結界師以外のその他もろもろ。

□愛され局長の受難
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 「近藤さん!当選通知が届きましたぜィ!!」

 ひらひらと紙片を手に取り、総悟が自分の元へとやってくる。

 「当選?何に?何に当たったの?もしかして俺宝くじにでも当たっちゃったの?」

 総悟の笑顔につられて思わずにやける。

 もし宝くじに当たっていたのなら、ぜひともキャバクラに行かなくては。

 今度こそ、ゴールドドンペリを入れて…!お妙さんに首元に抱きついていただかなくては!!



 「ん?これは何なの??」

 思わず総悟を見つめる。

 相変わらずにこにこと笑っている総悟の目が…なんだか据わっているような…?

 「クイズ大会の出場当選通知でさァ」

 「え?え?俺、応募してないよね??それにこれ、なんか違うよね?俺のキャラとは何ひとつかぶってないよね??」

 「当選したんだから大丈夫でさァ」

 「え?総悟君??総悟君は一体何を言ってるの??」

 「…どうしたんだ、近藤さん」

 「トシ!助けてくれ!」

 「…またお前か…」

 総悟を睨みながら、トシがその出場通知を俺の手から受け取る。

 「…なんだこりゃ…。『どきっ!天才だらけのふんどし一丁クイズ大会!ぽろりもあるよ!!』??」

 …クシャアッ!!トシの手が紙片と握り潰す。

 「なんだコリャァァァァァァ!!!!!!」

 がしっとトシが総悟の隊服の襟を掴みあげる。

 「なにがふんどしからぽろりなんだァァァァァァ!!!!!」

 「なにって…そりゃナニでしょうよ」

 笑う総悟がトシの手を軽く叩く。

 「いいんですかィ?…その当選通知、裏で松平のとっつぁんが手を回してますぜ?」

 ―…ぐ…!

 総悟を掴む手を弛め、トシがこちらを窺う。

 「…だそうだ…。どうする、近藤さん」

 「え?え??どうするってなに?何の話なの??」

 周囲をきょろきょろと見渡す。

 何事かと集まっている隊士たちも、警察庁長官の名前が出た瞬間、いっせいに下を向いている。

 ばんっと総悟がトシの手を払いのける。

 「とっつぁんが裏で手を回してもぎとってきた当選通知でさァ」

 トシが握りつぶした当選通知をもう一度開く。

 「…くそッ!優勝賞品が目当てか!?それともッ!!」

 …ぐ…。

 トシの目が一点で釘付けになる。

 「駄目だ近藤さん…アシスタントの女が全員「すまいる」のメンバーだ…」

 「え?え?つまりどういうことなの?」

 「…あんたは出場しなきゃならねぇ…このクイズ大会に…!」

 トシの手から通知をもぎ取る。

 「…俺の出場枠、天才剣士ってなってるんだけど…総悟君??」

 「俺がそう書いて出しといたんでさァ」

 「え?え?他の参加者たちはみんな、「天才博士」とか「天才教授」とか「天才科学者」ばっかりだよね??」

 笑っている総悟の顔を見つめる。

 「あれ?これ俺だけ天才に続く言葉違うよね?俺だけ場違いだよね?」
 
 「何言ってんですか同じでさぁ」

 「え?え?沖田君??むしろ天才剣士なら君だよね?俺じゃないよね?」

 「何言ってんでさぁ。俺は一度も近藤さんに勝ったことありませんぜ」

 「え?え?違うよねそれ絶対違うよね?俺これ出たら負けるよね?え?え?」



 「…仕方ねぇ…」

 トシが一歩前に出る。

 …トシ…!やっぱり頼りになるのはお前だけだ…!!

 胸の中を感動の嵐が駆け抜ける。

 「トシィー!!!」

 胸の中に抱きついていく。

 「近藤さん…当日までには、一張羅を準備しとく」

 …ト…トシ…?

