鬼滅の刃
□健気善逸
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「…んっ…、ん…」
夢の中で体が揺れている。
振り回されているかのような衝撃。
体が痛い。
引き攣れそう。
ちぎれてしまいそう。
だけど耳に聞こえるのは優しい音。
…なのに今は少しだけ、哀しみと切なさを含んでいる。
…どうして。何故。
徐々に意識が覚醒する。
朦朧とした瞳に映り込む、炭治郎の澄んだ瞳。
その頬に手を這わす。
「…どうしたの…。炭治郎から…、辛そうな音がしている…」
「あぁ…。今の善逸からも、辛そうな匂いがしている。…すまない。俺は善逸に無体ばかり働いてしまっている」
「そんなこと…」
夢現の世界が少しずつ現実に引き戻される。
炭治郎も俺も、一糸纏わぬ姿だった。
そして1つに繋がっている。
…だからか。
何度体を繋げても、俺は結局この行為には慣れないままだったなぁ…。
だけど最期にもう一度抱いて貰える。
そのことを考えるだけで胸がいっぱいになっていった。
「…好きだ。愛している善逸…」
「俺も…。炭治郎のことが、いっとう大好きだよ…」
炭治郎の背中を抱きしめると、炭治郎が俺の腰を激しく穿つ。
「…んんぅっ…!」
くぐもった声が出る。
炭治郎が俺の胸を弄る。
…胸…。
…いつもと感触が違う…。
炭治郎の体に押しつぶされている体のあちらこちらに違和感を覚える。
「…炭治郎…?」
問いかけると、柘榴の瞳が哀しそうに俺を見つめる。
「…珠世さんから、すべてを聞いた…」
「…ぇ…」
そんなまさか。内緒にすると約束してくれていたのに。
「…どうしてあんな無茶をした」
「そりゃ…、だって…」
「俺と…禰豆子のためか…」
「…」
『哀しい』という音が深みを増す。
…珠世さんは何処まで喋ってしまったんだろう。
術の発動はどうなって。
頭の中がぐるぐるする。
…かまをかけられているだけかもしれない。
…なら、俺が余計なことさえ喋らなければ。
淡い期待は、炭治郎自身によって打ち砕かれた。
「術は発動しない。…珠世さんはすべてを諦めた」
「…なんでっ!?」
禰豆子ちゃんが元に戻れるのに。
どうして。
「…禰豆子のために善逸を犠牲にするなど考えたこともない。…禰豆子だって哀しむ」
「…そんなの…、わざわざ言わなきゃばれないでしょうが。禰豆子ちゃんは何も知らなくて良いんだ」
「禰豆子が拒否した。…本人が拒否すれば受け入れられない術だ。…珠世さんがそう言っていた」
「なんで!?どうして禰豆子ちゃんに喋った!?」
怒りで頭が沸騰する。
もう少しだった。
あとほんの少しで戻れていたかもしれないのに…!!
「お前がこんな怪我をしたからだろう。珠世さんの猫から、あの丸薬と同じ匂いがしていた。…問い詰めたらすぐに喋ってくれたぞ。珠世さんもずっと葛藤していたらしい」
「…禰豆子ちゃんのことをお前が決めるな…!!」
「決めたのは禰豆子だ。…善逸の方こそ、俺達の幸せを勝手に決めるんじゃない」
炭治郎から、冷えた声が出る。
威圧するかのような気配に息を飲む。
「お前がいなくなって、代わりに死んで、それで俺や禰豆子が幸せになると思っていたのか。…思っていたんだろうな。半年も掛けて、…俺とこうして何度も体を重ねて。何度も好きだと告げてきて。…それでも、本当にそれで良いと思っていたんだなぁ…」
炭治郎の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
その切ない音が耳に残って体が強張る。
「…お前がそうやって俺達の幸せを勝手に決めたりするから、俺も勝手に決めさせて貰った。…元はと言えばお前のせいだが、これも俺の独り勝手な都合だな。…すまない」
繋がった状態のまま、炭治郎が腰をくゆらす。
「…善逸が無茶ばかりをするから」
炭治郎の頬を伝う涙が俺の頬へと零れ落ちる。
「どうすれば善逸が自分を大事にしてくれるのか、ずっと考えていた…」
深く苦悩したのだとわかる音。
