結界師二次創作「兄さんと僕。その7」

□それでも。
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 「…ん…。じゃあ兄さん、キスからしよう…?」

 唇を近づけると、おずおずと兄さんがそれに応えて反応する。

 薄く唇を開いたまま、俺の舌を受け入れる。

 暖房もきいてきたから、部屋も充分暖まった。

 そろりと襟元から手を挿しいれて、小さな乳首を手のひらで撫でていく。

 深いキスを交わしながら、ゆっくりと帯を引く。

 支えを失いはだける着物を、そっと椅子の上へと飛ばしていく。

 俺自身が着ているシャツのボタンを外す。

 兄さんはまったく手伝いはしない。

 そもそもこの行為の中で、自分から何かをしようとする発想がない。

 仕方ないから自分自身で、シャツをはだけさせたままベルトを外しファスナーを下ろしていく。

 拘束をとかれた俺のそれが、より一層膨らみを増していく。

 兄さんの口の中を舐めながらそろりとシャツを脱ぎ捨てる。

 柔らかな下唇をちゅくちゅくと小刻みに吸い上げながらズボンを脱ぎ捨てる。

 兄さんの舌を捉えて絡みあわせながら、残る下着も脱ぎ捨てる。

 兄さんの腰にまとわりつくように反り返る屹立を、それでも兄さんは見ようともしない。

 …兄さん自身は、反応さえもしていない。



 華奢な足。

 それを片方持ち上げながら俺の足をまたがせる。

 兄さんが小さいから、こうしてようやく二人の視線が絡み合う。

 それでも僅かに兄さんの目線が俺より下だ。

 小さなお尻を両手で揉む。

 そっと下着をずらせていく。

 足からそれを引き抜くと、兄さんの可愛いそれが俺の屹立で擦られていく。



 「…ん…」

 唾液を絡ませながら唇を離すと、兄さんが俺の肩に両手を回し、俺の肩に顔を埋める。

 ―…恥ずかしい。

 ―…どうしていいかわからない。

 それと同時に、キスをしたくないのだという葛藤も伝わってくる。

 
 目を閉じている間にすべてが終わったらいいのにと考えているのだ、きっと。



 俺の体にしがみつく小さな背中を撫でながら、兄さん自身の性器への愛撫を開始する。

 あんまり性急にしごいたりしてはいけない。

 ゆっくりと蕩けるように、柔らかな快楽の渦へ溺れてほしいのだから。



 しどけなく俺にもたれかかる兄さんの躰を胸の中に抱き寄せながら、さらさらの髪の毛にキスをする。

 たぎる俺の屹立と擦りあわせるようにして、兄さんの躰をたかめていく。

 白い躰がびくんと跳ねるたび、白い腕がより強く俺にしがみつく。

 手の中のそれが熱を帯びていく。



 ―…だけど、あまり焦らしたりして時間をかけるわけにはいかない。

 きっとまだまだ本調子ではない。

 この体温。

 小刻みに繰り返される呼吸は、快楽だけによるものではない…。



 ―…兄さんの怖がり…。

 白い肩を甘噛みする。

 俺がどれだけの葛藤の末に兄さんを抱いているのか。

 兄さんは知らない…。知ろうと思ったことさえない…。



 視線の先の景色がにじむ。

 兄さんの姿だけしか、俺には見えない…。



 あの日。

 兄さんが上の兄たちに切り捨てられてしまった日。

 あの瞬間に、兄さんが暮らしていた小さな世界は崩壊した。

 自分の居場所を木端微塵に砕かれて、兄さんは絶望の淵へと落とされた。

 そして新たな世界を構築する間もないほどに、兄さんを取り巻く世界は目まぐるしく変化した。

 夜行。そして扇家。

 兄さん自身の意思とはかかわりなくその身柄を移された。

 ようやく兄さんを取り戻したと思ったのも束の間。

 兄たちを殺したのが俺だとばれて家出をされた。

 けれども兄さん自身の意思で戻ってきた。

 嵐座木神社の危機を救う形で。…俺を救う形で。



 そしてすべてが片付いたのを見て取ってから、俺はこの家の当主を承継した。

