鬼滅の刃

□ごめんね、この人俺の彼氏だからさぁ。
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「…ぁッ…、ゃぁ…」
汗ばんだ白い肌が、ひくりと震える。

「んっ…、ゃ、ゆび…」
壁についている手が固く握られている。

「…、っぜんいつ…、ぜんいつ…」
熱い息が善逸の項を擽っている。

「そこ、…ゃぁ…」
握りしめられている手の甲が白く変じてしまっている。




…どうしてこうなった。
正に今、想い人をその腕の中に囲い込み、その体の稜線を思う存分嬲っている。
それでも炭治郎に余裕は無かった。

今日は2人とも隊服の上着は脱いできている。
部屋に入ってすぐ、炭治郎は善逸の手を引いて奥まった壁際へと足を進めた。
そして両手を壁につかせたまま、その背後から白い体をくるみこむように抱き寄せた。

善逸に見せ付けるようにその体をひと撫でした後、シャツの釦に手を掛け、ぷちぷちと上から1つずつ外していく。
それを3つほど外した辺りで、はだけた隙間から手のひらを忍び込ませた。
しっとりとした胸に厚い手のひらを這わせ、慈しむように右手で撫でさする。

くつろげたズボンの中に左手を入れ、体の側面を伝うように深く腕を挿し込んでいけば、足の付け根の内腿へと辿り着く。
そこをついっと指でつつけば、腕の中で善逸の体が震えていく。

「ぁ、…ぁんっ…!」
甘い吐息。
優しくて強くて…今はとても甘い、その匂い。
腕の中に抱き込み背後から抱きしめているこの体勢では、どう体を捻ったところで蠱惑的な善逸の匂いが胸の中に浸透していく。

ずっとずっと好きだった。
愛しているし、誰にも触らせたくはない。
出来ればこのまま囲い込みたいと願っている。

どれだけ愛を囁いても好きだと告げても、そのたびに躱され続けてきたあの日々を思い出す。






■▽■△■▽■






「好きだ。善逸のことが大好きだ」
「そんな褒めても仕方ねぇぞ!俺だって炭治郎のこと大好きだよぉ!」

「善逸と恋仲になりたいと願っているんだ!」
「励ましてくれてあんがとね!でも任務は交代してくれないんだろ!?あああなんで俺だけこんな単独任務ばっかりなんだよぉぉ!」

「帰ってきたら話を聞いて欲しい!俺は真剣に善逸のことを愛している!」
「うふふっ!あんがとね炭治郎!そこまで言われたら頑張ってこなくちゃだなぁ!」

「お帰り善逸!好きだ!愛している!考えて貰えただろうか!」
「ん?何の話だっけ?あっこれ禰豆子ちゃんにお土産!途中で綺麗な花が咲いてたからさぁ。たまにはこういうのも良いだろ?」
「…あぁありがとう、綺麗な花冠だな。…それで善逸、…」
「この桜色が禰豆子ちゃんにぴったりだろ!見渡す限り一面の蓮華畑でさぁ。今度近くに任務行くことあったら、禰豆子ちゃんと夜の散歩行きたいんだよなぁ。蓮華畑で戯れる禰豆子ちゃんなんてまさに天女だろ!?あああ俺達ついに結婚かなぁ炭治郎!」
「禰豆子ではなく俺と結婚して欲しいんだが!」
「ん?炭治郎結婚するのか?俺を差し置いて!?これだから色男はッ!滅べ!」

そうして何故かいつも最終的に頭を囓られて話が終わる。

何度好きだと伝えても、繰り返し愛していると囁いても、善逸の記憶にすら残らない。
「善逸は強い」
あの言葉と同じように、まるで油で弾くように善逸の側面を滑り落ちて、彼の中には残らない。

