結界師以外のその他もろもろ。

□世界はいつも鮮やかな赤
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 「楽しめばいいんだよ」

 そう、言われた。

 「敦は、いつもつまらなそうだから」

 そう言って、魅力的な瞳でオレを見る。

 「敦が楽しめることを、一緒に探そう」

 その瞬間、世界のすべては鮮やかな赤で埋め尽くされた。

 



 今までずっと、人生はつまらないと思っていた。
 
 どんどん大きくなる自分の体。

 小学生の半ばくらいから、小学生です、と名乗っても信じて貰えなくなっていた。

 バスに乗っても電車に乗っても、親が一緒にいてさえも。

 うさん臭そうな目で見つめられる。

 同級生の女の子と一緒に登下校しているだけで、ひそひそとした突き刺すような視線にさらされる。



 それが、より顕著になるのは体育の時間。

 バスケもバレーも、高跳びも陸上も。

 ずっとクラブ活動でやっているという同級生や上級生たちの誰よりも、自分が一番上手になんでもやれてしまう。

 そのたびに。

 ―ずるいよ、あいつ。

 ―ほとんど、身長だけじゃんか。

 ―いいよね、あれだけ身長があったら。バスケのゴール、すぐそこだもんね…。あいつなんて、本当それだけだよ…。

 そう言って、自分を遠巻きにしはじめる同級生たち。

 「才能の差だよね。どうせオレに勝てないんだし、やめちゃえば?」

 そう言うと、もう誰も自分に近づいては来なくなった。

 オレが何か酷いことをどれほど言われても、かばってくれる奴なんていなかったのに。

 ちょっとオレが言い返しただけで…すべてすべて、悪いのはオレの方。

 努力なら、オレだってした。

 同級生と仲良くなれるよう、頑張った時期だって確かにあった。

 でも駄目だった。

 ―努力すれば実るなんて嘘だ。

 それだけが、唯一オレにも理解できた。



 何もかもがつまらない。

 自分より小さな教師に、目線の下であれこれ言われても聞く気になんてならない。

 ―同級生とは仲よくしなさい。

 ―どうして、皆と仲良くやれないんだ…。

 ―そんな風に…人を見下ろすもんじゃない…。

 本当に、どいつもこいつもつまらない。

 オレと同じ目線で話ができる人間なんて、この世のどこにもいないに違いない。

 ずっとそう思っていた。

 …帝光中学校に、入学するまでは。





 バスケが盛んな学校だとは聞いていた。

 だけど、バスケ部の部員だというやつよりも。

 …オレの方が、ずっと大きい。

 授業でバスケをやったって、小学校からずっとバスケをやっている人間よりも、オレの方がずっと上手だった。

 …やっぱりここも…つまらない。





 そんなとき。

 彼が、自分に話しかけてきた。

 まるで、どこかの皇帝のように。

 彼は別段、偉そうにふるまっているわけでもない。

 高圧的なことを言っているわけでもない。

 ただひたすらに。

 老成したような威厳を、その身にまとっているだけだ。

 思わず反発したくなるような教師なんかのそれとは明らかに違う。

 この人は…生まれながらの皇帝。

 そう、自分に思わせる存在。



 その人が、自分に話しかけてくる。

 ―バスケをやらないか、と勧められた。

 ―僕と一緒に…。と誘われた。

 ただそれだけで。

 体中が震えるほどの歓喜を、確かに自分は味わったのだ…。



 中学校に入る時点で、自分の身長はずば抜けていた。

 バスケ部の中でも、オレより高い人間なんて、ほとんどいなかった。

 ひょい、と軽く放るだけで。

 いくらでもボールは、ゴールをくぐってしまう。

 自分の体が、他の選手に押し負けることもない。

 バスケ部の先輩だって、それは同じ。



 やっぱりバスケもつまらない。

 だけど。

 …彼が、そこにいるのなら。

 オレの世界の中で、鮮やかな色彩を放っている唯一の場所。

 だから、オレはここに…バスケ部にいる…。居続ける…。



 バスケ部に居続けたいのなら、練習をして、努力をして、沢山頑張らないといけない。

 そうでなければ、彼の視界に入る価値すら自分にはない。

 自分より努力している人間でも、役に立たない程度の存在なら。

 そんな人間が、彼の視界に入ることだって許したくはない。



 「敦は、ディフェンス中心にやってみたらどうかな」

 「オフェンスも勿論いいけれど、敦の体格でゴール下にいられると、相手にとっては随分なプレッシャーだから」

 「敦も、その方が面倒がなくていいだろう?」

 そう、赤ちんが言うのなら。

 いくらでもオレは、優秀なディフェンスになる。

