鬼滅の刃

□だって善逸は教えてくれない
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「いや、俺さぁ、むしろ嫌いなんだよ。あいつのこと。あいつも俺のこと嫌ってるし、カスって呼ぶし。でもさぁ。すげぇ努力してんの。俺が使えない雷の呼吸、弐ノ型から陸ノ型まで使えるんだよ。…だから尊敬はしてるよ。やっぱり好きじゃないけどさぁ」
疲れたように語るその言葉からは嘘の匂いは全くしない。

「じいちゃんも手紙書いてるのに、全然返事来ないらしいんだ。俺には勿論一通も返事ないけどな。でもさ。同じ釜の飯食って、家族みたいに暮らしてたわけじゃん。なのに、最終選別終わったら知らない人みたいに飛び出していって、そこから一度も顔見せに行ってないらしいんだ。近場で任務をこなしてても、一度もだぜ。そんなんでさぁ、もう縁も所縁もない人みたいに生きていくのは嫌なんだよ。向こうが繋がるつもりがないんだったら、せめてこっちからは繫がっておかないと。…あんなにじいちゃんに世話になって、じいちゃんのことは尊敬していて好意の音を響かせてたのに、これっきりで終わったら切ないじゃん。…じいちゃんちにいる間から、俺のせいでどんどん音も歪んじゃっててさ。責任感じてるんだ。…だから尚更俺、じいちゃんとあいつとを繋げておきたかったの」
切ない匂いが胸に迫る。

「…誕生日って言うのは。…俺が聞いたときは教えてくれなかっただろう」
「あぁ、じいちゃんが結構こまめに気にしてくれててさ。毎年祝ってくれてたのよ。俺もあいつも捨て子だから、本当に誕生日なんて上等なもんは知らないんだわ。じいちゃんに拾われた日を、じいちゃんが俺達の誕生日ってことにして祝ってくれてただけの話よ」
懐かしむような匂いに、寂しさが少しだけ混じっていた。

「そんだけなのに、何なんだよこれはさぁ。あのクズのことで炭治郎が気にするようなことは、本当に何一つなかったわけなんだけどさぁ」
体のあちこちに残る吸い跡や噛み跡をじっとりと見つめている。

「謝れ。お前俺に謝れよ」
「…本当にすまない」
心の底から謝罪し頭を下げる。

「こんなんが初めてとか数にも入れたくないわ。…だから俺は忘れるぞ。良いな炭治郎」
「それは困る!!好きだ!愛しているんだ善逸…!」
悲壮な声が溢れ出す。
何度も何度も頭を下げる。

「初めてってのはもっとこう、初々しい触れ合いだろうが!お前のこれは何だよ!俺が呼吸使えてて本当に良かったよなぁぁ!?そうじゃなければお前はまごうことなく人殺しだぞ!?わぎゃってんのか!そこんところわぎゃってんのかよお前ぇぇぇ!!」
蒲団に横たわったまま、善逸が涙を零しながら俺を糾弾する。

「すまなかった…!申し訳なかった…!!」
ひたすらに謝罪の言葉を繰り返す。

「いやおかしいからね?…いくら俺が炭治郎のこと好きだからって言っても、これは流石にやりすぎだからね?!」
「え」
「あっ…」
頭を上げて善逸を見つめる。
しまったという顔をして、善逸が途端にそっぽを向いていく。

「…好き…?」
「違う!そんな意味じゃねぇからな!?」
「でも今、確かに善逸からは『恋』の匂いがしていたぞ…!」
「だから嗅ぐなって言ってるじゃろがい!!」
「確かに聞いた!…俺も!俺も善逸のことが好きだ!大好きだ!!」
「うっさいわ黙らっしゃい!!」
「黙らない!!!好きだ!愛している善逸!」
「あぁもう本当いい加減黙れよお前…!!」

真っ赤になった善逸が頭の先まで蒲団をかぶる。
蒲団越しでも分かる、柔らかくて甘いこの匂い。

「…善逸」
蒲団越しに体を揺する。

「なぁ善逸」
揺する度、善逸の匂いが鼻腔を擽るかのように揺蕩う。

「…ここまでしたんだから責任は取れよお前」
「勿論責任は取る!いいや取らせてくれ!…好きだ、善逸。ありがとう」
「もう絶対にこんなの、二度目はないからな!?」
「次は絶対に優しくするぞ!約束する!」
「…わかってんのかよ!俺は怒ってるんだぜ炭治郎!」
「あぁ。ありがとう善逸」
「何がだよ!怒ってるって言ってるの俺は!」
「善逸も、俺のことを好きでいてくれたんだな。それだけで俺は、もう蕩けそうに幸せなんだ」
「だからなんでそこでそんな嬉しそうな音をさせてるのさぁ!謝れよ!おかしいだろ!!」
蒲団から顔を出し、真っ赤になって怒っている善逸の上へと半身を沈める。
そのままそっと桜の花のような唇へ己の唇を重ね合わせた。




「想いが通じ合ってからする接吻は格別に幸せだな」
そう言うと、善逸が耳まで真っ赤に染めて、そうして。

…こくん。

とても小さく頷いて、そうして枕に顔を埋めた。


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