鬼滅の刃

□梅ちゃんと善逸って可愛いよね
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「炭治郎!伊之助!」
嬉しそうにはしゃぐ善逸を見て、梅は思い切り舌を鳴らした。

善逸は良い。
綺麗な子も良い。
今際の際に兄と仲直りをする切っ掛けをくれたこの男もまぁ良い。
そう思っていたのに。


「善逸!会えて嬉しいよ!」
そう言っていきなり善逸の腰を抱きしめてきたその手の角度と言ったら!!
痴漢なの!?
早朝の学び舎で痴漢ですけど!!
富岡先生!今すぐ竹刀を持って駆けつけなさいよ!!

叫び出したいのに怒りでうまく言葉が出ない、等という経験を梅は初めて味わった。



この炭治郎とか言う男、私の善逸に馴れ馴れしすぎる!
今まで私が払いのけてきた男共と同じような、『情欲』の気配が濃厚に薫る。

しかもそれが善逸に向いている。
巫山戯るんじゃないわよこのガキが!!

梅は最高潮に不機嫌を臨界突破させた。



「私の善逸よ!近寄らないで!」
善逸の手を引き背後へと匿う。

「え?どうしたの梅?」
きょとんとしたまるい瞳も、今はこの男に見せたくはない。

「俺は竈門炭治郎だ!そして善逸は君のものではない!」
「私のものなの!引っ込んでろ不細工!」
「どうしたのよ梅!?炭治郎は不細工じゃないよ!?」
「善逸は炭治郎の伴侶だろ。前も散々乳繰り合ってたじゃないか」
「ちょっとぉぉぉ!!何言っちゃってんの伊之助ぇぇぇ!!!」
「事実だろうが」
「そりゃ事実ですけどね!?言う!?梅の前でそんなこと言う!?」
「はぁ!?どういうことよ善逸!私がいつあんたにそんな許可出したっていうの!?」
「いや、炭治郎とこうなったのはあの後よ!だってほらあの時、梅たちのせいで俺らぼろぼろだったじゃん!それで長期間安静にしてたの!同じ部屋で!…って、いわば梅が俺達のキューピットじゃん!」
「んなわけないでしょ!?なんでこんな男に私があんたをくれてやらなくちゃいけないわけ!?」
「ちょっと待ってくれないか!善逸!この子は一体なんなんだ!!」
「待って待って一旦落ち着こう!?ここ学校だからね!?学校でするような話じゃないからぁぁぁ!!」

慌てた善逸が、その場の全員を引き連れて防音完備の視聴覚室へと連れ込んでいく。

「俺、今ほど自分が風紀委員で良かったって思ったことないわ…。鍵の持ち出し許可、万歳…」
焦ったように息を吐きながら部屋の鍵を内側からロックする善逸に、伊之助が語りかける。

「これ、あの時の上弦だろ」
不思議そうな若草色の瞳に、善逸がぐぐっと息を詰まらせる。

「そうだけどさぁ!友達なの!大事なの!だから喧嘩して欲しくないんだよぉ!!」
おろろんおろろんと泣き出した善逸の頭を撫でる梅を見て、炭治郎は柳眉を逆立てる。

「そうそう。私と善逸は一番の仲良しなの。だからあんた達はさっさと新入生の教室にでも行ってなさいよ」
ふふんと勝ち誇ったように言われて、我慢できるような炭治郎ではない。

「善逸は今生でも俺と共に過ごすと決まっている!申し訳ないが引いてくれないか!」
「嫌よ。これは私のものだもの」
ぷいっとそっぽを向く梅に、炭治郎の音が煮詰まっていく。

「やだよぉぉ!なんで久しぶりの再会なのにこんな音だらけになっちゃってるのぉぉ!?」
「その女が邪魔だからだろ」
「あんた達が邪魔なのよ!いくら顔が良くても駄目よ!譲らないんだから!善逸は私のものなの!」
「梅ぇぇぇ。た、たんじろも、いのすけもさぁ…、大事な、えっと、俺の友達、だからさぁぁ」
「こんな友達はいらないでしょ!あんたには私だけで良いの!」
「そういうわけにはいかない!善逸!こっちに来るんだ!」
「もう面倒くせぇ。その女倒そうぜ」
「駄目だよぉ!梅は可愛い女の子なんだから、守らないと駄目だぁぁ!!」
「そいつ強いだろうが」
「強くても守りたいの!」
「善逸!?」
炭治郎から溢れ出る地鳴りのような音が怖くて、善逸の瞳からますます涙が零れていく。

