我妻の首筋。…赤い痣がいくつかちらちら見えていたぞ。あれ絶対任務で出来た痕なんかじゃないだろ。
ー…もしかしなくても、あれはあれだろ。ほらあれだよ。…っていうか竈門…あいつ本気で容赦ねぇな…。
ー…あぁあ…。我妻が正気ならきっと、この場所に見知った顔をいくつか見て取って、そいつらの恋が壊れるときの音を、絶対に聞き咎めていたはずなのになぁ…。
ー…まぁそうなっていたらなっていたで…。結局竈門を喜ばせるだけになるか…。

そこまで考えていたら、いよいよ自分の順番が来たらしい。それを見て取って、村田は剥き出しの腕を「お願いします」と差し出した。

「はい。村田さんですね」
名前を確認した後、蝶の飾りを2つつけたアオイが注射器をかざす。

「…なんか、あいつらが五月蠅くしててすいません…」
なんとなく居たたまれなくなり、村田は後輩の所業を謝罪する。

「まったくです。ただの予防接種だというのに、善逸さんは騒ぎすぎです」
そう言いながら、アオイがちらりと部屋の中に視線を這わせている。

「…まぁ、ある意味効果はあったのでしょう。なので不問にします。…結構大変なんです。善逸さんに関しては」
我妻に懸想していた奴らのうち、5人ほどが泣きそうな顔でそれでもそのまま部屋を出て行く。
きっとこのまま人気が無いところで泣き喚くか、そうでなければ厠にでも飛び込むのだろう。

ちくりとした痛みの後、太い針から薬液が入る熱い感触が腕を這う。
確かに楽なものではないが、普段の鍛錬と鬼を狩る任務のことを考えればどうということはない。

「はい、終わりました。半日ほどは様子を見てください。何かあったらすぐ蝶屋敷へ来てくださいね」
てきぱきとした仕草のアオイに礼を言い、村田はその場をそっと離れる。



街では近頃、性質の悪い流感が蔓延っていた。
それを憂いた蟲柱が薬を調合し、隊士全員に予防接種をさせるようお館さまへと進言した。
それでこうして、いくつかの拠点で隊士達は全員予防接種を受けることになっている。

…ただ、それだけのことだったのに。
何がどうしてああなった。

先ほど見掛けたあの2人の痴態を思い出す。

我妻の方はきっと何も考えてはいない。
ただ純粋に『初めての注射』が怖くて泣き喚いていた。

だが竈門の方は、ずっとあからさまな牽制の視線を他の隊士達へと向けていた。
注射を打ちやすいよう、男は全員上半身裸で並べ。
本当にそれだけの指示しかなかったのに、わざわざ我妻に自分の羽織を着せかけて、他の男達にその裸体が見えないよう警戒していた。

…そこで何故竈門の羽織なのか。我妻だって似合いの羽織を持っているだろうに。
理由など分かりきってはいるが、考えすぎると頭が痛くなる。

そもそも我妻が男にもてすぎなのが悪いんだよ。
あれでなんで自分がもてないって思い込んでいるのか正直理解できない。
女の子にだって一応もててはいるようだが、周りを固めているのが男だらけで入り込む隙間さえないのが現状だ。


先刻は我妻がずっと恐慌状態だったのを良いことに、竈門がなんだか色々なことをしていた。
このままこの場所で接吻してしまうのではないかと見ている方が警戒するほど、竈門の方は完全にその気だった。
そもそもこの部屋へと足を踏み入れたときからずっと、いや恐らくはあいつらが寝泊まりしている離れの部屋から出たときからずっと、我妻の足は床を踏んではいない。
ずっと竈門の腕に腰掛けるかのようにして抱かれ、その体の全てを竈門に預け、そして注射を打たれ泣きながら連れ去られて行った。
我妻を抱いたまま、我妻が気付かない間に竈門は自身の予防接種を終えていた。

それでも我妻が竈門の体にしがみついて唯々諾々とされるがまま受け入れていたりするから、恋心を粉砕された隊士が数人、きっと今頃泣いていたり厠に籠もったりしている。

ー…竈門は我妻のことを好きだ、愛していると言ってはいたが。
ー…我妻が好きだと言ったのは、あくまで竈門の『音』の方なんだよな…。

はぁ、とため息をつく。

とりあえずここまで来たのだから、あの2人にも挨拶をしておかねばならないだろう。
あの猪、何で今日に限って任務なんだ。
せめてあいつがいれば、あの2人に対して鋭くて無心で冷静な指摘をしていたに違いないのに。

そもそも我妻の体を撫でていた竈門のあの手のひらだって、本当は隊服のズボンのその中へ押し入ってしまいたいと願っていたに違いないのだ。
ああして我妻がしがみついているから、そのベルトを外すことさえも出来ないでいただけで。
人目がないところで我妻があんな風にしがみついてきたら、竈門は我慢できるのだろうか。
我妻はのべつ幕なしにああして竈門にしがみついているのだろうし、俺達が見ている前ですらあんなに我慢できない竈門が、二人っきりで我慢できるとは到底思えない。

はぁぁ、ともう一度ため息を吐き出しておく。
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