鬼滅の刃

□我妻善逸は頑張っている
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「どうにかならないものかと思ってるんです」
きよが困ったように眉を下げる。

「炭治郎さん、あのままじゃいつか大怪我をしてしまいます」
なほが半泣きで訴える。

「善逸さんのことを好きすぎて、苦しそうです」
すみが周囲の皆を見上げる。

「善逸さんが炭治郎さんのことを好きになってくれて、恋仲になってくれたら大丈夫だと思うんです」
きよが力説する。

「だって炭治郎さん、ずっと善逸さんのことを見ているもんね。本当に大好きなんだもんね」
なほがきよに相槌を求めていく。

「今の炭治郎さん、危ないです。なんだか、ぴりぴりしていていつもの炭治郎さんじゃないみたい…」
すみが不安そうに視線を揺らす。

「はい。私も同感です。善逸さんは確かに女性が好きだとは公言していますけれど。…ただ、そうするべきだと思いこんでいるだけですね、あれは。しのぶさまに対しても、きよ達に対しても、カナヲに対しても、誰に対しても、すべからく同じ態度です。女性には親切にするもの。女性は助けるもの。…それだけなんだと思います。だから今、特別に何処かの女性を好いているとか、誰かを想っているとか、そういうことはないと思います」
アオイが、一つ一つ言葉を確かめるようにしながら語る。

「竈門の妹は?あれは特別だろ?」
たまらず村田も口を出す。
村田は禰豆子に会ったことはないが、我妻善逸が竈門禰豆子に夢中だというのは周知の事実だ。

「炭治郎さんにとって、禰豆子さんが命よりも大事な妹だからですよ。花を摘んだり、危ないときには助けたり、本人には言えない褒め言葉を聞かせたり、とにかく大事にすると決めているからです。勿論好意もあるんでしょうけど、善逸さんは自分が彼女と結婚するつもりは全くありませんね。『少なくとも俺よりは強い男でなければ許さない』とか言ってましたし」
アオイがため息をつく。
炭治郎へ直接言えないような感謝の言葉、褒め言葉。
それらを禰豆子に聞かせている善逸の姿を、蝶屋敷の女性達は何度も目撃している。

「なら、もう竈門で良いじゃんか。…あいつ、普段は目端がきくのに、なんでこのことに関してだけはあんなにポンコツなんだ…」
呆れたような村田が天を仰ぐ。

「それが善逸さんだから、としか…」
「あいつだって、竈門のことは特別に大好きだろ。距離感近いし、竈門に抱き込まれても髪の毛に接吻されてても嫌がるそぶりの1つだってないからな。他の隊士があんな距離感で近寄ってきたら、すぐに離れて逃げてるくせにな」
「あぁ、たまに見掛けますね…。善逸さんは、何故か男の人にもてるようなので」
「こないだは、蹴り飛ばしてるところを見ました!」
きよが手を上げる。

「せめて竈門が、もっと積極的ならなぁ」
「あれ以上は危険です。今でさえ炭治郎さん、善逸さんを囲い込んで包み込んで、人前でも気にせず髪だの頬だのに触ってますよ」
「…それでなんで、あいつは気付かないんだよ…」
「鍛錬の合間の休憩でも、炭治郎さんの膝の上に抱えられてます。背後から抱きこまれて、胸だの腹だの撫でられています。正直風紀に悪いです」
「あー、あれな。我妻が泣きつくたびに、体を抱きしめながら、たまに尻とか揉んでるもんな…」
「…唇にしていないだけで、接吻はしょっちゅうですよ。なほ達も気付いているくらいですから。…本人だけですよ。気が付いてないのは」
「はぁ…。なるほどね。…わかった。俺からも我妻に話をしておくわ。竈門も良い奴だし、我妻もあれだけ懐いているんだし。…もう早くくっついて欲しいよ、切実に」
「完全に同意です」
村田の言葉に、アオイやすみ達も力強く頷く。

それだけ皆、炭治郎のことが好きなのだ。
太陽のように明るく優しく、その温かさで皆のことを救ってくれる。

そんな彼が、同期の男に恋をしている。
全く脈がないのなら慰めることしか出来ないが、相手である善逸もまた、炭治郎に対して好意を持っているように見えるのだ。
応援したい。
出来れば、この恋が叶って欲しい。
自分たちに何か出来るのならば、成就のための手伝いをしたい。
蝶屋敷の片隅で、有志一同はそのことを互いに確認し合った。











ー…全部、聞こえてるんだよなぁ…。

ハァッと息を吐けば、甘い匂いが鼻腔を擽る。
手にしていた饅頭をむしゃりと食む。

昨日の夕方に任務から帰って、朝方に何かあるかなぁと蝶屋敷の戸棚を開けたら何もなかった。
それで朝から街へ出掛けて饅頭を買い、厨の戸棚に入れて置いた。
今食べている饅頭はその時買ってきた饅頭のうちの1つだ。

