鬼滅の刃

□避けられ善逸と避けた長男
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ここが離れで良かった。
禰豆子ちゃんが眠っていてくれて本当に良かった。
ゆさゆさと揺さぶられながらそんなことばかり考える。

「…善逸は女の子が好きなんじゃなかったのか…?それなのに、どうしてあんなにも色濃く恋の匂いをさせているような男についていくんだ…?」
炭治郎が何かを呟いている。
その声を聞こうと思ってはいるのに、ぐりぐりと柔らかな内部を抉られ続けて、色んな音が頭の中で響いているからそれすらままならない。

「伊之助にも、どうしてあんなにしがみつく…?どうしてだ?俺にはあんな真似、しなかっただろう…?」
くぐもって聞こえる音が乱れていて、うまく聞き取ることが出来ない。

「…男でも良いのなら…。どうして俺にしなかった」
昏い赤が俺を射貫く。

「…意味が分からんことばかり言ってんじゃないよ。いいからこれを離せよ…」
俺の手首を押さえつけている戒めから逃げ出せない。
固く指先を握り込む。

ここで俺が激しく抵抗したら、炭治郎も俺も傷ついていくばかりだ。
それで俺に飽きた炭治郎が、もしもアオイちゃん達の方へと向かって行ってしまったとしたら。
…考えられない。
考えたくもない。
頭が壊れそうに痛い。

揺さぶられ続けて、中を掻き回されて、俺にはもう何も出来ることがない。

「…もう良い…。俺のことなら、どうにでも炭治郎の好きにしていいから…。ほら」
それだけを告げて、全身からなんとか力を抜こうと試みる。
強張る体はどうしようもないけれど、少なくとも抵抗する意思はないことだけでも分かって欲しい。

懇願するように、涙に濡れた瞳で炭治郎を見上げる。
するとようやく炭治郎も戒めを解き、俺の手首を解放する。

両腕を広げて畳の上に投げ捨てる。
ここまでされたらあとはもう同じだ。
だったら少しでも早く、その欲を全て吐き出して貰った方が良い。

「好きなように、抱けよ…」
赤い瞳を見つめる。
するとうっそりとした笑みを浮かべて、炭治郎が再び俺の腰を抉っていく。

…どれだけ中に吐き出されても、俺は全く苦にもならない。
そもそもそんな大事にするような体でもない。
孕むこともないし、将来嫁に行くわけでもない。
自嘲する笑みが浮かぶ。
指先が何もない宙を掻く。

そのことに苛立ったのか、炭治郎が挿れたまま俺の体を反転させ四つん這いにさせていく。
ぐりんと回され、悲鳴を飲み込むために自分自身の手の甲を噛む。

抉りやすい体勢になったことで、炭治郎が更に奥を求めているかのように、がつがつと腰を穿ってくる。

「…ぅ、ぅぅっ…、…っ…!」
押し当てた手の甲からも微かな声がまろび出て、思わず禰豆子ちゃんの箱の音に耳を澄ませる。

禰豆子ちゃんにこんな汚い高音を聞かせるわけにはいかない。
男の喘ぎ声なんかで耳を汚させるわけにはいかない。
手の甲に歯を立てて食いしばる。

…お願いだから今は起きて来ないで欲しい。
禰豆子ちゃんの音に意識を集中させる。

「…何を考えているんだ…?」

ぐりりと抉るように腰を打ち付けられて目の前に火花が散る。

「他の…誰のことを考えている…?」
乳首をぐにりと摘みあげられ、思わず甘い声が出そうになる。
背後から抱き込むように胸元を弄っていた手が、苛立つように爪で俺の乳首を弾く。