いっそ無理矢理、この唇でも奪ってしまえば。
そんな妄執にさえ囚われかけていたあの日々。






■▽■△■▽■







「っ、めっ…!そこ、ばっか…!ゃぁっ…!」
気が付けば右手が勝手に胸の先端を摘まみあげていた。
思っていたより柔らかく伸びるその乳首をずっとふにふにといじくり回していたことにようやく気付く。

「…すまない。こちらにしよう」
ぎゅむっと反対側の乳首をいじれば、善逸の首筋に朱が上る。

「だから…、ちがっ…!」
羞じらいの匂い。
それすらもひたすらに甘やかに炭治郎の理性を締め付ける。

きゅうっと乳首を引っ張れば、つられたように善逸の体が沈み込みそうになってしまう。
それを支えようとズボンに挿し込んだままの左手が、思わずその足の間をがしりと握る。

「…まっ…!あぁっ、めっ、えぇぇっ…!」
下履き越しに感じるその確かな男根の感触に、炭治郎の下腹がどくんと跳ねる。
そのままずらした手のひらが、引き締まった臀部を掴むように揉んでしまう。

下履きの隙間から侵入してしまった指が、するりとその尻の割れ目をなぞっていく。

「…、たん、っじ、ろっ…!」
壁に手を突いたまま、善逸が体を捻り炭治郎の赫灼を見つめる。

囁くような、吐息のような。
耳を澄ましていなければ炭治郎にすら聞き取れないほどの掠れた甘い声が、炭治郎の耳元に唇を寄せていく。

「…無理、しなくていいからっ…!ここの匂いに当てられてるんだろ?…しんどいようなら、俺の匂いだけ嗅いでおけよぉ…」
その濡れた琥珀からぽろりと涙の粒が落ちていく。
その綺麗なひと雫を舌で掬い上げ、なぞるように目尻を舐める。

驚いたような琥珀の色に魅入られながら、その柔らかな唇へと自身の唇を落とし込む。

啄むように何度も食み、かすかに開いた桜色の唇を割り開く。
ちゅくりと舌を絡ませるように吸い上げると、琥珀の瞳がゆっくりと閉じられる。

乳首を摘まみ、足の付け根を何度も何度も撫でさすり、甘やかに唇を合わせながら、炭治郎はその腕の中に抱きしめた想い人の匂いを体中いっぱいに吸い込んでいった。





■▽■△■▽■





「合同任務?炭治郎と?」
「あぁ。そう聞いている。鬼殺隊だとばれないように潜入し、巣くっている鬼を殲滅しろと。そういうことみたいだな」
「炭治郎と一緒なら安心だよぉ!俺を守ってくれるよな炭治郎!」
「善逸は強いから大丈夫だ」
「いや全然強くないわ。巫山戯んじゃないよお前」
「…好きだ。愛してる」
「あらありがと!俺も炭治郎のこと好きだよ!これはもう禰豆子ちゃんと俺の結婚も近そうだな!?」
「結婚なら俺としてくれ」
「あぁ、確かに冗談言ってる場合じゃなさそうだなぁ。今回の鬼、強そうだって書いてあるぞ。そんなのに俺を当てるんじゃないよ!怖いだろうが!」

そう言いながらも善逸の指は、鬼殺の任務を書き付けた紙を広げていく。

鬼が巣くう館。
その館へ潜入し、その鬼を殲滅すること。
そこは陰で有名な交流の場となっており、昼夜を問わず不特定多数の人間が出入りしている。
互いの名前も素性も知らぬまま交流を重ねている輩が多く、いつの間にか相手がいなくなっていても気にも留めず警察などへの届け出もなされない。
その場にいたこと自体が醜聞となるため、聞き込みをしたところで思うような成果が得られない。
だが多くの人間が、その館の中で消えているのは間違いない。
隠からの報告にはそう綴られていた。