 相手に点を入れさせたりしない。

 ゴール下はオレが守る。

 …赤ちんのために。それだけの、ために。



 だけど…。

 どんどん、胸が苦しくなる。

 オレはこんなに赤ちんしか見てはいないのに。

 赤ちんの中では、バスケが一番。

 赤ちんに、そこまで愛されているバスケに…嫉妬する。

 それに。オレが…オフェンスじゃないのは…。

 峰ちんが…いるから。

 だからオレは…赤ちんの考えるオフェンスの中に…必要が、ない…。



 どんどん、気持ちが沈みこんでくる。

 オレの世界には、赤ちんしかいないのに。

 赤ちんの世界には…オレの存在は…。



 赤ちんの顔をまともに見ることもできなくなってくる。

 苦しい。苦しい。苦しい。



 そんなオレの変調は、すぐに赤ちんに見抜かれてしまう。

 本当に、赤ちんはすごい人だ。

 すごすぎて…オレなんかとは、全然違う世界に存在している人なんだ…。





 「最近はまた一層…つまらなそうだね?敦」

 二人きりの体育館。

 「つまんなくなんか…ねーし…」

 「いいや?僕にはわかる。…敦のことなら、いつでも僕は見ているから。敦以上に…知っているよ」

 「…赤ちんが…オレのこと、見てるの?」

 「ずっと見ているよ。最近はまた一段と、ディフェンスも上手になったね、敦は」

 「…オレ…。赤ちんにとって必要なのは…。峰ちん…?ミドチン…?」

 自分は拗ねているだけだ。

 赤ちんに、必要とされている人間に…嫉妬する。

 「敦…?」

 「オレ…オレ、赤ちんに必要とされたい。もっともっと…赤ちんの世界に、オレを入れてほしい…」

 その場にへたり込む。崩れ落ちる。

 「バスケなんて、どうでもいいよ。赤ちんがやれっていうからやっているだけ。オレの世界に必要なのは…赤ちんだけ…」

 泣きたい気分になってくる。

 「赤ちんだけ…」

 くしゃ、と柔らかな手のひらが頭に触れる。

 そのまま、くしゃくしゃと頭を撫でられる。

 …何年振りだろう。ずっと昔の…小さかった子どもの頃以来。

 柔らかいその感触に…何故かどんどん涙が零れてくる。

 「敦は、泣き虫だね…」

 「それだけ…赤ちんのことが好きだから…。赤ちんのことが…大好きだから…」

 自分の頭を撫でてくる、その足に縋り付く。

 「赤ちんが好き…」

 オレの頭を撫で続けながら。

 「僕も敦のことは好きだよ…。敦は、僕にどうして欲しいんだ…?」

 「…赤ちんと…したい…。キスしたり…抱き合ったり…赤ちんと…したい…」

 泣きじゃくりながら告げる。

 赤ちんはきっと呆れている。

 敦のことはもう要らない、と言われるかもしれない。

 でも、その告白を止めることなんてもう出来なかった。

 オレはずっとずっと赤ちんの足に縋り付きながら、好き…と繰り返していただけ。



 「いいよ、敦がそうしたいのなら」

 思わず赤ちんを見上げる。

 「涙でぐちゃぐちゃじゃないか。…敦のことは好きだって、そういっただろう?僕は、嘘はつかないよ」

 「でも…でも…赤ちん…」

 縋り付いている手が緩む。

 その間に、赤ちんがオレの前に屈みこんでくる。

 涙で濡れた頬に、そっと赤ちんの手が添えられる。



 そして…。

 赤ちんの、綺麗な顔が…近づいてきて…。

 …ふよん、とした柔らかな感触を…唇に感じる…。



 呆然としているオレの腕をとって、赤ちんが引っ張り上げる。

 「おいで…敦のしたいことをなんでも、僕にしたらいい…」



 その腕に誘われるまま…。

 赤ちんの部屋へと…いざなわれる…。



 とん、とベッドの上に横たわり。

 赤ちんが、まるで女王のように嫣然と微笑んでみせる。



 自分が着ているシャツのボタンを引きちぎる。

 荒々しく身に着けている衣服を剥がしとる。



 そうして…恭しく。

 女王陛下に謁見する臣下のように。

 赤ちんの足元へ膝をつく。



 「いいよ。敦の好きにしてごらん…」

 そっと伸ばされる綺麗な手を握り締める。



 艶やかに微笑んでいる赤ちんの体から…衣服を取り払う。

 自分の衣服を剥ぎ取った時のような乱暴な真似はしない。

 丁寧に。細心の注意を払って取り払う。



 徐々に、赤ちんの綺麗な体が露わになる。

 その、滑らかな肌にそっと舌を這わせる。

 …たしなめるように…赤ちんが頭を撫でる。

 「敦からは…キスもまだだろう…?」

 赤ちんが、蠱惑的に微笑む…。

 そっと唇に触れる。

 微かについばむ。

 …どうしよう…。オレが乗ったら…。赤ちんが、壊れてしまう…。

 赤ちんの手が、そんな自分の頬にそっと触れる。

