リリカルなのは×ロスカラ 改訂前
□四・五話 前編 男なら自分が言った言葉の責任を取りましょう
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というわけで僕とシグナムさんは八神家の庭で木刀を構えて対面しているわけだ。
未だ日も登っていないのえ辺りは薄暗い。
吐く息も直ぐに露点へ達し、白い水蒸気に変わる12月の外気はかなり身に染みる。
いつの間にか起きてきたザフィーラと闇の書、月下は今現在リビングから観戦している。完全に人ごとだと思ってないか?
「剣の型など細かいルールは決めない。どんな方法でもどんな手段でもいい、私から一本取ってみろ」
「了解しました」
もう断るのは諦めた。
四聖剣の人達と初めて会った時もこんな感じで勝負を挑まれたりしたものだが、こういうのは逆らうだけ無駄なのはどこの世界でも一緒なんだな。
両者とも防具を付けていないこの状況で中途半端に気を抜こうものなら怪我をしかねない、ならば———
「本気でいきますよ?」
「ああ、望むところだ」
その瞬間、周りの空気がガラリと変わったような錯覚に陥る
とても澄んでいて、とても鋭い。身を切る冷たい風よりも身の内から湧き上がる熱い高揚感が打ち勝つような感覚。
彼我の距離は数メートル、この状況では無いに等しい距離だ。
先に、シグナムさんが踏み込んでくる。
「はあ!!」
「くっ!」
上段からの鋭く重い切り下ろし。手に持つ木刀でなんとか受け止めるが数秒も持たせる自信はない。
なので木刀の角度を逸らしてその剣撃を受け流す。
このまま防戦に回っても勝ち目はない、そう判断して全力で木刀を横に薙ぐ。
「いい太刀筋だ、だが……」
「なっ!」
かなり自身のある一撃だったのだが、見事に防がれた。
そして待っているのはお返しとばかり見舞われる切り上げ。
一撃一撃が確実に防ぎにくい部分へと打ち込まれる。
再び防戦に追い込まれたので、ジリジリと後退するしかなくなる。
こうなったら一か八かの賭けに出るしかない。
シグナムさんの持つ木刀と僕の持つ木刀がぶつかり、甲高い音が周囲に響く。
その瞬間僕は”左手に持っていた木刀を手放した”
鍔迫り合いと言ってもいいほど力が拮抗した状況でそれをすれば勿論、シグナムさんは重心をずらされバランスを崩す。
「ちぃっ!?」
腰を深く落とし、回転力を加えて正拳突きを放つ。
反則といわれても反論出来ないような手段、だがシグナムさんはふっ、と口元を緩めただけ。
かなり不意打ち気味に放ったのだが、それをギリギリで避けられた。
この不意打ちに失敗した今、姿勢的には僕が絶対的に不利な状況にある。
「なかなか面白い手を使う。だがそれは愚策だったな」
「それは、どうですかね!」
木刀を手放した僕に向けて振り下ろされるシグナムさんの木刀。
僕は“右手に持ち替えていた木刀で弾く”
あえて後ろ手に持つ事で相手の死角に木刀を配置していたのだ。これだけ卑怯な手を使わざるを得ないほど目の前の騎士は強い。
「くっ!」
先ほどの正拳突きはただのフェイク。本命を繰り出すための囮にすぎない。
(藤堂さん、あなたの技使わせていただきます)
予想外の反撃のせいで体勢を崩したシグナムさんに向けて僕は木刀の切っ先を向けて突きを繰り出す。
が、それもまた避けられる。
しかし、この技のオリジナルはそもそも一回では終わらない。
避けられるのを想定して直ぐに引っ込めていた腕の筋力を駆使し、二度目の突きを繰り出す。
確実に肩を狙った一撃なのだがそれは木刀で防がれる。
(ならば、これで終わらせる)
最後の一撃、ギリギリまで収縮させた筋肉の力を一気に解放して木刀の突きを繰り出す。