鬼滅の刃

□ごめんね、この人俺の彼氏だからさぁ。
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「…音…、たんじろの音、聞かせて…。鬼の音、探りたいのに…、酷い音ばっかり聞こえる…。醜悪で下劣な音ばっかり…。悪酔いしそう…」
辛そうな顔。
苦しそうな匂い。

…酷い音。
…醜悪で下劣な音。
それは自身の内から聞こえている音ではないのだろうか。
そんな自分の胸に耳を寄せて、善逸は大丈夫なのだろうか。
つくんと疼いた胸の痛みに、炭治郎はぐっと息を飲み込んでいく。

「…たんじろ、も…、しんどいだろ。音が、辛いって言っている…。だよなぁ、…俺でも分かるくらい匂いがきついもの、ここ。…俺で誤魔化し効くなら、嗅いでおいていいからさ。…無理はするなよ」
その労る声音の熱に浮かされるように、思わず目の前の唇に自身の唇を重ね合わせた。
舌先で柔い唇を舐めとっていく。
ちゅっと食めば、甘い吐息が口の中へと吸い込まれた。

食む食むと何度も何度もその唇の柔らかさを味わい、口内へと舌を挿し入れる。
くちゅくちゅと絡ませていくと、噎せ返りそうな甘い匂いが揺蕩ってきた。

そうして唇を貪りながらも、蠢く手のひらで乳首を捏ねくり回し、鼠径部を撫で上げて、その体の全てで囲い込む。
炭治郎の頭の芯がぼぅっと快楽に浸されていく。

屹立してしまったそれをぐりぐりと善逸に押し当てる。
下履きの中に手を這わせ、陰茎をやんわりと握り込む。
合わせた唇の隙間から溢れ出た唾液が、善逸の顎をつうっと伝い落ちていく。
陰嚢を弄り、陰茎を扱き、体重を掛けていくとついに善逸がかくんとその場に膝を突く。

慌てて炭治郎もしゃがみ込みその様子を伺う。
「…、んっ…、は、ぁ、…ぁ」
荒い息をつきながら善逸の腕が炭治郎の腕を掴む。
覗き込んだ琥珀の瞳。
そこには炭治郎が得ていたものと同じ快楽の気配は、微塵も存在し無かった。

「…見つけた。上の階にいる。今なら油断している音がする。…部屋を取るふりをして行くぞ。このまま炭治郎がそこの三味線入れと俺を抱えるようにして部屋を出れば、怪しまれることもないだろ」
その真っ直ぐな目線に射られ、炭治郎も頭を振って任務へと気持ちを切り替える。

乱れた衣服のまま、善逸が炭治郎の腕に撓垂れかかる。
その善逸の腰を抱き込むようにして部屋の扉へと向かうと、先ほど声を掛けてきた男が面白そうに揶揄する声が聞こえてきた。
「おっ、いよいよ彼氏の初めて貰っちゃうの?…お熱かったもんなぁ、ずっと。当てられちゃったよ。今度機会があったら、俺のことも相手にしてくれよ」
「あははありがと。…そうそう、ようやくね。じゃあ、またね」
ひらひらと手を振る善逸の腰をぐいっと引き寄せると、男が面白そうに声を上げて笑った。


2階へと上がる階段脇で、特別な個室へ入るための銭を払う。
善逸の腰を抱き込むように段差を踏みしめて歩く。

ここまで来れば炭治郎の鼻でもわかる。
2階の真ん中の部屋。
そこで鬼が舌なめずりをしながら新たな獲物を待ち侘びている。

誰もいない廊下で三味線入れを開く。
引き抜いた日輪刀を握りしめ、どんと突くように扉を開ける。

「水の呼吸拾ノ型、生生流転ッ!!」
炭治郎が着地すると同時に、鬼の首がごろりと床へ転がり落ちた。



「…他に、鬼の音はしないなぁ。どうよ。匂いとかするの?」
「いいや、この鬼だけのようだな」
「そっか。なら帰ろうぜ。態々下の奴らに報告する必要も無いだろ」
「…あぁ。そうだな…」
三味線入れに日輪刀を戻し入れ、それを抱えて階下へと降りる。
登るときには抱いていた善逸の腰の熱が今は無い。
前を歩く善逸を見つめながら、何もない空虚な空間に指を這わせる。
それが切なくて、きゅうっと胸が引き絞られた。

しょんぼりとした体で階下へ降り、善逸の後を追いかけるように玄関の扉へと向かう道中。
先刻から声を掛けてきていた男が、扉の向こうで「あーあ」と言うように肩を竦めて見せた。
そして炭治郎に向かって、「初めてなら仕方ないって」と唇のみの動きで語り、面白そうな顔でくしゃりと笑んだ。






■▽■△■▽■






蝶屋敷へと戻り、鬼は倒したと報告を行う。
「わかりました」と微笑むしのぶの顔を炭治郎はまともに見ることが出来ない。
事務的に手続きが進み、そのまま次の任務まで休息するようにとしのぶが告げる。
「炭治郎くんも善逸くんも無傷ですし、いつ次の任務が入るか分かりませんからね」
そう言われてしまうと、腹の底がきゅうっと悲鳴を上げていく。

次の任務。
いつ入るか分からないが、下手をしたら数ヶ月、また善逸とは会えない日々が始まってしまう可能性があるのだ。



色々な感情を持て余し部屋へと向かえば、そこではすでに善逸が茶を片手に団子を食む食むと頬張っている最中だった。
帰ってきた時の姿のまま、シャツとズボンのみという格好を見て、炭治郎の脳裏に先ほどの記憶が蘇る。

「報告終わったの?お疲れさん。しのぶさんから差し入れの団子があるぜ。こんな美味しい団子をくれるなんて、もしかして俺のこと好きなのかな!?」
ぽぽっと頬を染める想い人を、炭治郎は思い切り蔑んだ瞳で見つめてしまう。

…俺はこんなに悩んでいるのに。
…あんなことまで…、したのに…。


任務にかこつけて散々にこの体をまさぐった。
最後まで致していないからと言って許される範疇を超えているだろうとは自覚していた。
耳年増でありはするものの意外と純情な彼のことだから、きっと責められるのではないかと覚悟もしていた。
それなのに、これはどうだ。
いっそあっけらかんとした顔で、無邪気に団子を頬張っている。
小さな口で無理矢理一玉口に入れたのだろう。
頬がぷっくりと膨らんでいる。
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