その館へ入り込むには入り口での審査を通過しなければならない。
中へ入れるのは男性のみ。
かつ、『そういう』性的嗜好を持った男のみ。

まごうこと無くこの館は、男色を楽しむためだけに存在していた。
恋人同士で楽しんでも良いし、相手を交代しながら楽しんでも良い。
まぐわうための相手を求めるために訪れても良いし、飽きた相手を交代させるために訪れても良い。

肝心なのは、館での出来事を吹聴しないこと。
外で出会しても知らない者として振る舞うこと。
そして、館へ入る際に入館料を1人辺り30銭支払うこと。
それさえ守れば、中でどれだけの痴態を披露しても構わないし、思う存分性欲を満たしても構わない。
館の入り口で木戸銭を徴収している人間と、特別な個室を提供するために更に30銭徴収するために待機している人間と、館側の人間はその2人きりしか存在しなかった。
その男達もまた、黒い布を掛けられた小さな窓の向こう側に腰掛け、金銭の遣り取り以外では客の顔を判別できないようにされている。
非常にわかりやすく、しかし鬼を滅殺したい者には非常に取り組みにくい決まりに縛られた館であった。

「…そこへ?潜入するの?俺と炭治郎が?えっ?…まぁ、遊郭よりはましかぁ」
あっさりと言い放った想い人の横で、炭治郎は背中を流れるような汗が伝っていくのを感じた。

「つまり、俺の耳と炭治郎の鼻が頼りってことか。確かにそれじゃ、鬼は外へ出て行く必要も無いし情報収集にも困りそうだもんな」
な、と羽織の裾を掴まれたときには足が崩れおちそうなほどに、炭治郎は立っているのもやっとという為体であった。

「…中へ入るのに、流石に隊服だと目立つよな。上だけ脱いで行こうぜ。日輪刀は…。あ、これとか良いんじゃないの。三味線入れ」
なんらてらいもなく着々と準備を始める想い人の姿に、胸の奥底が酷く疼いた。

…なんとも、思われていない。
…そういうことをする場所へ、二人っきりで出向くのに。
…あれだけ恋心を打ち明けてきているのに、善逸にはまったく響いていない。

それを思い知らされて、炭治郎の汗ばんでいた肌は急速に冷えていった。





入り口で2人分の銭を払い館の中へと足を踏み入れる。
大きく開かれた扉の向こうへと進んでいけば、いきなり複数の男達から舐めるような視線を向けられた。

「…さすがにあいつらの相手まではしてられんでしょ。…恋人同士のふりしようぜ」
耳たぶを食まれるのかと思うほど近くで囁かれ、かっと顔が赤くなる。

「あっちの、物陰。あそこ行こうぜ。椅子とかテーブルとか、全部先客いるみたいだし。…すげぇな、この音。…大丈夫か?匂いも相当だろ」
腕を取られ、ふらつきそうになる足に気を配りながらも、それでもどうにか善逸の手を引きながら歩みを進める。
2人で本棚の陰辺りにもたれ掛ると、早速男が2人、欲に駆られた匂いと気配をさせながら話しかけてきた。
「ねぇ、初めて見る顔だよね。…どう?」
くいっと善逸の袖を引かれて、慌てて炭治郎はその体を背後に隠すようにして表に立つ。

「あのっ!…彼は俺の、恋人、なので…!」
「いいじゃん、楽しもうぜ。…君でも良いけどさ」
「…駄目だよぉ。今日はさ、こいつが初めてだから、それで勉強のために連れてきたんだよ。初めては俺が貰うんだから、また今度にしてね?」
花が綻ぶようににこりと笑んで、善逸が炭治郎の腰に両手を回して抱きしめる。

「そっか、残念。次は俺の相手してよ。…綺麗だよね、この髪。地毛?」
男が善逸の髪の毛を指に絡め、舐め取るように視線を這わす。
「まさかぁ。こいつが好きだから染めてるだけだよ。じゃあお兄さん、また今度ね」
善逸が手を振ると、「約束だよ」と男が渋々と離れていく。

