鬼滅の刃

□大丈夫、俺が面倒見てやるからな炭治郎!
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湯の沸く匂いを嗅ぎ取り、ぎゅっと目を瞑る。
背中に嫌な汗が伝う。

「おっ。沸いた音。…風呂行こうぜ、炭治郎」
にこっと笑まれ、いたたまれなさが先に立つ。

「風呂上がったら、包帯取って軟膏塗って、新しいのに巻き直そうな。行こ、炭治郎」
「…あぁ…」
最初は抵抗していた。

昨日も入った。
任務にも行ってないのだから、そんなに毎日入らなくても大丈夫だ。
汗もかいてない。
自分で入れるから大丈夫だ。

何一つ通用しなかった。
「なんでさ。入りたいって音してるのに。その手で1人は無理でしょ。しのぶさんからも、患部を清潔に保つように、でも濡らさないようにって言われてるでしょうが」
そう言って笑い、結局は俺を風呂場へと連れ出してしまう。
善逸は今のこの状況をまったく理解していない。
風呂へ入る度、俺がどれだけ呼吸を駆使して己の熱を鎮めているのかを知らない。



「ほら、脱がすぞ。足あげてー」
慣れた手つきで、善逸が俺の足から病衣のズボンを下げていく。
善逸はいつも下から脱がせる。
単純に俺の手に巻かれた包帯が邪魔で、上着を脱がせにくいからだとは分かっている。
何故なら善逸本人は、いつも上から脱いでいくからだ。
それでも俺だけ先に下肢を脱がされていくというのは、なかなかに辛いものがある。

ましてや善逸は、自分から先に服を脱いでいく。
先に俺を脱がせてから自分が脱ぐのでは、待っている間俺の体が冷えてしまうとそう言って。
構わない、先に脱がしてくれと何度も懇願したが無駄だった。
頑固で堅物真面目なのは善逸の方だ。
自分がこうと決めたら梃子でも動かない。

それで俺はいつもこうして、善逸が上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下履きを取り払い一糸纏わぬ姿になることろを見せ付けられ続けている。

見なければ良いのだとは分かっている。
だけど、どうしても目が離せない。
夢の中で、妄想の中で、何度も何度も繰り返し抱いた。
その肢体から、目が離せるわけなどないのだから。

「んじゃ、入ろうぜ。炭治郎、手を上げておいて」
互いに一糸纏わぬ姿となった洗い場で、いつものように両手を上げる。
患部を濡らさないためだとは分かっているが、これが結構きつい。
「濡らすぞ」
桶の湯をざぶりと掛けられ、善逸が濡らした手拭いで俺の体を洗っていく。
背後から首筋を拭われ、背中を拭われ、腕を拭われる。
ごしごしと洗われる度、善逸の手が俺の体へと触れていく。

「湯、掛けるぞ」
そう言ってざぶりと温かな湯を掛けられ、体中の血流が激しさを増す。

「前、洗うぞ」
その掛け声に、ぞくりと背中が震えていく。
背後から抱き込まれるかのように、善逸の腕が俺の体を抱きしめる。
そのまま顔を洗われ、胸を洗われ、そして…、善逸の手が、俺の下肢へと伸びていく。

俺が両手を使えないからだと分かっている。
善逸は好意でやってくれているのだと分かっている。
きちんと洗わなければならない箇所だと言うことも、勿論俺には全部分かっているのだ。

「…ん、…」
それでもともすれば、うっかり声を出してしまいそうになる。
善逸の指が、俺の男根を柔らかく握る。
傷つけないよう、柔く擦られ、皺の隙間まで丁寧に洗われる。
浮かせた腰の、会陰も尻も、全てを善逸の手で洗われてしまうのだ。
そして。

「…待ってくれ…!ちょっと、近いんじゃないだろうか…!」
「なんでよ。離れたら洗いにくいだろ」
「胸…!胸が当たってるんだ…!」
「胸?…それがどうしたのよ。体洗ってやってるんだから、そりゃ当たることもあるでしょうが。可愛い女の子なら嬉しいけどなぁ。まさか女の子にさせるわけにもいかないでしょうが。お前が言えば、面倒みてくれる女の子もいそうだけどな」

