結界師二次創作「兄さんと僕。その7」
□それでも。
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「…七郎…」
小さな手のひらが、ぎゅっと俺の服の裾を握る。
「…また…?」
はぁ…、とため息をつく。
むぅっと唇を引き結んで、すがるような紅い瞳が俺を見上げる。
…本当にすがりついているのだろう。
俺なんかに。…7つも年下の弟なんかに。
大きく見開かれたその子どものような眼差しに諦めに似た息をつく。
「…いいよ。これが終わったら行くから。俺の部屋で待ってて…」
そう言って髪の毛をくすぐってやると、安堵したようにこくりと頷く。
そのままそろりと俺の気配を窺いながら、ゆっくりとした足取りで俺の部屋へと向かう。
廊下の先を曲がる兄さんの姿を見送りながら、長い長い息をつく。
―…あの人は昔から…。思い詰め過ぎなんだよ…。
思い返せば上の兄たちもそうだった。
ひとつのことに執着し、そのためになら手段を選ばないほどに思い詰めていく。
…そして上の兄たちは命を落とした。
他ならぬ俺の手によって。
沈む心を抑えながらも仕事に励む。
兄さんを待たせているのだと思うと気ばかり焦る。
ある意味俺のやる気を引き出してくれているわけだから、普段だらけていたりする俺が言えることなど勿論何もない。
合間に茶を飲む時間さえ惜しみながら書類を片付ける。
一通りの書類が片付いたのを見てとって、軽く頷く。
それだけで使用人が後を引き取るから、俺はそのまま部屋を後にする。
はやる心と沈む心とを擦り合わせながら廊下を歩く。
このあとの予定は何も入っていない。
それを頭の中で反芻する。
「…お待たせ、兄さん…」
自室の扉を開けると、俺のベッドから兄さんが躰を起こす。
俺を見つけて小さく笑う。
後ろ手に部屋の鍵をしめ、水差しから冷たい水を一口飲む。
「…この部屋は冷えるでしょう」
暖房をつけておけばよかった。…冷え冷えとした寒い部屋。
「大丈夫だ。ベッドの中にいた」
もこもこと布団に埋もれている兄さんを見つめながら、暖房器具を起動する。
―…なら、ベッドはほどよく暖まっているか…。
ごくりと鳴りそうになる喉を抑える。
「兄さん喉渇いてない?何か飲む?」
備え付けの冷蔵庫。そして茶器のセット。
兄さんが好みそうなものは一通り揃えてあるのだ。
「…いらねぇ…」
「まぁ、用意だけでも。ね…?」
きっとかたくなっているであろう躰をほぐして貰わなければ。
ポットに沸かされているお湯で二人分の茶をいれる。
茶托ごとそれを持ちあげ、ベッドサイドのテーブルへと移動させベッドに腰かける。
「…それは…いいから…」
俺のもとに兄さんがにじりよる。
つんっと俺のシャツの袖を引きながら、紅い瞳が俺を見上げる。
…兄さんの瞳は雄弁だ。
心の中を、鏡のように大きな瞳に映し出す。
不安。焦燥。
飢餓。恐怖。
ためらいと羞じらい。
交差する感情が、その隅々にまで映し出されている。
「…大丈夫?まだ少し熱っぽい…」
額に触れる。
子どものままの兄さんの躰は、見かけ通りに体温が高い。
だけど、それでもやはり普段のそれより高く感じる。
「…今日は、やめておいた方が…」
やんわりと押し返す。
「…大丈夫だって言ってるだろ」
兄さんの唇が尖っていく。
拗ねたように眉間にしわを刻みながら、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「…体調が辛そうだったら、途中までにするよ…?それでいい?」
さわりと背中を撫でる。
「…お前は口数が多すぎる。俺の方が年上なんだ。俺の躰のことは俺の方が知っている」
―…それはどうかな、と思ったけれども反論はしない。
こうして余裕めいた台詞を口にしておきながらも、結局は抗えない自分自身を俺はよく知っている。
「…そう?…じゃあ…」
兄さんの腕を引き寄せる。
そのまま俺の膝の上に腰かけさせる。
小さくて形のいいお尻。
その丸みを帯びた弾力が俺の情欲を刺激する。
「…ほら…。お前だってその気になってるじゃねぇか…」
固くなっている俺のものの感触を押し当てられて、兄さんの躰がかすかに強張る。
「…最初からそうしていたらいいんだよ…」
少し怯んだように、腰がひけていく。
そのまま無言で俺を見上げる。
表情のないその顔が、兄さんの怯えと諦めを如実に物語る。
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