「…誰のことを考えているかって…?こんな状況で、お前以外の誰のことを考えられると思ってるんだよ…」
繋がれたまま背後を見やり、瞳を合わせる。

「いいや、まだだな。…もっともっと、善逸は俺だけのことだけを考えていろ…」
俺に挿入したまま、炭治郎が俺の肌を撫でさする。
手のひらで胸を撫でられ、乳首を転がされ、舌で背中をなぞられ、そして噛みつかれ、吸い付かれていく。
背中に。肩に。腕に。


何度も何度も中で吐き出され、引き抜かれ、また貫かれていく。
そのたびに体位を変え、胸にも腕にも足にも、炭治郎が噛み痕と吸い痕を刻みつけていく。
体中が、炭治郎の手と舌で犯されていく。

「普段はあれだけ賑やかなのに、どうして今日は声を聞かせてくれないんだ?」
喉元にきつく吸い付かれ、ひゅっと喉の奥で息が絡む。

今度こそ終わりだと思っていたのに、またもや熱いもので貫かれていく。
ずぷずぷと挿しこまれ押される度に、粘液がそこから溢れ漏れていく音が聞こえる。
それでも炭治郎が腰をくゆらせ、俺の内部に新たな熱をぶちまけていく。


…朝になれば。
陽の光が差し込めば。
そうすればきっと、この術は解ける。

ひたすらに体を投げ出しその時が来るのを待ち侘びる。

一体どれだけ中に出されてしまったのだろう。
もう何も考えられない。…考えたくもない。




呼吸を使い襲い来る衝撃を受け流す。
瞬間の痛みを緩和させることは出来ても、次から次へと揺すり上げられて込み上げる衝動にどんどん呼吸が乱されていく。

足がまともに動かせない。
こんな俺じゃ、今任務を命じられても対応出来ない。

そんなことを炭治郎にさせてしまっている自分自身に対して無性に腹が立って仕方がなかった。
きっともっとうまいやり方があったはずだ。
俺がちゃんとした人間であったなら、炭治郎をこんなことで汚してしまうことなんかなかった筈なのに。

…それが哀しい。
俺のせいで汚されてしまった炭治郎が可哀想だ。

炭治郎がこんなに何度も俺の中で精を吐き出しているのは、俺の体がちっとも良くないからだ。
女の子みたいに柔らかくもないし、炭治郎を感じて濡れるわけでもない。
ちゃんとした女の子を抱いていれば、こんなにも飢えた音を立てることもなく、辛い音を立てることもなく、きっと満たされていたはずなのだ。

何度繰り返し俺を抱いても、それでも炭治郎はずっと飢えている。
満たされない欲を抱えて苦しんでいる。

母屋へ行くのを我慢し耐え抜き、結果こんな体を相手にしなければならない炭治郎が哀れで堪らない。

「…ごめんな…。しんどいよな…。俺なんかじゃ、本当には気持ちよくなんてなれないよな…。それでも俺は、お前に後悔して欲しくないんだ…。後から苦しんで欲しくないんだよ…。本当に、ごめんなぁ…」








ようやく解放されたのは明け方だった。
ことりと炭治郎が頭を傾げ眠りに落ちる。

それでようやく辺りの様子を伺えば、障子の向こうで空が白み始めている。
その白い明かりを、ただぼうっと眺めていた。


















頭から水をかぶり、体に残る痕跡をざばりと流す。
陽の光の下で見てみると、体中至る所に噛み痕と吸い痕が刻み込まれている。
そして手首に残る、鮮やかな赤。
炭治郎の指の痕。
押さえつけられたときの指の力を思い出す。
指の形をしたその赤い色が、俺自身の浅ましさを生々しく浮かび上がらせる。

…抵抗しようと思えば出来た。
苦しむ炭治郎の体をずっと押さえ続けそのまま朝を待つことも、俺にだってきっと出来たはずだった。
それでも俺はさしたる抵抗もせず流されるまま体を繋げた。

きっと、本当は。
一度だけでも。そう願っていた。
刹那の間だけでも、炭治郎の肌の熱を感じてみたいと、浅ましく願っていたのだ。
きっとその欲を、炭治郎にはすべて見透かされてしまっていた。


