鬼滅の刃

□責任の所在
2ページ/3ページ


くちゅくちゅと唇を食まれ、舌を絡められ、強く吸われていく。
なにやら枕元をごそごそしていた炭治郎の指が濡れている。
その濡れた指がお尻の割れ目を行ったり来たりと彷徨っている。
陰茎を嬲る指が、裏筋の辺りをなぞっていく。
ぞくりと背中が震える。

「…ん、ぁ…」
苦しくてぷはぁと息を吐く。
解放された唇の端からとろりと唾液が零れ落ちる。

そのまま空気を味わっていると、炭治郎の舌先が胸元で遊び始める。
ちろちろと差し出された舌が乳首をくにくにと震わせ、ちゅうっと吸い上げては味わい、べろりとその痕跡を刻みつけていく。
甘噛みされるように乳首を食まれて、背中に微かに電気が走る。

「…たんじろ…?」
「…善逸は本当に良い匂いだ…。いつまででもこうして嗅いでいたい…」
耳で探ると、炭治郎からは幸せそうな音と楽しそうな音が響き始めていた。

それと共に聞こえる、飢えが満たされそうになっているような音。
空腹のまま任務を終え、温かな食事を前にしたときのような音。
…いや、それよりも更に歓喜に満ちた音。

その音の心地よさにしばし溺れる。

だから、彷徨っていた炭治郎の指がぷつりと後孔に挿し込まれても、善逸の体を這っていた舌がへその辺りを舐めていることも気にならなかった。
くちくちと侵入してくる指が2本に増やされ、そして3本に増えていっても、なんだか体が熱くなってきたなぁなどと思っていたのだ。

内腿を吸われ、微かな痛みが走る。
痣になってしまいそうな力で何度も吸われ、そのたびに炭治郎の音が跳ねていく。

こんな炭治郎の音を聞くのは初めてだ。
なんとなく拭いきれない違和感にまとわりつかれていたけれども、それでも善逸は半分意識を手放しながらもその音を味わっていた。

なので、両足が炭治郎の肩へと掛けられ、つぷりと指が引き抜かれ、代わりに熱くて硬いものが後孔に触れてもなんらの抵抗もしてはいなかった。


「…いったあぁぁぁぁ!?」

覚醒したのは、太くて質量を兼ね備えた硬いものが、後孔から腹の奥まで挿し込まれた時だった。

「痛い痛い痛いっ!?何やってんの炭治郎!?」
痛さと衝撃で炭治郎の体に縋り付く。
自分に痛いことをしているのは炭治郎だとは分かってはいたけれども、普段からの習性は身に馴染みきっている。
そもそもこの場所で自分が縋り付ける相手は炭治郎しかいない。
なので背中に腕を回し首筋に顔を押しつけるようにしてその胸に縋り付いた。

