リリカルなのは×ロスカラ  改訂前

□第一話 過去の過ちと新たな出会い
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ある日突然闇の書から現れた男の子。
 男の人にこう言うのは失礼なんやけど、とても“綺麗”というのが一番しっくりくる感想。
 触ったらさらさらと揺れそうな銀髪と真っ白な肌。絵本から飛び出してきた白雪姫って説明されたほうが納得してしまいそうや。瞳の色は何色なんやろうね? 
 魔法少女リリカルなのはA'S 銀月の王と夜天の主始まります。

 第一話  過去の過ちと新たな出会い



 それは遠い過去の現実。夢幻。虚像。

 かつての『私』は守りたかった、異国の人間の血が流れているというだけで他の王族から疎まれ、いつ暗殺されるかも分からない母上や妹を。しかし、所詮政略結婚で生まれた”形だけの皇位継承権”など何の役にも立たなかった、生かすも殺すも気分次第……私達はそんな不安定で曖昧な立ち位置の人間だったのだ。

『“力”が欲しい、家族を守れるだけの“力”が』
『君がぼくの願いを一つだけ叶えてくれるなら、あげようか?王の力を』
 そんな私に力を与えたのは年端もいかない小さな子供、見た目通りの年齢でないことはすぐに分かった。喉笛を切っても死なずに、老獪さを兼ね備えた子供など薄気味悪いだけだ。
 本人は『魔法使い』と名乗っていたがそんなことには今となっては興味がない
 たとえ相手が悪魔だろうが魔王だろうが力をくれるなら私は進んで契約を交わしただろう。

 その結果、手に入れたのはギアスの力。いかなる命令でも一度だけ強制することの出来る絶対遵守の力。
 この力で私は異母兄弟共を事故死させた。半分は血のつながった兄弟を殺す事に罪悪感を覚えなかったわけではない。ただ、私は興味が無かったのだ。
 目の前で物言わぬ冷たい骸になった兄達。心底どうでもよかった、息子を失い嘆き悲しむその親も。次王候補を失った後見人達の絶望も———私はそこに『色』を感じる事が出来なかった。
 自分を取り巻く世界に『色』なんて感じなかった。
 玉座を奪ったとはいえ、王の権力や財宝なんぞ何の価値も感じない。

 私が望むのは母上と妹の絶対なる安全、彼女たちが安心して過ごせる世界。
 だが、内なる敵を滅ぼしても、小国であったその国は常に敵国からの侵略の脅威に晒されていたのだ。
 
 大切なものを守るため。
 ギアスを使い、策を張り巡らし、自らも戦場へ出ることで確実に敵を打ち滅ぼしていった。
 己が国力を増強させるための政策は結果的に民の生活を豊かにし、国民からは賢王と崇められ、逆に隣国からは残虐で非道な狂王と恐れられた。

 その過程でどれだけの血を流しただろう?
 
 裏切り者は処刑し、逆らうものには粛清を下した。
 すべては———愛しい母上と妹を守るために
 不思議なものだ、『大切な人を守るため』という大義名分さえあれば人はどこまでも残酷になれる。

 ————しかし、夢は最も残酷な方法で崩されていく————
 
「我が国はかつて、まともな兵力も持ち合わせぬ弱小国であった……
 だが今は違う!忠実なる臣民諸君のおかげでかつてないほど大きな力を得た——」
 
 北の大国に進軍を開始する前夜、兵の士気を向上させるために開いた演説。静と動、緩急つけた話術、民草の集団心理を利用した心理誘導、それらの賜物だろう。広場には兵士以外にも自国の国民達が大勢集まっているというのに静まり返っている。それはさながら王宮直属の占星術師のお告げを待つ大臣たちのようでもあった。

「——しかし、今度は北の蛮族共が我が国の国土を踏み荒らそうとしている。
 そんなことを許してよいのか?このまま罪のなき民が略奪され、蹂躙されるのをただ見過ごしていてよいのか?
 否!!
 諸君達の未来を拓くため、我々は蛮族共を討たねばならない!!」
「「「「「オオオオオオオオォォォォッッ!!!」」」」」

 我ながらとんだ道化を演じていると思う。
 国民の未来のためなどど大義名分を掲げていても、それは所詮自国を脅かす敵を滅ぼす言い訳に過ぎない。これが母上と妹を守るための障害にさえならなければ見ず知らずの蛮族共が自国の民をいくら殺そうが興味は無い。
 国力を削がれるから打ち滅ぼす、実に短銃な理由だ。
 
