リリカルなのは×ロスカラ  改訂前

□第二話 もう涙は見たくないから
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綺麗な藍色の瞳をした男の子———ライって名前らしいです。
 でも、彼の目はとても寂しそうで悲しい色をしていました————半年前のわたしと同じ色……
 なんだか彼を放っておいたらアカン気がします。
 だけど……まだわたしには彼を笑顔にする方法は分かりません。
 
     
     二話 もう涙は見たくないから

 服を着替え終えた後。僕はこの家——八神家のリビングで座らされている。

 テーブルに向かい合う形で座っているのが僕が目覚めたとき傍にいた少女、八神はやて。
 そしてそのはやてを囲むように座っている三人と一匹————
 ピンク色の髪をポニーテイルにして凛とした雰囲気を漂わせる女性。気のせいでなければ、彼女が纏う雰囲気は歴戦の武人のそれによく似ている。
 金髪をショートボブにしたどことなくおっとりとした雰囲気を感じさせる女性。
 うさぎのヌイグルミ(なのだろうか?)を抱えた、かなり露骨に警戒の視線を送ってくる赤髪を三つ編にしている少女。
 青い、大型犬?(狼にも見えるのだが、日本では既に狼は絶滅しているし、そもそも青い狼なんて聞いたことが無い)
 これに僕を加えた計五人と一匹が今この部屋に居る者のすべてだ。


「ええと、とりあえずみんな集まったみたいやから話を始めるよ?」
 まずは、とはやてが話を切り出す。
「自己紹介が必要やね。
 ライさん、お願いできますか?」
  
 はやてに自己紹介を促され、僕はそれにただ事務的に応える。
「ライ・ランペルージです。よろしくお願いします」
 あまり多くを語る気にもなれなかったので自分の自己紹介は手短に済ました。そもそも僕の本来の素性は簡単に他人に明かせるような物ではない。
 退団したとはいえ、黒の騎士団という組織の中核に関する情報を有している僕は、間違ってもブリタニア軍に捕まるわけにはいかないのだ。
   
 その後も自己紹介は淡々と進んでいった。
 はやての紹介によると
 ポニーテイルの女性はシグナム。
 ショートボブの女性はシャマル。
 三つ編みの少女がヴィータ。
 大型犬の名前はザフィーラと言うらしい。
 名前からしてはやてを除けばイレブン———日本人というよりはブリタニア人のよう。ナンバーズとブリタニア人を区別する今のブリタニアの国是の下ではどうも珍しい光景に見える。
  
 そして、自己紹介の間中僕に注がれていた視線———
 それに含まれているのはとても鋭い警戒心。一転すればそれはナイフのように敵を傷つける敵意にもなる。
 一つのコミュニティに入り込んだ異物への対処法を模索するその視線は少なくとも友好的とはいえない。
 そんな視線がはやてを除く三人(と一匹)から注がれていたような気がするのは気のせいだろうか?
  
 しかし、それぞれの自己紹介が終わってすぐにその視線が何を意味するのかを知ることになる。

  
「よし、自己紹介も終わったしそろそろ本題に入るで」
「ええ、主はやて。まずは私に話をさせて頂けないでしょうか?」
「うん、ええよ。シグナムの方がわたしより状況把握してるみたいやし」
   
 なにやら二人の間で話をしていたようだったが、直後にポニーテイルの女性——シグナムと名乗った———が話を切り出して来た。
「さて、私はあまり迂遠な言い回しは得意でないのでな、率直に言わせて貰う。
 ランペルージと言ったな?、今お前がいるのはお前が元居た世界ではない」
「……はい?」

 一瞬。言われた事に対して脳が理解に追いつかなかった。
 僕が居た世界とは違う世界?
 辺りを見回してみるも“異世界”という単語を連想出来るような物より、日本語で書かれた本やカレンダーを始めとしたごくごく一般的な家庭に置いてある様なものしか見つからない。
 こんな状況でそんな台詞を吐けるのは精神病の患者くらいのものだ。
  
「失礼ですが、何故そうお思いになったのか聞かせてくれませんか?
 今こうして使っている言語や周囲に置いてある物から考えてもここはエリア11だと思うんですが?」
「エリア11?、やはり我々との間に認識の食い違いがあるな、それに魔法や別次元世界についても知識がないとは……。では、掻い摘んで説明しよう———」

 とりあえず彼女の提案でお互いの知識についての誤差を無くすために両方の話を交えながら現状確認をすることになる。
 そこから明かされた事実には僕の予想を大きく上回る様なものが沢山あった。
  
 魔法や次元世界、時空管理局という組織やロストロギアと呼ばれる魔法アイテムが存在するという事実。
 そして僕が居た地球と今ここに居る地球はパラレルワールドであり、どうやら僕はロストロギアの起こした次元転移というものによって八神家《ここ》に飛ばされたらしい、ということ。
 目の前で話しているシグナムさん達もその闇の書というロストロギアの作りだしたプログラムだということ。
 文化や地形、気候などに大きな差異は無いようだが歴史は大きく違い、
 こちらの地球にはブリタニアや中華連邦、KMF《ナイトメアフレーム》は存在せず、日本も占領されてなくてエリア11とも呼ばれていない、ということ。
 大まかに纏めるとこんな所だろうか?
  