「初めてなんだねぇ。可愛いなぁ。君はどっち?俺、どちらでもいけるぜ」
残った男がごくりと喉を鳴らし炭治郎に手を伸ばそうとしてくるものだから、反射的に炭治郎は身を捩りその手を躱す。
そのあからさまな態度にむっとしたらしい男が眉を釣上げる。
「ごめんねぇ、お兄さん。この人、俺の彼氏だからさぁ。こんな感じだから、勉強させなきゃ繋がれないやと思ってね。それで俺が無理矢理頼んで来て貰ってるのよ。…だから、また今度。…ね?」
婀娜っぽい上目遣いで善逸が強請るようにそう言えば、男が頬を赤らめて「…あぁ」と言いながら離れていく。
その様子を見て、炭治郎はほぅっと息を吐く。

男達が離れていくのを見て取り、善逸がくすりと笑う。
「こんな場所でも堅物デコ真面目でいたら喰われちゃうよ?ああして軽く躱しておかないと」
「…善逸は…、慣れてるんだな…」
「そりゃ、花街育ちだし?一寸前まで遊郭で人気の三味線弾き見習いしてましたし?」
「…遊郭なら、俺もいたぞ」
「裏方仕事でしょ。表に出てなきゃ、そりゃわからないわ」
あははと笑われ、炭治郎は唇を尖らせた。


「…他にも来られたら面倒だよな。なんかお前さん目立ってるし。…それっぽい雰囲気出しながら、鬼の気配探るぞ」
つんっと袖を引かれて強請られる。
その上目遣いの瞳に吸い込まれるように抱き込めば、善逸がくるりと壁の方を向く。

「本当にしなくてもいいんだからな?無理すんなよ、お前。…顔が見えない方が良いだろ?それとなく触ってるような感じに見えれば良いんだからさ」
そう言って壁に手を突き、自身は『音』に集中するためなのか瞳を閉じる。

それが切なくて寂しくて。
相手にされていないことが悔しくて、炭治郎はその体に手を伸ばした。
後ろから抱き込むように。
壁にもたれる体を包み込み、その足の間に自身の足を挿し入れるようにして。

先ほどの男に触られていたことさえ悔しくて堪らない。
微かに男の匂いがしていることがもう許せない。
それで髪の毛に手を差し入れて撫で回し、唇を押し当てた。
綺麗な金色の毛先を弄びながらそっと口の中に含むと、善逸が面白そうにくすりと笑った。

「たんじろ、くすぐったい」
くすくすと笑うその体をより強く壁と自身の体の隙間に押し込める。
「…それっぽいことをしてろと言ったのは善逸だろう?」
ぷつりとシャツの釦を外すと、ふわりと柔らかくまろい匂いが迸る。
その匂いに酔うかのように釦を3つほど外す。
そのまま襟を後ろへ引き抜き、白い首筋に顔を埋めた。



シャツの中で右手のひらを蠢かせていく。
胸を、腹を、臍を、そして乳首を弄ぶ。
ズボンに挿し込んだ左手のひらで、何度も何度も繰り返し鼠径部を撫で上げる。
「…んっ…、く、ぅ…んっ…」
押さえられている掠れた高音が、より一層炭治郎の情欲を煽り立てていく。

すりっと下履きの中に手のひらを滑らせる。
やんわりと尻を揉み込み、その割れ目を指先で撫でていく。
ぐりっと擦ると、白い体が腕の中で震えていく。

夢の中でも。
1人でするときも。
何度も何度も繰り返し妄想の中貫いてきたその蕾は、硬く引き締まっていて何度擦りあげても指を挿入れられる気配すらない。
足を踏みしめて強張っている体を少しでも解そうと尻を揉み込むと、壁に手を突いたまま半身を捻り、潤んだ琥珀が炭治郎を見上げてきた。
流石にやりすぎたかと思いびくりとする。
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