 「…怯えなくてもいい…。僕はそう簡単につぶされたりはしない…。敦だって、それはわかっているはずだろう…?」



 その、微笑んでいる赤ちんの手に導かれるまま…赤ちんの体の上に横たわる。

 温かく柔らかな唇の中に舌を挿し込む。

 ん…ん…と、その口内を舐めつくそうと試みる。

 唇を舐めて。綺麗な歯列をなぞって。舌を舐めて吸い上げる。

 押し寄せる快楽の波に、自分の体が飲み込まれていくのがわかった。



 滑らかな肌をそっと撫で上げる。

 胸元を弄り…。ひときわ鮮やかな赤色にむしゃぶりつく。

 そのまま吸って。舐めて。舌先で転がして。

 …ん…という微かな声が赤ちんの唇から洩れる。

 「…赤ちんっ…」

 「…、大丈夫だよ、敦…。そのまま続けてごらん…」

 優しく頭を撫でられる。

 衝動に抗えないまま、再度赤ちんの胸に顔をうずめる。

 ちゅ、ちゅ、とまるで赤ん坊のように吸い付いて。

 指先でも摘まんで弄ってこねくり回して。



 それから…そっと、赤ちんの腕を舐めて。お腹を舐めて。

 そして…赤ちんの足の間へと…体をずらしていく。



 舌先でちろりと舐めて、唇で食みこんでいく。

 そのまましばらく、ちゅくちゅくと舌を這わせて。
 
 徐々に赤ちんのそれが、オレの口の中で熱量を増していく。

 赤ちんが、やめろって言わないから。

 その屹立を、口内へと吸い込みしゃぶり始める…。

 太腿を撫でながら、赤ちんのものを口で、舌で、手のひらで…思う存分愛撫する。



 はむ、はむ…と。

 いくらでも舐めて、しゃぶって、吸い込んで。

 淫らな時間を堪能する。



 …しばらくそうして、味わっていると。

 赤ちんの体が、微かにぶるっと震えて。

 その手で、オレの頭を軽くたたく。

 それに従い口を離す。

 赤ちんからの、次の指示を待つ。

 んん、という声が赤ちんの唇から洩れて。

 …赤ちんが達したのだと気付く。



 「オレの口の中に…出してほしかったな…」

 「我儘をいうんじゃないよ、敦…。それより、ほら…」

 赤ちんがそっと、何かの容器を渡してくる。

 「肌用のクリームだが…まあなんとかなるだろう…。挿れる前に慣らさないと、お互い辛いだろう」

 恭しく、赤ちんの手からそれを受け取り。

 赤ちんの体を…オレの手で慣らしていく。



 「…ん…もういいよ敦…」

 軽く、頭を撫でられる。

 だから…。

 赤ちんの綺麗な足を、抱え上げて。

 ゆっくりと…赤ちんの体に、挿し込んでいく…。



 ―んぅっ…!

 赤ちんが小さな声を上げる。

 その声に、熱に浮かされたオレの快楽が少しだけ抑えられる。

 オレだけ良いのはダメだ。

 赤ちんの体が、最優先…。



 少し時間をかけて、赤ちんが落ち着いて。

 オレの体を撫ぜてくれる。

 それを合図に、抽挿を開始する。

 …オレはいつだって。どんなときだって。

 絶対に、赤ちんの言うとおりにする…。



 オレの世界は。すべてすべて、赤ちんのもの。赤ちんだけのもの。



 んぁ、と快楽に体が持っていかれる。

 壮絶に気持ちいい。

 赤ちんの中は…頭がおかしくなるくらい。

 動くたび。少し抜くたび。また挿れるたび。

 頭が真っ白になるくらいの快感が背中を突き抜ける。

 そうしてしばらく体を揺すって、抽挿を繰り返して。



 ―あぁ…もうすぐ…いきそう赤ちん…。



 いく直前に、ずるりと赤ちんの体から自分自身を引き抜く。

 そのまま、赤ちんの体の横に倒れ込んで。



 はぁ、はぁ…と荒い息を吐く。

 赤ちんも…珍しく、息を切らしているかのよう。

 その赤ちんの手が、そっと頬を撫でる。



 「本当に…敦は泣き虫だね…」

 そう言って頬をぬぐわれて、自分が泣いていたことに気がつく。

 「赤ちん…赤ちん…オレ、オレ…赤ちんが好き…赤ちんが大好き…」

 「知っているよ…。僕は、敦のことなら何でも知っていると言っただろう?」

 「赤ちん…赤ちん…」

 泣きじゃくるような声が自分の唇から洩れる。

 「敦が楽しくなるように…敦が幸せになれるように…僕が、敦の手助けをしよう…」
 
 「うん…うん…オレ、なんでも…赤ちんの言うとおりにする…」

 「…本当に敦は可愛いね…」

 「赤ちん大好き…本当に大好き…」

 「知っているよ…」



 赤ちんの手が優しくオレの頭を撫でる。

 この手のためなら、オレは本当になんでもする。

 …赤ちん…赤ちん…。

 うなされたように…赤ちんの体に全身で縋り付いていく…。

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