多分その時なほちゃん達に「行ってくるね」と挨拶したから、また任務に出掛けたとでも勘違いされてしまったのだろう。
そうでなければ、俺の耳の良さを知っている面々がこんなにも無防備にあんな話をするはずもない。

ー…喉渇いてるんだけど、あっちの厨には顔を出せんなぁ。俺に見つかったら向こうが恥ずかしいでしょうよ…。

自分がいるこの離れにも勿論厨はあるけれど、一寸お茶を飲みたいからと言うそのためだけに、わざわざ竈に火をおこして湯を沸かすのは面倒くさい。
他の誰かがいれば苦にもならない程度のことだが、どうにも自分一人だけのために何かをするのは億劫だ。


むしゃむしゃと饅頭を咀嚼しながら、傍らの湯呑みから水を飲む。

ー…母屋では、皆熱いほうじ茶飲んでるんだよなぁ。
ー…この季節になると、熱いほうじ茶、美味しいもんなぁ。

手の中のそれを食べきってしまい、ごろりと畳の上で横になる。
体にも倦怠感があるし、とにかく気怠い。

ー…皆好き勝手言ってんな。

こんな噂話ですら、誰も彼もが炭治郎の肩を持つのかよ。
ふぅっと息をしてから、大の字になって手足を伸ばす。










皆は知らないんだから仕方ないけどさ。
炭治郎、あんな顔して俺のこと何度も抱いてるんだぜ。

昨夜も随分抱き潰された。
朝になり炭治郎が烏に呼ばれ、爽やかな顔で出ていったあの時。
俺は蒲団の中でずっと、痛む腰をさすりながら掠れた声で唸ってたんだ。

炭治郎ってさ、あんな爽やか男前の顔して、結構すごいの。
昨夜も何回したっけ。
途中で意識が何度か飛んでるから、正確な回数は分からんわ。

俺もさぁ、本当に頑張ってんの。
体力底なしの炭治郎に付き合って、夜通し目合ってたの。
だから体力回復するために、甘い物が欲しくなるんだわ。
俺が甘い物を欲しているときは、前の日に抱き潰されたんだなと思って貰えれば大体正解だ。
いや、こんな関係なんて誰にも知られたくはないけどね。

こんな組織だから周りは男だらけだし、今の炭治郎には女の子を相手にする余裕はない。
それであいつ、簡単に発散させられる相手として俺のこと抱いてるだけなんだわ。

ほらさ、足だって太いし、体も固いし、おっぱいもついてないしね。
つまらん体ではあるけどさ。
それでもあの四角四面の長男は、女の子のところに行くのは我慢して俺を抱いている。
まぁ、男相手でも突っ込めばそれなりに気持ち好くはなれるんでしょうよ。
だから別に、あいつは俺が好いわけじゃないのよ。

たまたま手近にいて、たまたま炭治郎を拒む気がなくて、たまたまそういう関係になるのに都合が良かっただけ。

この離れに居るのは炭治郎と禰豆子ちゃんと伊之助と俺くらいだし、伊之助はそりゃこういう相手には不向きでしょうしね。
おぼこ過ぎるし、そもそもこういう欲求持ってなさそう。
あいつ、毎日山の中走り回るだけで体力消耗してるし、可愛い子から告白されても顔をしかめて即座に振るし。
俺はこういうことも知識としては知ってたし、自分が受け入れる側になることにも抵抗はない。

だけどさ、やっぱり外聞は悪いじゃん。
なので、炭治郎から誘われたときに一つだけ約束をした。

俺との関係を、誰にも漏らさないこと。
もしも誰かに漏らしたら、そこでこの関係を終わりにすること。
誰にも内緒の、2人だけの秘密。
そういうことでなら、俺はいくらでも炭治郎にこの体を差し出す。
炭治郎は多少渋っていたけれど、俺が断固として譲らなかったから条件を飲んだ。
あいつは嘘をつけないけれど、黙っていることなら出来る。
だから、誰に何を言われても聞かれても、下手に誤魔化さず、沈黙していろと頼んでいる。

今のところ特に誰からも聞かれたことはないらしいけど、噂になるほど話題になっているのは困るな。
俺は良いけどさ。
炭治郎が将来結婚するときには醜聞になってしまうだろ。
だからあんまり張り切らないで居て貰いたいな。
村田さんなら、変に噂にするようなことはしないだろうけど。


噂もだけど、炭治郎を刺激するような真似もしないで欲しい。
出来ればこの件に関しては、炭治郎本人にはまったく触れないまま終わって欲しい。

何があいつの引き金になるか俺でも分からないんだわ。
あれだけ何度も体を重ねている割りに、一寸したことでいきなり激しく切れたように攻め立ててくる。
俺が髪の毛を耳に掛けたとか、唇を舐めたとか、唾液を飲み込んだときに喉が上下したとか、訳分からんことを突然言い出しては、「こんなことをされてはいくら俺が長男でも我慢できない」なんて喚いて俺の体を激しく貫いてくるんだ。