 「何?なんで周りから固められちゃってるの?俺出るなんて一言も言ってないよね?だよねそうだよね?ちょっとねぇ土方くん??」

 「…すまねぇ…」

 「…トシィィィィィ!!!!!」

 屯所の中に、俺の絶叫がこだまする。

 

 

 そして…クイズ番組収録当日。

 …トシが用意してくれた一張羅のふんどしをきりりと締めて、自分用の解答席に腰を下ろす。

 周りの出演者たちも、勿論ふんどし一丁だ。

 アシスタントを務めている「すまいる」の女の子たちがこちらを見て眉をひそめている。

 風にのって…。

 …ゴリラ…やだ生理的に無理…などという声が聞こえてくる。

 だが問題はない。

 俺にはお妙さんの熱い声援だけで充分だ。



 「はい、ではクイズのルールを説明します!先に5問先取された方から勝ち抜きです!」

 司会者の手がにこやかに後方を指し示す。

 「負けた方は、罰ゲームとしてあちらにいる獰猛なベンガルトラと対決していただきまーす!!」



 ―グオォォォォォォォォ!!!!!!

 地の底から響くような、肉食獣の咆哮が辺りの空気をびりびりと震わせる。



 「なお、あちらのベンガルトラ、名前はことりちゃんでーす!」

 …え?なんで虎にそんな名前つけてんの?

 「こちらのことりちゃん、ダイエットのためここ3日間何も口にしておりませーん!」

 …え?餓えてるの??

 「ダイエットのため海岸で走り込みを行った際、人間が捨てた空き缶で負傷しているため現在熱烈人間不信中でーす!!」

 …え?手負いなの??

 「とっても好奇心旺盛!やんちゃな3歳でーす!!」

 …え?成獣成り立てで加減を知らないお年頃だよね??

 「ちなみに武器は、今皆さまが身に着けているふんどしになりまーす!!」

 …え…?それって…虎と戦うときに何か役立つの??


 
 思わず横に並ぶ参加者達を見る。

 何故か、俺の顔面に全員の視線が刺さるのを感じる。

 ―…まァ…こいつだろうなァ…。あの虎と戦うの…こいつだろうなァ…。

 そんな…言葉にしていない心の声が…直接響いてくる…。



 …大丈夫だ…!俺には隊士たちがついてくれているッ!!一緒にあのことりちゃんと戦ってくれる!!

 …頼もしい、俺の隊士たちがッ!!



 応援席に並んでいる隊士たちを見やる。

 …あれ…。

 応援席にいる隊士たち…こちらの方を見てないね…?

 「…お前たちィ!!その手に持っているゲーム機は即刻かたづけてッ!!こっちを見なさーい!!」

 泣きながら叫ぶ。

 「動物の森とかァ…!!!仕舞いなさァい!!」

 哀れな視線を…居並ぶ出演者たちから感じる…。



 「では、さっそく第1問! 56の12乗と101の6乗。大きいのはどっち?」

 「第2問!冠位十二階。上から7番目の冠位は何?」

 「第3問!地層のずれは断層。では曲がった地層は何という?」

 「第4問!人間の血管を全部つなげるとその長さは?」

 「第5問!淡水湖の塩分は1リットルあたり何グラム以下?」





 案の定…1問も答えられないままクイズが終了する。

 まずい。ことりちゃんがこちらを見ている。

 人類を見るような目つきではなく…3時のおやつを見ているかのような…そんな目で俺を…。



 「なお、ここからは敗者復活ゲーム!これで負けたら、いよいよことりちゃんとの直接対決でーす!」

 すまいるのおりょうさんがそう叫ぶ!

 …敗者復活っ!!

 これに賭けるしか…ない!!



 「では敗者復活第1問!お妙さんの好きなアイスは?」

 「破亜限堕津!!」

 「第2問!お妙さんの得意料理は?」

 「卵焼き!!」

 「第3問!ポニーテールが似合うのは?」
 
 「お妙さァん!」

 「第4問!恒道館道場の寝室に最短の抜け道は?」

 「天井裏!!」

 「第5問!お妙さんの下着の色は?」

 「清純派のしろォォォ!!」

 「第5問!お妙さんの使用済み歯ブラシ、現在地は!?」

 「俺の家ェェェェエ!!!」



 「ちょおかァァァん!!!」

 「おう!」

 がしゃり。

 頭蓋骨に響くほどの重厚感で、バズーカが頭につきささる。

 「すまいるの娘たちに頼まれちゃァよォ。俺だって断りきれねぇだろ?」

 「…え…?」

 思わず両手をあげる。

 まさか、このクイズ大会のすべてが…俺をはめるための罠。

 「3秒待ってやる」

 脱兎のごとく駆けだす。

 ―…あいつは…待たねぇ…!!



