リリカルなのは×ロスカラ 改訂前
□四・五話 前編 男なら自分が言った言葉の責任を取りましょう
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「う、ううん。……もう、朝か?」
随分と変な夢を見てしまったせいでやけに意識が冴えている。
ただの夢と言ってしまえばそれまでなのだが、何かが引っかかる。そう、何か大切な事を忘れているのは分かるのにそれが何だか分からないような違和感。
「考えても、仕方ないか」
考えても分からないなら無理に気にする必要もない。
ベッド脇に設置されている電子時計を見ると時刻は12月10日の午前5時。
まだ草木も眠っているような時間だが、二度寝も出来そうにない。
そう思いながら重たい瞼を擦っていたのだが、普通では見かけない異質な物が目に留まる。
「闇の、書?……」
まあ表紙に剣十字が付いた特徴的な本が空中に浮かんでいるのだから、今の疑問形自体にはさして意味が無い。
僕が気になるのは————
「何で僕の部屋に在るんだ?」
狼が喋れるんだから本も話せると思ってはいたけど、重力を無視したかのように目の前を浮遊する魔導書は違うらしい。
だが、何の理由もなく僕の部屋に居るというのも納得がいかないんだが、どこぞのピザ魔女でもあるまいし。
「僕の監視か何か、かな?」
考えられる可能性としてはそれが一番納得できる。
ヴォルケンリッターと共犯関係にあるとは言っても、僕は過去の全てを彼女達に話したわけではない。
僕のデバイス———月下に関して説明する際はどうしても黒の騎士団という組織に所属して戦っていた事を話さざるを得なかったので打ち明けたが、未だにギアスや僕の出生については明かせていない。
無理に隠す必要が無いというのが現実なのだが、だからといって必要に迫られるまでは話す気にもなれない。
———それらも含めて未だに謎の多い僕に対して監視を付けるというのは妥当な判断だとも思えるのだが。
闇の書が軽く揺れる。左右に揺れるその姿は人間でいえば首を振っているように見えなくもない。
「監視じゃないのか」
今度は縦に揺れる。ということは人間でいうと頷いている状態なのかもしれない。
どちらにせよこの魔導書に意識はあるようだ。
「で、結局何がしたいんだ?」
返答は……無い。
まあいいか。いくらなんでもそこまで円滑に本との対話ができるとは思っていなかったしな。
というか、さっきからずっと一人で本に対して喋りかけているのもなんだか滑稽に思えてきた。
リビングに降りて朝食の用意でもしようかな。
「とりあえず、出て行ってくれないかな?着替えたいんだが」
僕がそう言うと闇の書はビクッ!と体(表紙?)を震わせて部屋から出て行こうとする、が———それなりの速度で飛んでいたせいか案の定ドアに真正面から激突して動きを止めた。
数秒後には器用に本の角の部分を使ってドアノブを回して出て行ったんだが、その動作がどうにも可笑しくて失笑する。
「これで蒐集だとかそういうのが無ければ文句は無いんだけどな……」
————数分後———
着替えた後、起動した月下に朝の挨拶をしてリビングの戸を開ける。
ちなみに待機状態の月下は紐を付けてペンダントの様に首に下げている。
「あれ、シグナムさん?」
誰も居ないと思ってはいたけど特徴的なピンク色のポニーテイルが目に留まる。
腕を組んでソファーに座っているが、よくよく観察すると瞳は閉じているしコクコクと頭が上下している。
(こんな所で寝ると風邪引きそうだな)
とりあえず手近にあった毛布を肩にかけようとした———のだが……
僕の気配を察知でもしたのかシグナムさんが目を覚ます。
「ん?ああ、眠ってしまったのか」
「すみません、起しちゃいましたね」
「いや、問題無い。休息は十分に取れたからな」
「怪我の方も大丈夫ですか?」
「あれだけ休めば私もヴィータも完治している、無用な心配はするな」
ここ数日ヴォルケンリッターは大した蒐集を行っていない。
理由は三つ。
一つ目は、限界に達しつつあったシグナムさん達の体力と魔力の回復を行うため。まあ、シグナムさんとヴィータは無理にでも出撃しようとしていたから僕とシャマルさんが止めて、余裕のあるザフィーラが幾らか蒐集を行っていたという事だ。
二つ目は、魔法という物に対して全くと言っていいほど知識を持っていなかった僕にそれらを教えるための時間を確保するため。
とりあえず大まかな魔法の原理やミッドチルダ式とベルカ式の二つの魔法体系の存在を教えられたりした程度だ。シグナムさんやヴィータ曰く僕は特殊な例だが、あえて言うなら白兵主体のベルカ式に近いらしい。
そして三つ目。それはシグナムさん達の持つ『アームドデバイス』や僕の月下にも付いているカートリッジシステムに必要なカートリッジという物を補充するための充電期間。
カートリッジ内部に圧縮魔力を事前に溜めておいて瞬間的にそれを開放するのがカートリッジシステムというらしいのだが、どういうわけかシャマルさんが作ったカートリッジ———いや、正確には僕以外の人間の魔力が入ったカートリッジとの適合率が異常と言っていい位に月下は低いらしく、僕のカートリッジだけは自前で作る必要に迫られたのだ。他にも調べてみると月下はアームドデバイス、ミット式の魔導師が使うインテリジェントデバイスやストレージデバイスとも微妙に仕組みが違うらしく、暫定呼称としてナイトメアデバイスと呼ぶ事になった。
「まあ何はともあれ、怪我が治ったんなら良いです」
それだけ告げて台所に向かおうとしたわけだが、何故かシグナムさんに肩を掴まれる。
「何ですか?シグナムさん」
「ランペルージ、一つ聞きたいのだがお前が使う魔法はみなそのデバイスのサポートありきなのだろう?」
「ええ、そうですけど」
恥ずかしい話だが、僕が単身で使える魔法はせいぜい念話が限度。砂竜を倒したとはいえ月下のサポートが無ければ何もできなかった。
「ああ、発動などはその通りなのだろうが。射撃の照準や剣技そのものに限っては違うだろ?」
「確かにその通りですね、だけどそれがどうかしたんでしょうか?」
段々と嫌な予感が背筋を走りだす。なんだろう、シグナムさんの目の色がおかしいぞ、アレ?
「だからここで少し私と手合わせ願いたい」
「え?……いや、ちょっと待って下さい!いくらなんでも勝てる気がしないんですが?」
「なに、実戦をしようというわけではない。それにお前と共に戦う以上は実力を把握しておきたい」
確かに、その言い分はもっともだけど。ギラギラと怪しく目を光らせている人に言われても全然説得力が無い。
こんな時助けてくれる可能性があるのは———
「そ、そうだ。月下からも何か言ってやってくれ」
〈何か、ですか?〉
「そうだ、頼む(何かフォローをしてくれないと色々マズイんだ)」
〈私は応援しておりますよライ様。黒の騎士団のエースと呼ばれた貴方の勇姿、しかと録画しておきます!〉
「フォローにさえなってないじゃないかぁぁぁぁ!!」
結局、どこかから取り出した木刀を押し付けてくるシグナムさんに逆らう術はありませんでした。