俺のものを握ったまま、剥き出しの背中に善逸の胸が当たっている。
『正面からだと炭治郎も恥ずかしいだろ』
そう言われて、確かに自分は頷いた。
だけどこんなことまでは想定していなかった。
手拭いで擦られ敏感になっている背中に、善逸の乳首が当たっているのが分かるのだ。
意識を向けてはいけないと分かっているのに、それでも勝手に感覚が全集中してしまう。
善逸の肌。
湯に火照る、白い肌。
何度も見つめた、甘やかな色をした乳首。
それが己の背中へと押し当てられているという事実に、毎日俺は耐えている。
俺の体を洗う度、善逸の体がこうして俺の体を刺激する。

「…、っ…!」
脳内で必死に経を唱える。
駄目だ。
集中してはいけない。
俺はいつだって分かっているのに。

「湯、掛けるぞ−」
軽い声で、善逸がざぶりと湯を掛ける。
むしろ冷水を頭から浴びせて欲しい位だというのに、善逸はわかってくれない。

「じゃ、頭洗うぞ」
そう言って席を立ち、俺の正面へと座り直す。

頭を洗われる。
そのために頭を下げて善逸に差し出すと、善逸の下半身が俺の視界間近に迫る。
俺の視線の先に見えている、善逸の下肢。
…綺麗な金色だな…。
そんなことを考えながら、思わず見つめてしまう。

頭皮を柔らかな指が滑る。
そのまま撫でるように耳裏を擦られる。

んんっと呼吸を整えていたはずなのに、先ほどから高められてしまっていた体の熱が、男根へと集中してしまう。
ぐぐっと頭を持ち上げて屹立するそれを見て、善逸が小さく「…あぁ…」と呟いた。

「炭治郎も男の子だもんねぇ。…風呂場だし、ついでに抜いておこうぜ」
「いや、待っ…!」
「良いから良いから。何のために俺がついてると思ってるのよ。女の子相手に勃たせてたら粛正だけど、俺しかいないから問題ないでしょ」
「だから!それは…!駄目だ!」
「なんでよ。まぁ俺も同じ男だからわかるわ。そのままだと辛いだろ。良いって良いって。普段世話になってるんだしさ。触り愛っことか、他の奴らもしてるじゃんか。あれと同じことだろ」
そのままきゅむっと握り込まれ、やわやわと扱かれていく。

「たんじろ、自分でするときは強い方?弱い方?」
「…なにっ…、が…!」
「んー?扱き方?」
本当に気にもしていないと言う匂いのまま、善逸の指が俺のそれに絡まっていく。
善逸の指で先端を抉られれば、先走りの体液が零れ出す。
それを竿全体に塗りつけるようにして、善逸が両手を絡め愛撫していく。
きゅむきゅむと陰茎を握り込まれ、陰嚢を揉まれ、あっという間にそれは膨張してしまう。
正面に見えている、善逸の体。
白い肌。
乳首は桃色。
綺麗な腹筋と、鍛え抜かれた太腿。
金色に飾られたそこも綺麗に色づいていて、俺は思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。

両手をあげたままの無様な姿勢で、淡々と行われる愛撫に身を任せることしか出来ない。
裏筋に沿って善逸の指が這っていく。
何度も何度も慈しむかのように繰り返しなぞられていく。
指の腹で先端を刺激されていく。
筒にした手のひらが亀頭に向けて何度も上下し俺の精を昂ぶらせる。
しかも俺ですら分からないそれらの音の全てを、善逸には把握されている。

「…ん…」
善逸がちろりと自身の唇を舐めていく。
手の中の屹立がそろそろ限界なのだと、正確に聞き取っている。
それを見て取って、俺の逸物は白濁を飛ばした。
俺が飛ばした精で善逸の胸が濡れている。
たらりと垂れていくその白濁が、善逸の下肢へとろりと伝った。


湯を掛けられ、汚れたそこを軽く洗われ、湯船の中へと誘導される。
そしてようやく、善逸は自分の体を洗い出すのだ。
汚された体を気にすることさえなく、ざぶりと湯を掛け手早く洗う。
善逸が自分の体を擦る度、捻れる体からその肢体の全てが曝け出される。
それからざぶりと俺と同じ湯に浸かり、俺が湯あたりする前に湯から上がってしまう。
乾いた手拭いで体を拭かれ、洗濯済みの病衣を着せられる。
何事もなかったかのように自身の体を拭き、それから善逸も病衣を羽織る。