 それに伴い兄さんは、扇家の中で実質的に当主の俺に次ぐ序列第二位という地位を与えられることとなる。

 …親父はもう表舞台に顔を出さない。

 兄さんが知っている扇家の姿と、今の扇家との間にある段差。

 兄さんは、未だにそれを踏み越えられないままでいる…。



 あれだけ信頼し躰も心もそのすべてを捧げていた兄たちにさえ捨てられた。

 …だったら、兄たちよりも更に上の地位をもつ当主の七郎は。

 そんな、あるはずもない不安が捨てきれない。

 扇家の六郎として精力的に働く日々。

 夜行や裏会、たまに土地神からの依頼だとかなんだかとかで、風を操り術を駆使する。

 そうして得られる感謝の言葉。

 賞賛。評価。

 今まで兄さんの世界には存在していなかったそれらによって、兄さんはようやく自身の新たな居場所を構築した。

 普段の兄さんは俺に対しても嫌味や皮肉を散りばめて笑う。

 唇を尖らせたり、頬を膨らませたりその表情も実に豊かだ。



 だけど時々、不意にこうして不安になる。

 ―…今の居場所まで失う破目になったら。

 ―…いらないと、そう切り捨てられたら。



 今いるこの居場所を幸せだと感じるたび、兄さんの胸の中でそれを失う事に対する不安が沸き上がる。

 焦燥感。急き立てられ、追いたてられていくような不安。

 そうした身の置き場もないほどの不安と戦うすべを兄さんは知らない。



 …俺が兄さんに向ける憧憬。愛情。

 それだけを怯えた小動物のように敏感に感じ取って。

 ―…当主は俺の躰に興味がある。

 だったら当主である七郎から寵愛を受ける。

 その間は捨てられたりしない。

 そうすれば、今の居場所を守り続けることが出来る…。



 そんな兄さんの思惑に、それを向けられた俺の感情に対する配慮はない。
 

 何かを犠牲にしなければ居場所を得ることは出来ない。

 幼い頃からそんな世界に生きていた兄さんに、その強迫観念を修正することはすでに出来ない。



 …誘われてあっさり陥落したのは俺だ。

 兄さんへ向けて繰り返す愛の告白。

 兄さんが好き。愛してる…。

 そんな俺の真剣な告白と純情を、兄さんは何処かで取り違えたまま受け止めた。



 ―…だったら…。俺のすべてをお前のものにしたらいい…。



 そうして俺を受け入れてくれた兄さんを、そのまま押し倒すようにして抱いた。

 俺の気持ちが伝わったのだと思った。

 もしかしたら兄さんもずっと俺と同じ気持ちだったのかもしれない。

 そんな淡い期待まで抱いてしまった。



 …途中から、何かがおかしいとは気がついた。

 だけどそれも初めてゆえの羞じらいなのだとそう思っていた。

 思い込んでいたかった。

 …目の前に差し出された甘い躰を我慢することなど、俺にはどうしても出来なかった。



 そしてそれからはなし崩し的に。

 兄さんが不安を感じるたび。

 今の居場所を守りたいと思うたび。

 こうして俺を煽りその躰を抱かせていく。

 そこにはやはり俺に対する愛情は感じられない。

 滝に打たれる修行僧が、滝に打たれる行為こそを修行だと思っているように。

 
 そうすることが、兄さんの居場所を安定させる何かの術式だとでも勘違いをしてしまっているままだ。
 


 なら俺のほうで断るべきだ。

 そんな義務のように俺に足を開いてみせたりしなくてもいい。

 兄さんのいるこの居場所は、兄さん自身の力で構築したものなのだからと。

 だけど兄さんにはそれがよくわからない。

 自分自身に対する過小評価。

 それだけはいつまで経っても治らない。

 そうして軽く小首をかしげながら、不安そうな瞳で俺を見るのだ。

 ―…俺はこんな躰だからな…。したがる奴がいるはずもない…。

 その瞳にうつる諦めと虚無。

 こんな自分なんかを愛してくれる人はいない。

 そんな勝手な思い込み。

 だから俺にはもう抗えない。

 ―…そんな意味じゃない…!俺は兄さんのことをこんなに愛してる…!