 「近藤さん!こっちだ!!」

 走る先でトシが叫ぶ。

 「近藤さん!こっちでさァ!!」

 反対方向で総悟が叫ぶ。

 …どっちだ!?

 …どっちが…生還ルートなんだ!?



 「こっちこっちぃ!!」

 ひらひら…。お妙さん!?

 「こっちよォ!!」

 俺に向かって笑いながら手を振ってくれている。

 「お妙さぁぁぁんっ!!!」

 空中をダイブして飛び込んでいく。

 ―ガシャン!

 …え?

 後ろで扉の鍵が閉められる。

 「…お妙さん?」

 にっこりと俺に向かってお妙さんがほほ笑む。

 つられて笑い返す俺の前で…。

 「ことりちゃぁぁぁん!おやつの時間ですよぉ!!」

 大きな声で…お妙さんが叫ぶ。

 …え…。

 ―グルル…。

 …武器…!そうだ確か…!!

 体に巻き付いていたふんどしを取り去る。

 それを両手に絡めて…。

 「…これが何の役に立つっていうんだァァァ!!!」



 ガシャリ!!

 バキンッ!!

 鉄と鉄がぶつかり合う音がする。

 折れた剣の切っ先が目の前を飛んでいく。

 「…だからこっちだって言ったんでさァ!」

 総悟が、檻を切り裂き俺とことりちゃんの間に立ちふさがる。

 「駄目だ!逃げろ総悟!!」

 あの剣はもう…!使い物にならない!!

 「何言ってんですかィ!今のあんたよりはましでさァ!!」

 「駄目だ!!」

 ことりちゃんが総悟に飛びかかる。

 「逃げろォォォォォ!!」



 ―ザクリッ!!

 「だから、最初からこっちに来てればよかったんだよ、あんたは…!」

 「トシ…!!」

 「クソガキッ!いいから近藤さんを連れて逃げろ!!」

 「そうしまさァ」

 総悟に抱きかかえられ、檻の外へと連れ出される。

 「いや…歩けるからね総悟君?俺はどこも怪我してないからね?」

 「ことりちゃーん!おやつでさァ!!」

 安全な場所から総悟が叫ぶ。

 「クッソガキがァ!!」

 がむしゃらに剣を振り回し、トシがなんとかことりちゃんを振り切って檻の外へと命からがら転げだす。

 急いで俺たちが出てきた穴をふさぐ。

 ―ガッシャーン!ガッシャーン!!

 ことりちゃんが檻に体当たりしているが、どうやらもう大丈夫のようだった。

 「ありがとう…!ありがとう二人とも…!!」

 「…これに懲りたら、もうストーカー行為は控えるんだな」

 「え?ストーカー?強いて言うなら追跡者です。愛の」
 
 「…格好つけてみても、近藤さん、あんたマッパでさァ」

 「え?」

 ふんどしは…ことりちゃんの檻の中。

 「取りに行きますかィ?」

 「いや…もう無理だよねあれ」

 荒れ狂うことりちゃんの咆哮が響き渡っている。

 「じゃあ…これでもつけててくだせィ」

 総悟が懐から何かを取り出す。

 「ありがとう総悟君!」

 …受け取った、それは…。

 目玉が描かれた…赤いアイマスク。

 「それで充分でさァ」

 「い…いやいや…俺のはマグナムだからね?これじゃ無理だからね?」

 「近藤さん、これを使え」

 「トシィ!!」

 差し出された、それは…。

 「…土方君?マヨネーズでナニをどうするの?」

 「信じろ。マヨネーズは万能だ」

 タバコをくゆらすその横顔…。こいつ…本気だ…。



 …やだ…生理的に無理…。

 …ありえない…ナニあれ小さすぎない?



 風に乗って…すまいるの女の子たちの声が聞こえてくる…。



 …ありえませんな…。

 …ああ…あれは酷い…。



 他の出演者たちの…ひそひそ話も…。



 「…誰か!!助けてくださァい!!!」

 青空に向かって…声高く叫びあげる…。

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