「ほらもう泣かないの!私がついてるでしょ!」
ポケットから出したハンカチで慣れたように涙を拭う梅と、されるがまま梅に体を預けている善逸を見て、炭治郎の理性が消滅していく。

「善逸は俺とその子とどちらが大切なんだ!?」
「選べないよぉ!!なんでそんなこと言うのさ!?」
「そうよ!善逸の一番の親友は私なの!後からぽっと出てきたような奴に明け渡す気はさらさらないわ!」
「親友!?」
「そうよ!産まれる前からずっと親友なの!」
「親友って何だ?」
「あぁ、一番仲良しの友達って意味だよ。俺と梅、本当に産まれる前からずっと一緒に育ったんだ」
「へぇ」
「俺は伊之助も好きよ。友達だと思ってるし」
「ほわほわさせるな紋逸!」
「だから善逸だってばぁ!」


「…親友…」
ふむ、と炭治郎が梅を見つめる。
「君は、善逸の一番の友人なのか?」
「さっきからそう言ってるでしょ?両家公認の親友よ!」
「そうか。…なら、君はそのまま善逸にとって一番の友人でいてくれ」
「…へぇ?親友の座は譲らないわよ?」
「あぁ勿論だ。…というわけで善逸。俺達は恋仲になろう。それなら良いんだろう?」

問いかけられて梅はふむ、と考える。

こいつは特に親友の座は狙っていないらしい。
恋仲なんてそんなあやふやなものは正直どうだって良い。
付き合おうが別れようが乳繰り合おうが、そういう意味で自分は善逸のことを好きなわけではない。

…だけど、もしかして。
諦めかけていた、親友同士の「恋話」。
あれが出来る絶好の機会なのかもしれない。

この男が浮気をしたり、他の女に余所見をしたりして、そして泣く善逸を私が慰める。
そうね。
この男はいかにももてそうだし、そういう機会はきっとふんだんにある。

そもそも出会い頭でいきなり私の善逸をかっ攫おうとするから警戒しただけであって、元よりこの鬼狩りにそこまでの悪感情はない。

「…本当に親友の座は狙わないわね?」
「あぁ、約束する」
「善逸も?」
「正直2人が何を喧嘩してるのかわかんないけどさぁ。仲良くしてくれるんならそれでいいよ」
「本当ね?…私以外の奴に親友の座を明け渡しでもしたら、あの婚姻届、役所に提出するわよ?」
「えっ、あれ、まだ持ってたの!?」
「当たり前じゃない。むしろ今にも提出しに行きたそうにしてる親から守るために、お兄ちゃんの部屋に隠してあるわよ」
「うわぁ懐かしい!あれ書いたの中学生の頃だっけ?」
「そうね。もう互いに子どもじゃないんだから、過ちが生じたらこれで責任を取るんだぞとか言われて書いたのよね」
「うちにもあるよ。2枚書いたじゃない?うちの両親、未だに宝石箱にしまってるんだよ」
「まぁあんたと結婚とか考えたこともないけどね」
「辛辣ぅぅ!まぁ俺も考えたことありませんでしたけどね!!」
「当たり前だ!善逸は俺と添い遂げると決まっている!」
「うわぁ、俺の両親泣いちゃわない!?梅と結婚するの楽しみにしてたのに」
「うちの親もよ。式場どうするとか話してたわ」
「善逸はどうなんだ?」
「勿論、俺はずっと前から炭治郎のものだよ。知ってるでしょうに」
「俺もだ!愛している善逸!」
「あんたもよ?善逸の一番の親友は私なんだからね?」
「俺は興味ねぇ」
「なら良いけど」

ほぅっと息をつく。

「じゃあ行きましょ。入学式始まっちゃうわよ」

ひらりと制服のスカートの裾を翻し、梅が新入生達を先導する。


きっとこれからもっともっと人生が楽しくなるに違いない。
お兄ちゃんにもこの2人を紹介してみよう。
仲良くなるかもしれない。

梅はそうして、くすりと笑んだ。


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