「ッ、…善逸ッ…!俺の体に爪を立ててくれて良いからッ…!」
荒い息を吐きながら耳元に声をぶつけられ、背中がぞくりと震えていく。

「んなことより離せぇぇ!お前巫山戯てんじゃねぇぞ?!ッ…、あっ、や、んっ…!…あぁぁぁぁッ…!!」
叫んでいるはずなのに、鼻から抜けるような甘い声がまろび出る。

痛い。熱い。痛い。熱い。
腹の中に何かが侵入している。
手のひらで腹を撫ぜると、炭治郎から一際大きい爆音が響いた。

「そういう、ところだぞ…!善逸!」
悲鳴のように叫ばれ、肉刺の潰れた炭治郎の手のひらが善逸の手のひら越しに善逸の腹を押す。

「ひ、やぁぁぁっ…!!」
途端に走る衝撃に、善逸の唇から淫らな高音が迸る。
その音に当てられたかのように、炭治郎の腰がぎしぎしと畳を揺らし鳴らしていく。

「ぁ、ぁっ…!あぁぁっ…!!」
涙を零し頭を振ると、炭治郎の舌がその雫を掬い取っていく。

再び唇を合わせ、舌を絡ませ、互いが互いの体をきつく抱きしめていく。
後孔から迸る衝撃と、炭治郎の体温と音とで善逸の体が熱に浮かされていく。

揺さぶられるまま体を預け、吸い付かれるまま肌を差し出し、求められるまま唇を合わせる。
炭治郎の背中を抱きしめながらより深みへと溺れていった。

そうして障子の向こうが白んで来たとき、ようやく炭治郎が善逸の体内からずるりと陰茎を引き抜き善逸の体を解放した。

「…また、一緒に風呂へ行こうか。今度は俺が抱きかかえて行ってやるからな」
汗で湿った髪を指で梳かれる。

…なんだかこいつ嬉しそうだな。
そう思いはしたが、散々叫んできたから声が出ない。

「…水…、水をくれよ…」
求めると、水を湛えた湯飲みが差し出される。
震える指でそれを受け取りこくりと飲み込む。
力の抜けた指が、飲み込める量より多くの水を傾けさせてしまう。
火照っていた肌を冷たい水が伝い、ふるりと体を震わせる。

炭治郎から、激しい爆発音が響いた。


結局あれからまたあれやこれやと致されて、ぐったりした体を湯で清める羽目になった。
腰が立たなかったから、炭治郎に横抱きで抱えられ、風呂に入れられ、奥に吐き出されていた精まで掻き出されてしまったのだ。

部屋へと戻り、再び水の入った湯飲みを差し出され、今度は零さないよう細心の注意を払いながらそれを喉へと流し込む。
清めた体に、炭治郎が隊服を着込ませていくのをただ静かに琥珀の瞳で見つめていた。

色々なものを失ってしまったような気がする。
それまでは自分がそれを持っていたことにすら気付いてなどいなかった程度のものではあるが、それでも失ってしまったように思うのだから仕方がない。

なんだかとても大変なことをされてしまった。
そう思い、隣で満たされたような音を奏で微笑んでいる炭治郎を睨む。

文句を言ってやろうとそう思って息を吸った瞬間、炭治郎が先んじて口を開いた。


「責任を取ってくれ、善逸」
弾んだ音色。
嬉しさを隠しきれない満面の笑み。
それなのに炭治郎の唇は善逸を糾弾する言葉を紡ぐ。

「どうあっても、善逸に責任を取って貰わなければならない。俺は初めてだったんだぞ、善逸」
「はぁぁああ!?俺だって初めてだったわ!そもそもお前だろうが!お前が俺を抱いたんだろうが!お前のせいじゃねぇか!!」
腰に力が入らないから立ち上がれない。
それでその場に座ったまま炭治郎を人差し指で差しながら問い詰める。

「そもそも何であんなことになっちゃったのよ!?俺何も悪くないからね!?炭治郎を介抱してやっただけだぞ!?なのになんでこんなに犯されちゃってるの!?なんでこんなに俺の腰から力が抜けてるの!?全部お前のせいだろうが!お前が!責任取れよぉぉぉ!!」
涙ながらに叫ぶと、炭治郎がほわりと笑う。

「わかった。俺が責任を取る。結婚しよう、善逸。生涯を俺と添い遂げてくれ」
「いや巫山戯てんじゃねぇぞ!?」
「なら善逸が責任を取ってくれ。責任を取って俺と結婚するんだ」
「意味がわからないからね!?」
「俺が任務の後に弱っていたら、善逸が俺の服を脱がせて肌に触れてきたんだ。あらぬところまで触られてしまった。だから責任を取ってくれ」
「言い方ぁぁぁ!!!???」
「本当のことだろう。だから責任は取ってもらう。朝はおはようから夜はお休みまで、共に過ごして貰うぞ。ご飯の時にはいただきますを言って一緒に食べるんだ。善逸の好きな双六もやろう。伊之助達がいるときはことろことろもやろう。だから責任を取ってくれ」
「いやだから意味が分からないんだわ意味がさ!?」
「責任を取って俺と添い遂げてくれ」
善逸の手を握り、その指先に炭治郎が唇を押し当てる。

「善逸があくまでも拒否すると言うのなら、俺が責任を取ろう。善逸の純潔を奪ってしまった。勿論責任は取るし、生涯善逸のことを愛し続けると誓う」
「…なんだよ…。結局どっちが責任取っても一緒じゃんよ…」
「なら善逸が責任を取ってくれるのか?」
「お前、俺を逃がす気ないだろ?」
「あるわけ、ないだろう?…任務に行く前聞こえてしまったんだ。…善逸のことで後悔はしたくない。臭いに当てられ消耗していたのは本当だが、善逸の匂いを嗅いでいる内に随分と良くなったんだ。…それなのに、あんなことをされてはいくら俺が長男だからと言っても我慢できるようなものではないぞ!」
むんっと胸を張る炭治郎を見て、善逸の体から力が抜ける。