「敵を討ち滅ぼせ!!未来は我が名と共にある!!」

 本来ならば兵を鼓舞するためだけのその一言が全ての引き金となった。

「敵を殺せ!!ライ陛下の為に」
「「「「「殺せ殺せ殺せ殺せ!!!」」」」」
「「「「「滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ滅ぼせ!!!」」」」」

 広場に集まっていた若者が手に手に武器を取り、敵を殺せと叫びだす。
 血気盛んな若者達がそうすることはこれといって珍しいことではなかった。精々人の波に呑まれて数名ほどの人間が怪我するというのはいつも通りのオチ……
 だが……
「何が、起きている……?」
 最初は目の前で起きている事が信じられなかった。

 若い兵士が槍を掲げた。
 敵を貫くために。
 足腰の弱そうな老夫婦が木槌を手に取った。
 敵の脳髄を砕くために。
 気のよさそうな城下町の料理人が包丁を構えた。
 敵の肉を切り裂くために。
 気難しいことで有名なきこりが斧を掴んだ。
 敵の首をはねるために。
 夫と喧嘩して機嫌を損ねていた主婦は剃刀を振り回した。
 敵の喉元をき切るために。
 小さな子供は尖った木の枝や堅い石ころを手に持つ。
 敵を倒すために。

 王宮前の広場に集まっていた、性別も職業も年齢もなにもかもがバラバラな人間全てに共通する事実。
 それぞれが、目を真紅に染め北の蛮族を討ち滅ぼすために武器を構える。
 異常を通り越して、何もかもが異質で歪なその光景。
 兵士の一人がかかげる剣———まるで返り血など浴びた事のないのではないかと思うほど磨き上げられた剣の側面に映る己の顔を見たとき、全てを悟った。

 両目の光彩は真紅に染まり、瞳の奥からは今にも羽ばたかんとする不死鳥を彷彿とさせる不気味なマークが浮かび上がっていた。
 ———ギアスの暴走———度重なる使用によって限界寸前まで来ていたギアスの力がついに暴走した。
 本人の意思に関係なく、ギアスは『敵を討ち滅ぼせ』と広場の民衆に絶対遵守の命令をかけてしまった。


「やめろ!!策もなく突っ込んで相討ちにでもなるつもりか!?やめるんだ!!」
 必死に私は進軍する軍を止めるために声を張り上げた。

 一度かけてしまったギアスは二度と取り消せない。
 たとえ王が命令しようと、刃が胸を貫こうとギアスのかかった民衆は最後の瞬間まで命令を果たそうとする。

 その軍は数週間かけて最後の一人が動かぬ骸に変わるまで『敵を滅ぼす』為だけに進軍を続けた。
 人としての情を捨て、命を維持するための食事や睡眠も一切行わない、統率など欠片も無い、死を恐れない狂った暴力の流れ。
 結果、北の蛮族の国はとてつもない損害を被り、放っておいても周囲の国から攻め滅ぼされるほどに弱体化した。

  
 そして……———亡骸と瓦礫の山、空に立ち上る黒い煙と赤黒い血で大地が汚された戦場跡で、私は最も恐れていた現実と対面することになる。
 幾百、幾千、幾万の亡骸の山などよりもよほど恐ろしい現実と————

「はは、うえ?……動いて……下さい。
 こんなに真赤に服を汚して、風を引きますよ」
 
 
「サク、ラ?……お願いだ、目を開けてくれ。
 また私と折り紙を折ろう……そうだ、君の名前の元になった花……母上の祖国から取り寄せたんだ。
 あんなに見たがっていただろう?……目を、開けてくれ……お願い、だから」
 
 そこで見つけたのは冷たくなり、瞳を閉じた母上と、我が妹サクラ。
 母上の祖国の人間には珍らしくない(残念ながら私には受け継がれなかった)綺麗な黒髪も、着ていたドレスもベットリと赤黒い血で汚れている。手に握られているのは乾いた血がこびり付いたナイフ。

 これは何かの間違いだ!何かの夢だ!
 そうだと思い込もうにも心のどこかで私は気付いてしまった。
 お前は、自分の守りたいものを自分で壊したんだよ”
 ”因果応報”
 世界が、価値観が、生きる理由が、全てが音を立てて崩れ去ってゆく。
 
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