炭治郎は何も覚えていないはずだ。きっと。
…だから大丈夫。
血鬼術に掛かった人達の中には、その間のことを忘れている人がいる。
そうしのぶさんが言っていた。

最中の炭治郎はずっと、意識が混濁しているような、そんな訳の分からないことばかり言っていた。
乱れた音。膿んだ熱のような音。
普段よりももっと熱を帯びていたあの体。
…体調が悪く、意識がはっきりしていなかった。
そうとしか思えない。
…だからきっと大丈夫。

こんな浅ましい、恐ろしいことなど、欠片も覚えていない方が良いに決まっている。

ざぶりざぶりと水を浴び、感覚の乏しい下半身へと指を挿し入れる。
吐き出された精を出来る限り掻き出しておく。
指を挿し入れる度にどろりと溢れるそれが俺の指を汚し続ける。

白んでいた空がどんどん明るさを増していく。
こんな明るい陽の元で、こんな浅ましい痕跡を掻き出している自分自身の姿が酷く滑稽だった。

涙は最早一筋たりとも流れて来たりしなかった。






炭治郎は匂いに聡い。
俺から自分の匂いがすることを感じ取りでもしたら、きっと訝しむに違いない。
何度も水を浴び、匂いを消そうと試みる。

濡れた体に軽く手拭いを滑らせ、きっちりと隊服を着込んでおく。

首筋に刻まれた痕は覗いて見えたりしていないだろうか。
鏡も何もないこの場所では心許ない。
まぁ、多少見えるだけのものなら、任務でぶつけたとでも何とでも言い募ることが出来る。
そもそも俺は炭治郎から避けられているのだ。
会わなければ、匂いも痕跡も気付かれるようなことはない。

よしんば炭治郎に見咎められ、匂いで嘘だとばれたところで、本当のことを言わなければ何があったのかまでは分からないはずだ。
そのことに一縷の望みを託す。


震える足をなんとか奮い立たせ、汚れた寝間着を軽く洗い、盥に綺麗な水を汲んで部屋へと運ぶ。
眠っている炭治郎の体を拭き清め、綺麗な寝間着を着せておく。

部屋に何の痕跡も残らないよう、匂いが籠もらぬよう、障子を開け放ち畳を拭き清めていく。
盥の水を何度も換え、僅かにも気付かれることがないように。

…布団を敷いていなくて良かった。
さすがに布団を汚していたら、こっそり片付けるのも難しかったに違いない。

こんこんと眠る炭治郎を起こさぬよう細心の注意を払い部屋を整える。
禰豆子ちゃんの音を探る。
まだまだぐっすりと眠っているようで、とても穏やかで綺麗な音を立てている。
そのことにほっと息をついて立ち上がる。


再び水場へと赴き、盥をすすぎ手拭いを洗う。
…もう一度、拭いておこうか。

随分頑張ってはみたけれど、炭治郎の鼻は侮れない。
水を張った盥と新しい手拭いを手に持ちそっと部屋を訪れる。

禰豆子ちゃんの箱を拭き、柱を拭き、もう一度畳を拭き上げる。
障子はずっと開け放したままだ。

綺麗なまま押し入れに入っていた布団を取り出し、禰豆子ちゃんの箱を枕元へと移動する。
寝ている炭治郎の体をそっと抱き上げ布団に下ろす。

そうしてそのままそうっと静かに部屋を出ようとして、その音に気が付いた。
強張ったまま少しずつ後ろを振り返る。




目を覚ましてしまった炭治郎が、布団から半身を起こし蒼白な顔で俺をじっと見つめていた。
血の気の引いた赤い瞳。それが怯えたように俺を見ている。

後悔。戸惑い。恐怖。
そんな音が部屋中にこだまする。


…覚えている。

それを悟って、俺の全身からも血の気が引いた。
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