包帯を巻かれ動かせない手のひらが、それでも指先だけで何もない空を掻いた。




本当なら、呼吸を駆使してこの程度の怪我はもっと早く治癒している筈だった。
それでも今の俺には全集中の呼吸を保つことさえ難しい。
治りの遅い俺を見ているはずなのに、善逸もしのぶさんも何も言わない。




「ほら出来た。じゃあ寝るか?」
新しい包帯へと巻き替えられた手を見て、善逸がにこりと笑う。
俺の手がこんなのだから、蒲団も毎日善逸が敷いている。
ぴたりとくっつけられている二組の蒲団。
それがすでに延べられている。
だけどどうせ、使っているのは一組だけなのだ。
最初は隣の蒲団で寝ていた筈の善逸はいつも、寝ぼけながら俺の蒲団へと入ってくる。
そうして俺の体に腕を巻き付けて、胸の辺りに耳が当たるようにして眠りにつくのだ。

腕の中の甘やかな匂いに酔いしれるまま、その首筋に何度も舌を這わせた。
頬を舐め、唇を重ねた。
善逸は気付いていないが、項の辺りには赤い痕がいくつか残っている。
のぼせ上がった俺に吸い付かれた痕だ。

毎晩、毎晩。
善逸の体を抱きしめて、俺は無体を強いている。
善逸の体に抱きしめられて、俺は眠る。

耐えられない。
これ以上、どうにもならない。



「…もう良い。大丈夫だ。治った」
そう言えば、呆れたように善逸が俺を見つめる。
「いや駄目でしょ。傷口、乾いてすらないもの。今無理すると刀も握れなくなるぞ。焦る気持ちも分かるけどさぁ。ここは我慢すべきところでしょうが」
「大丈夫だ。善逸ももう、俺の世話はしなくて良い」
「どうしちゃったのよ炭治郎。焦っても良いことないぞ?」
そう言ってまた、「いいこ、いいこ」なんて俺の頭を撫でていく。

「…無理だ。これ以上は、無理だ。…あとは、そう、…隠の人にでも頼むから…」
「なんで」
「…頼む…」
包帯の巻かれた手で顔を塞ぐ。
居たたまれないのだ。
善逸の好意に甘えて、それでいて善逸の柔らかい部分を抉り取っていくような今の状況に、これ以上耐えられないだ。

善逸は、まさか自分が俺から懸想されているなどとは思ってもいない。
だから毎日無防備にこうして俺の世話を焼いていくのだ。
惜しげも無く体を晒して。
…俺の欲を、その手で処理して。
…情欲の痕を、その体に刻み込まれて。



顔を伏せたまま身を震わせている俺を、善逸は静かに見つめていた。
すんっと嗅いだ匂いは変わらず、優しくて強くて、甘い匂いを放っていた。



「…俺のことが、嫌いだから…?」
沈黙の後、善逸がぽつりとそう言った。

「…違う。善逸のことを嫌いになんて、なれるわけがない」
「なら良いじゃない。…なんで駄目なの。隠の人なら良くて、俺じゃ駄目な理由が分からない」
途端に薫る、哀しい匂い。胸を引き裂かれるような、遣り切れなさの匂い。

「違う。善逸のせいじゃない。…俺のせいだ。…全部、俺のせいなんだ…」
がくりと項垂れる。
断罪の時が来たのだ。
善逸のせいにして切り抜けて良い場面ではない。

「炭治郎は何も悪くない。人を助けて、それで怪我をしただけだ」
善逸から涙の匂いを感じて、はっと顔を上げていく。

「…炭治郎も、俺のこと嫌いになったの?もう、俺はいらない…?」
静かな問いかけ。
まろい頬を青白く染め、涙を零し、眉をへちゃりと下げている。

「違う。そうじゃない」
かぶりを振る。

「…好きなんだ。善逸のことを。…俺が善逸のことを好きだから、これ以上は耐えられないんだ」
「…好きなら、傍にいても良いんじゃないの…?」
ぽろぽろと涙を零しながら、琥珀の瞳が俺を見つめる。

「そういう意味での好き、ではないんだ。…正直に言う。善逸のことを愛している。抱きたい。睦み合いたい。その体の全てを暴いて俺のものにしたい。…そう言う意味での『好き』なんだ」

…終わった。何もかも。
だけどどうしても、善逸を泣かせてまで黙っていて良いことではないのだ。
がくりと項垂れる。
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