ようやく終わったと思っていたのに、そこからまた何度も抱かれる。
出来れば、ああいうことは今後避けたい。
何故って体が辛いので。

まぁ結局、炭治郎が俺の体じゃ満足できないってのが一番の原因なんだろうけどさ。
最中もずっと、物足りないっていう飢えた音させ続けてるし。
そりゃ物足りんでしょうよ。
俺だって何でもしてあげたいけどさぁ、やっぱり女の子とは違うもの。

炭治郎がしたいって時に拒んだことは本当に一度もないし、気絶してる間に抱かれても文句も言わない。
何度も何度も突っ込まれて喘がされて揺さぶられて、声が枯れても愚痴さえ零したりはしてないんだぜ。
まぁ俺の愚痴なんて、そもそも聞いてくれる相手は炭治郎しかいないんだけどさ。

任務の後で、どれだけ体がしんどくても足開いてんの。
眠たくて意識を失いそうなときでも、喘ぎながら受け入れてんの。
炭治郎が強請れば、上に乗って自分から腰振ったりもしてんの。
それでもどうしても足りないってときは、口でしゃぶったりもしてるんだぜ。

女の子大好きなこの俺が!
男の魔羅を!

口に入れて舐めてしゃぶって、吸ったり食んだり飲んだりしてるの。
いや、飲むのはどうなのって俺も思うよ。
えぐいしまずいし、口の中気持ち悪いし、生臭いし、毎回嘔吐きそうになるもの。
でも俺が飲んだら、本当にすごく嬉しそうな音をさせるんだわ。あいつ。

もうさぁ、本当に俺、自分の差し出せるものは全部炭治郎に差し出してるんだよ。
あいつが俺から受け取らないのはもう、金くらいだよ。
今まで付き合ってきた子達は皆、俺の金しか欲しがらなかったんだけどさぁ。
炭治郎は逆なの。
金だけは受け取らないけど、それ以外は俺から一切合切受け取っていくの。

別に無理矢理奪われてるわけじゃないけどさ。
だって、あんな優しい音をさせてる奴がさ、泣きそうな顔で迫ってくるのよ。
好きだ、愛してる、抱きたいって、情火の音を燃やしながら俺の体を抱きしめてくるんだわ。

ならもう、しょうがないかってなるだろ?
炭治郎が欲しがるんなら、全部あげるよってなるだろ?

そうやって、俺は一つずつ差し出してきた。
接吻。
目合い。
口淫。
騎乗位。

してるところが見たいって言われて、炭治郎の前で全部脱いで足を広げて、自慰をして見せたことだって一度や二度じゃない。

『俺の顔を跨いで、その状態で俺のものを舐めて欲しい』とか言われても、拒まず本当にやってんの。
炭治郎の顔を跨いで俺の股の間を見せ付けて、それで炭治郎の魔羅をしゃぶったりもしてやってんの。
しゃぶってる間中炭治郎が俺の股の間を好きなだけ弄んでるから、結局俺も勃っちゃうしさ。
男のものをしゃぶりあげながら勃起するってほど、かなりやばい体に仕込まれちゃってんのよ。

本当に、もう俺に残っているものなんて何もない。
…あぁ、一つだけあったな。
俺が炭治郎を抱いたことだけは、一度も無い。
いつも俺が抱かれるだけ。
最も炭治郎、逆は望んでないから良いんだろうけど。

俺も男だからさ。
いずれは気立ての良い綺麗な音を聞かせてくれる子と結婚して家族になりたいなんて、そんなことを想っていた時期もありました。
でももう無理。
完全に無理。
炭治郎に抱かれることに慣らされすぎてしまった。
もう俺、女の子を抱ける気がしない。
仮に女の子と褥を共にする日が来たとして、俺の方が自然と足を開いて挿れてって強請ってしまいそうだ。
前をそういう目的で使ったことはないくせに、後ろはもう炭治郎のものじゃないと満足できない体にされてしまった。
挿入されて、揺さぶられて、それで絶頂を感じる体。
そんな風に仕込まれ続けた。

だからもう、女の子と結婚することは諦めている。
かといって男は論外だけどな。

炭治郎は大事な友達だから、特別。
伊之助も大事な友達ではあるけど、うぅん。
伊之助が俺相手にそういうことするの、想像さえ出来ないわ。
そんなわけで俺はもう一生、炭治郎しか知らない儘なんだろうなって思ってる。

だから今の炭治郎のあの苛つきに、俺は本当に無関係なんじゃない?
あれだけ温かい陽の光のような炭治郎が、ここ最近は引き攣れるような音を立てて歪んだ気配を醸し出していることがある。
俺だって何とかしなきゃとは思ってたんだよ。
それで昨夜も任務帰りなのに俺から誘って、炭治郎の魔羅を舐めてしゃぶって屹立させて、はしたなく「挿れて」って強請ってみたりもしたんだわ。
願い通り貫かれて揺さぶられて、それで俺自身もあっけなく射精して、その間は炭治郎の音も多少良くなってはいたけどさ、それでもやっぱりあの引き攣れるような音は聞こえてきたわけで。
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