 そしてなだれ込むように体を重ねる。

 その繰り返し。



 …事が終わった後。兄さんはよく熱を出す。

 紅く火照った顔で辛そうにしている兄さんのふらつく躰を支えたことだって一度や二度じゃない。

 今だって、昨夜したばかりで兄さんの躰には相当な負担がかかっている。

 …なのにまたしたがる。

 躰を繋げることでしか安心できない何かがあるのだ。



 兄さんに誘われたら拒むことの出来ない自身への苛立ち。

 これだけ躰を重ね合わせて愛を伝え続けているのに、理解してはもらえないことに対する苛立ち。

 耳許で毎夜囁く俺の愛の告白を、こうした行為にはつきものの手練手管だとでも思い込んでいる。

 
 俺の純情をもてあそぶ薄情な兄さんの躰を、俺の欲情がもてあそぶ。

 心は虚しさを感じているのに、体だけはこうして魅惑と激情の渦に飲み込まれていく。



 …手の中で嬲っている兄さんの性器が反応し始めたのを感じとり、兄さんの躰をベッドの上へと横たえる。

 子どものままの可愛い性器に舌を這わせ、絡ませながら吸い上げる。

 せめてもの快楽を。

 苦痛だけではないという想いを兄さんに抱いて貰えたら。

 兄さんのものを口で愛撫しながら、そろりと後ろを慣らしていく。

 熱い内壁。熱が出ている。

 …激しく揺さぶるわけにはいかない。



 「…好きだよ兄さん…。俺は本当に兄さんのことだけずっと愛してる…」

 いつもの睦言。甘い声でそれを囁く。

 それに対する返事は、こいつは何を言っているんだという冷めた瞳。

 また七郎が何か言っている。その程度の聞き流し。



 「本当だよ。…兄さんとこうしていられて、俺は本当に幸せなんだ…」

 内腿に舌を這わせる。

 視線の先の兄さんは、ぼうっと天井を見つめていて俺の方さえ見てはいない。

 街中にあふれる雑音と、今の俺の台詞とではどのくらいその重みが違うというのだろう…。



 「…俺が扇家当主でなくても、兄さんは俺をこうしていてくれる…?」

 そう言うと、鬱陶しそうに俺に向けて面倒そうな視線を下す。

 「…お前は当主だろ…。今更何を言ってるんだ…」

 「…そうだね…。もしかしたらもう少し、兄さんから甘い言葉を聞きたいのかも…」

 「馬鹿だろお前。…黙ってしてろ」

 「…俺は兄さんのことが好き。すごく好きだよ。…兄さんは…?」

 問うと、かすかに紅い視線をくゆらせる。

 「…嫌いなわけじゃ…ない…」

 「そう…?それならもう、俺はそれだけでいいや…」

 兄さんに嫌われていると思っていた、あの頃のことを思えば。もう本当に、それだけで。

 「…やっぱり…馬鹿だろお前…」

 かすかに息を詰まらせながら、兄さんの熱が弾けていく。

 はぁはぁと肩で息をしながら、ほとばしった白濁で濡れた足の間をもぞもぞと気にしている。

 その白濁を丁寧に拭い去りながら、兄さんの躰をくるみこむように撫でさする。
 
 

 俺のが飲み込めるほどに慣らしたことを見て取って、再び兄さんの躰を膝の上へと抱きかかえる。

 白い腕が俺の首筋に絡み付く。

 熱い躰。熱い吐息。

 俺の情欲をかきたててやまない甘い匂い。

 「好き…俺は本当に兄さんのことが好き…」

 兄さんの耳許で繰り返しそう囁き続ける。

 その声を聞きながら、それでも何も言ってはくれない兄さんが俺の肩に頬を押し当てる。

 …もう我慢できない。

 固く反り返るそれを、柔らかな熱い粘膜の内側へとゆっくり突き刺していく…。







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