鬼滅の刃
□責任の所在
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善逸は、炭治郎がもてて羨ましいとよく炭治郎を責め立てる。
だが炭治郎に言わせれば、炭治郎に言い寄ってくるのは表面上垣間見える優しさだったり爽やかさだったりに惹かれてくるだけの人間が多いのだ。
広く浅く愛されているのだと認識しているし、おそらくそれは間違ってはいない。
鬼殺隊の仲でも秘匿とされているし、広く知られているわけではないが、自分には鬼に変じた妹がいる。
それを知っていても変わらず愛を誓ってくれる人などいないだろうと言うことも分かっている。
さらりとそれを受け入れて、変わらぬ愛情を注いでくれると信じ抜くことが出来るのは善逸だけだ。
対して善逸に恋情を寄せる人間は数こそ多くないものの、深く善逸を愛している者が多い。
その型の美しさ、善逸本人の持つ優しさ、強さ、清涼さ。
そういったものに惹かれ、絡め取られ、変わらぬ愛を更に深く深くその身の内に刻み込んでいく。
だから炭治郎は不安を覚えずにはいられない。
取られたくない。
奪われたくない。
こんなにも執着するのは、家族以外では善逸だけだ。
思いがけずあんなことになって体を繋げることにはなったが、勿論炭治郎はその全てを覚えているし、善逸の体のどこをどうすればあの甘い声が聞けるのかもわかってきた。
それを他人に教える気はないし、見せる気もない。
自分が善逸のことをどれだけ深く愛しているか、きっと善逸には理解出来てなどいない。
感覚の鋭い伊之助にはばれていたが、その伊之助ですら諦めて手を離したほどなのだ。
先ほどの伊之助から助言を受けたという話に嘘はない。
ただ黙っていることがあるだけだ。
話していないのは助言を受けたと言った、その前の話だ。
いかに善逸に恋い焦がれ、どれだけ好意を伝えてもまったく伝わっておらず、「そんな褒めても仕方ねぇぞ」なんて躱され続けていた。
それで煮詰まり、心をひりつかせてていたところを、伊之助に見咎められたのだ。
お前が我慢できないからってあいつを襲うな。囲い込むな。
あいつだって俺の子分だから、お前がそんな真似をするのなら俺が守る。
そもそもあいつは強いだろうが。
嫌な相手に懸想されて襲われそうになったことも何度かあったようだが、そのたびに蹴り出して肋折ってたぞ。
雷の呼吸の遣い手だろうが。
あいつの脚力で逃げ出せねぇような相手はそういないだろ。
あいつはお前が守らなきゃならねぇような弱味噌じゃないんだ。
だから。
伊之助はそう言った。
あいつに蹴られるような真似をするな。
あいつがお前の肋を折らなきゃならないようなことをするな。
…あいつが蹴り飛ばさず、悪態もつかず、嫌がらないでお前のことを受け入れるんだったら俺は何も言わねぇが、そうでなかったら容赦しない。
だから最初は恐る恐る触れていた。
それでも蹴られなかったし肋も折れてはいない。
最後まで受け入れてくれたのだと言うことがただひたすらに嬉しい。
だから逃がさない。
一度は自分からの告白を受け入れたとしても、いずれはきっと炭治郎のためだとか、女の子と付き合った方が良いとか、絶対に言うだろうとそう思った。
だから自身の純潔を盾にして責任を求めたのだ。
本音ではそんなものに価値などないとわかっている。
自分に散らされてしまった善逸の純潔の方が尊いとはわかっている。
それでも責任を取って貰いたいし、責任を取りたくて仕方がないのだ。
逃がさない。
絶対に。
ただの一度きりで終わりだなんて考えられない。
甘い声。
柔らかく包み込むような匂い。
引き締まった体。
どれ1つとして我慢できるものなどなかった。
「…責任を取って、俺と添い遂げてくれ」
握っている手首の内側をちゅくっと吸い上げ痕を刻むと、善逸の顔がぶわわっと赤く染まっていった。