 あまりにも突拍子のない話だ。リフレイン末期の患者でももう少しまともな夢想をする。これはそう、リヴァルに何度か見せられた漫画の世界の話にしか聞こえない。端的に言うと”おかしい”
 しかし、残念ながら僕もその”おかしい”部類の人間に入っていると言える。
 ギアスと言うオカルト的な力を得、その挙句数百年という時を眠って過ごしたのだ。今更そこに異世界へのトリップが混ざってもさほどの汚点にはなりそうにない。
 そもそも、一慨にそれらを嘘やデタラメと決めつける要因も存在はしない。
 元々僕の人生自体がある意味オカルト的な道を歩み続けているわけだからむしろ否定はできないのだ。
 昔から世界中で航行中の艦船や飛行機が突如消息を絶つという事例があったらしいが、もしかしたらそれらの中にはこういった次元転移が原因のものも含まれているかもしれない。と思考する。
  
「なるほど……なんとなくですけど、理解しました。
 その闇の書という…ええと、ロストロギアがこの状況を引き起こしたということですよね?」
「ああ、理解が早くて助かる。そして闇の書の存在については———」
「絶対に他言するな、ということですよね?」

 話を聞く限り、時空管理局という組織からすれば闇の書の存在は到底黙認出来るような物でないのは理解できる。
 それをわざわざ正直に話すのだ——、
 僕をある程度は信用してくれているのか
 それとも場合によっては簡単に口封じが出来ると言外に語っているのか、隠しても無駄だと判断したのか
 ……おそらくはそのどれかの要因が働いたのだろう。見た目は幼子にしか見えないヴィータでさえ触れれば切れるような鋭く固い警戒心を向けて来る。放つ気が歴戦の武人のそれと同等なのだ。その前で自分がどれだけ無力か…あまり試したくはない。
 
「その通りだ。無理やり異世界に飛ばしておいてそれについて他言するなというのはとても不躾な事で心苦しいのだが……」
「構いませんよ。それに僕は元々帰る家のない身ですから謝る必要もありません」

 多分、僕がここに飛ばされたのはその闇の書だけが原因ではないと思う。何らかの形でギアスやあの遺跡が今回の件に関わっている可能性は高い。
 だが何故、僕が目覚めてからギアスの力が発動しないのか聞いてみたくはあったが、それを話す事についての躊躇いがどうしても拭えない。
 余人がその存在を知って悪用する可能性もある。
 僕を助けてくれた人達を騙すようで心苦しいが、わざわざ関係のない人に僕の過去を話して変に気負わせるのも悪い———目の前のはやてがそういう少女だというのは話している内にすぐ分かった。
  
  
「さて、と。色々ありがとうございました
 ……では、僕はこれで」
  
 話している最中にシャマルさんの入れてくれたお茶を飲み干して、腰を上げる———ごく自然に、客人が家を去るかのように。
 そうすると、案の定はやてが声をかけてきた。  

「え?あの、お金や帰る家もないのにどこ行くんですか?」
「いや、これ以上この家でお世話になるわけにもいかない。
 大丈夫、こちらの世界と僕が元居た世界に大差がないというのなら生きていくのに困りはしないさ。
 もちろん闇の書についても他言はしないと約束する」
 
 そうは言ったが、一つだけ嘘が混じっている。 
 元々僕はここに居るはずのない———居てはいけない人間なんだ。
 今はなぜか収まっているとはいえ、いつギアスが暴走を再開するか分からない以上、僕がここに居続けるのは得策ではない。もしも僕が街の往来で「踊り続けろ」と叫べば、老人も子供も男も女も関係なく死ぬまで踊り続ける。疲労の蓄積で肉が悲鳴を上げても、脳が危険信号を出しても、人々はその命令を遂行するためだけに生き続ける。ギアスとはそんな力なんだ。
 遺跡での眠りという選択肢が潰れてしまった以上、僕が取れる選択肢は一つ。
 幸い12月の気温なら野宿すれば翌日には………

「ダメっ!!」
  
 立ち上がり、玄関に向けて歩を進めている僕の服の袖を掴む手があった。
 勿論、その小さな手の正体は車椅子の少女、八神はやてだ。

「はやて、心遣いはありがたいけど、僕は大丈夫だ。生きていくのに問題はない」
「そんなこと言って……本当は生きようなんてこれっぽっちも思ってないんやろ?」
「っ!?」
 
 弱々しく呟かれたその言葉に真実を射抜かれて僕は一瞬言葉を失った。
 こんな小さな子に嘘を見抜かれるなんて……よりにもよって一番知られたくない相手に。

「私、分かるんよ。守護騎士のみんなと会うまでは私も病気で死ぬんはそんなに怖くなかった。
 今のあなたの目はその時の私と同じ……きっと放っておいたら遠くへ行ってまう」
「…………」
「帰る家が無いんやったらここに住めばええ、お金の心配はあらへん……
 だから、だからそんな悲しそうな目せんとって!!」

 しまいには涙を浮かべながら懇願してくるはやて。
 どう考えても昨日今日に出会った人間に対する態度ではない、見ようによっては慈愛の行動だが、一歩間違えばそれは一種の狂いだ。
 だけど…
 (何故だ、何故?僕は今日会ったばかりの他人なんだぞ!!なのに……何故この子は涙を流す?)
 その涙を見ると胸が痛む、嫌だ、見たくない

 ふと、目の前で涙を流す少女の姿と最愛なる人達の姿が重なる————

 僕が王になると決意して以来、笑顔を見せる回数より涙を流す回数が増えた妹のサクラ

 また折り紙を一緒に折ろうと嘘を吐く僕の事を信じてくれたナナリー

 彼女達もこうして人の為に涙を流すことが出来ただろう。そう思うと尚更その姿が重なって………
   
 それに気付いた。気付いてしまった僕の頬を一筋の涙が伝う。
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