…こんなにも苦しい想いをさせてしまった。
やったことを後悔してはいないが、炭治郎を傷つけてしまったことだけは苦しかった。
…俺なんかが傷つけて良いやつじゃないのに。
自己嫌悪で死にそうだ。
「他に何も思い浮かばなかった」
ぐりっと穿たれ、中で炭治郎が果てた気配を感じた。
「禰豆子のために鬼になろうとして…。俺を庇ってあれだけの怪我をして…。俺はどうしたら良かったんだろうな、善逸…」
切なそうに俺を抱きしめる腕に抗えない。
「…善逸の怪我は本当に深かった。…下腹部がざっくりと抉られていて、酷い状態だった…」
炭治郎の手のひらが、俺の頭を抱き寄せ撫でている。
「珠世さんが治療してくれた。…その時に、俺の我侭を通させて貰った」
なぁ、と炭治郎が俺の瞳を見つめる。
「善逸にも確認はした。…しっかり頷いて同意してくれたんだ。…覚えているか?」
首をかしげる。
そう言えば夢の中で、炭治郎が何かを言っていた。
その時は耳鳴りが酷く、明瞭な言葉が分からないまま頷いた記憶がある。
「…覚えてくれていたようだな」
嬉しそうに炭治郎が笑んでいるが、苦しそうな音に変わりはない。
「ずたずただった下腹部を、作り替えて貰った。…さすがに珠世さんだな。人間を鬼に変えることが出来る。…鬼を人間にすることが出来る。…その苦労を考えれば、こんなことは簡単なことだったんだろうなぁ…」
すり、と炭治郎が俺の下腹部を撫でていく。
「…善逸の治療をするときに…。善逸のここを、女性の体に作り替えて貰った」
「…は…?」
間抜けな声が出る。
「…ここも…」
炭治郎が俺の胸を触る。
…いや、握る。
何故、そんなところが膨らんだりしているのか。
「…ここも…」
きゅっと指が挿しこまれる。
先ほど炭治郎が吐き出した精が、指を伝って垂れていくのが分かった。
「善逸が頷いてくれたから…。珠世さんも承諾してくれた」
昏い笑みが炭治郎の顔に広がる。
「そうだろう?…承諾してくれただろう、善逸」
その笑みに引き摺られるように頷く。
俺の体程度どうと言うことはない。
炭治郎が使いたいように使って貰って構わない。
必死に考える。
…禰豆子ちゃんを元に戻す術。
今ならまだ間に合うだろうか。
禰豆子ちゃんだって、お兄ちゃんの苦労を知っている。
説得すればきっとわかってくれる。
…炭治郎がいないところで、俺が禰豆子ちゃんを説得できれば。
そうすれば珠世さんだって、約束を果たしてくれる。そのはずだ。
炭治郎の顔が歪む。
「もう諦めてくれ、善逸…」
優しい音が苦痛の音を響かせる。
「ここが…、俺のもので擦られて濡れるようになれば…」
情を交わしたばかりのそこを、炭治郎の指がなぞる。
「…月の障りが訪れるようになれば…」
炭治郎が俺に口づける。
そのまま深く舌を絡まされ、溢れそうな唾液を飲み込む。
「…善逸のここに、俺とのややこが宿れば…。そうすれば、もう無茶なことは出来なくなるだろう?」
厚い手のひらが俺の腹を撫でる。
「…善逸が俺のことを好きだと思ってくれている気持ちと、俺が善逸のことを好きだと思っている気持ちは、多分何処か違っているんだと思う。…だけどもう待てない」
掠れる声が、俺の耳元で囁く。
「両手に余るくらい俺のややこを産んでくれ。そして、俺と共に生きて欲しいんだ善逸」
赫灼の瞳が熱で潤む。
「…善逸はいつだって、枠の外で独りきりで俺達を見ていた。枠の中で俺達が幸せならそれでいいんだ。…善逸は枠の中に入ってきてはくれないんだ。…俺はずっとそれが寂しかった。一緒に楽しくなりたかったんだ」
赫灼の瞳からぼろぼろと涙が零れる。
「善逸の意識が朦朧としている間にもたくさん抱いた。…ほら、たくさん濡れているだろう…?」
苦しそうな声が俺の耳を抉っていく。
「だからもう孕んでいるかもしれない。…なぁ善逸。それならお前は、無茶なことはしないだろう?…禰豆子の代わりに鬼になって首を落とせば、俺とのややこまで失ってしまうぞ…?」
なぁ?と泣き笑いの昏い瞳が俺を見下ろす。
声にならない悲鳴が、俺の喉から迸った。