…任務に行く前。聞こえてしまった。
ならきっと、あの会話だろうと思うものが浮かんできたのだ。

「どうしても駄目なのか」
焦燥したような声で問い詰められた。

「あいつは良い奴だ。絶対にお前のことだって幸せにするし愛し抜く。それでも駄目なのか。少しでも考えてやってはくれないか。…僅かの余地すらないのか」
顔を歪ませ、肩を揺さぶられた。

「…あいつの気持ちを受け入れてやってくれ…!あいつは本気でお前のことを愛しているんだ…!」
悲壮な叫びを聞きながら、ただひたすらにごめんなさいと繰り返すことしか出来なかった。
まさか、あれを聞かれていたとは思わなかった。
思わず伺うような顔で炭治郎を見上げる。

「…善逸が頷くとは思っていなかった。…善逸を問い詰めるあの男からも恋焦がれる匂いがしていた。自分が惚れている相手のために、お前に詰め寄っていたんだろうと言うことは分かった」
善逸の手を握ったまま、炭治郎がその手を自身の頬へと当てていく。

「任務へと向かう途中で考えたんだ。…もしも善逸に好きな相手が出来てしまったら。…俺はあんなふうに相手に詰め寄ることなど出来ない。きっと善逸を相手から引き剥がし閉じ込め逃げられないように囲い込んでしまうに違いないと」
「いやお前さん怖いわ」
「…俺もそれまで自覚はしていなかったんだが。どうやら俺は善逸のことになると途端に心が狭くなってしまうらしい。元々誰かに取られる前に求婚しようとは思っていた。そうしたらあんなことになって、いきなり善逸が無防備に俺に触れたり肌を許してくれたりするものだから歯止めが利かなかった。それだけは謝っておく。本当にすまない」
「謝るの、そこだけかよ…」
「だって俺は善逸に責任を取って貰わないといけないからな。…俺が責任を取ると言えば、善逸はきっと責任など取らなくて良いと言って逃げるだろう?」
「…」
善逸は否定の言葉を口にしない。
そのことこそが肯定の意味であると炭治郎は知っている。

「…誰の入れ知恵だよ…。お前さんの発想じゃないだろうが」
「伊之助だ。入れ知恵と言うより、助言だったが」
「まさかの伊之助ぇぇ!?あの猪、そんな発想できたのかよ!!」
「発想と言うより助言だ。俺が煮詰まっていたのを見て、お前が責任取るって言ったらあいつは逃げるだろ、だからあいつに責任を取らせてしまえ、と言われてしまった」
「…それを良い考えだと思って実践した訳ね…?」
「その時はそういうつもりもなかったんだが。…朝になって気怠そうにしている善逸を見て思い出してしまった。あんなに情欲をかき立てる姿を見せつけられては、俺だって我慢できない」
「誰のせいだよ!?」
「あぁ、俺のせいだな。それでもやっぱり善逸のせいだから、責任を取ってくれ」
爽やかな笑顔で言われて、善逸にはもう反論する気力すら残ってはいない。

その笑みの下で、炭治郎は言わなかった言葉を反芻している。
嘘をつくことは不得手ではあるものの、黙っている分には顔に出ない。
善逸の体のあちこちに吸い痕を残してしまった。
きっと隊服の隙間からも覗いてしまうに違いない。
それを見れば、善逸に懸想している人達も流石に諦めてくれるだろう。
あとは、この痣が消える前に新しい痕を刻み込み続けていくだけだ。
そして。
善逸が刻み込んでくれたこの歯形。
これも何度だって刻みつけて欲しい。
皆に見せつけて、善逸から愛された証なのだと叫んで回りたい。

そもそもあんな状態の自分に善逸の匂いが染みついた風呂の湯を頭から掛けるなど、暴挙であったとしか思えない。
あんなに肌を見せつけられ抱き込まれ、善逸の匂いで胸をいっぱいにされてしまったりなどしたら、こうなってしまうだろうと予想しても良いはずだった。
そのくらいにはずっと、自分は善逸への愛を叫び続けてきているのだ。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