リリカルなのは×ロスカラ  改訂前

□二・五話 エプロンが似合うのは?
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二・五話 エプロンが似合うのは?

 色々あって僕は八神家に居候することすることになりました。
 居候という状況にもはや慣れさえも感じる僕の人生って一体?
 いや!考えたら負けな気がする……はぁ。
 魔法少女リリカルなのはA’S 銀月の王と夜天の主、始まります。


    二・五話 エプロンが似合うのは?


 八神家の居候として過ごすことになった僕の初めての仕事。
 それははやてが夕飯を作る手伝いをすることだった。

「いやー、ライくんって意外とエプロン似合うで」
「ん、そうかい?」

 はやてから借りているエプロンは青を基調とした布にデフォルメ化されたタヌキのアップリケが付いている可愛らしいものだ。
 多分この子の手作りなんじゃないかと思う。

「それにしても、その年で家の家事を一通りこなすっていうの大変だね、親はどうしたんだい?」
「あー、うん。お父さんもお母さんも私が小さい頃に事故で亡くなってもうたから家事はもう私の日課なんよ」
「っ!(馬鹿か僕は!?少し考えたら分かったはずなのに)、すまない無神経な事を聞いてしまった」
「あはは、そんなに気に病まんでもえーよ。
 今はシグナムやヴィータやシャマルやザフィーラ、それにライ君が居るから全然寂しくないよ」

 小さな笑いを上げて屈託ない微笑みを浮かべるはやて。
 ついさっきまで泣いていたのは目の錯覚か何かじゃないかと思うくらいに明るい笑みだった。
 年相応とも不相応とも取れるその笑顔に少し不安になる。この車椅子の少女は色々な苦労をして来たんだろう。
 ———そんなことを思いながら僕は目の前の作業に集中する。

「ええと、まずは洗っといた野菜を切ってもらおうかな?」
「ああ、それならすでに終わらせといたよ」 
「うお!いつの間に?。それなら、次はそれ炒めてや」
「善処する」

 事前に何を作るかは聞いていたので割とスムーズに事が進む。
 フライパンに油をひいて僕は目の前の野菜を炒める。まずは火の通りにくい素材から炒めるんだったかな?
 勿論、途中で料理酒やら調味料やらを加えるのも忘れない。

 「むむぅ」
 「ん?もしかしてどこか間違ってたかい?」

 横のはやてが僕の手元を覗き込みながらうなってくるので一抹の不安を感じながらも聞いてみる。
 もしかしたら僕の世界の食に関する知識とこちらの世界の食に関する知識とでは差があるのかもしれない。異なる歴史を歩んだ地球ならば当然ながら文化も違う、文化が違えば食に変化があってもそうおかしなことではない。
 しかし、すぐにそれは杞憂に変わる。

「いや、料理酒入れるタイミングといい、調味料の分量といい、見事なまでにお手本通りやなぁって」
「はは、お褒めの言葉ありがとう」
「もしかしてライくんって主夫とかやってたん?」
「まさか、僕に既婚歴は無いよ」

 そんな他愛のない話を続けながらもはやては卵を割ったりフライパンに油をひいたりと時間を無駄にしない。
 この子の方がよっぽど主婦に向いてるような気がする。
 というか、こうして料理をしていて一つおかしなことに気付いたんだが———
 元々僕はそれほど料理が得意ってわけでは無かったはず。
 王だった時代には、毒殺を防ぐために料理人にはギアスをかけていたのだから、そもそも凝った料理に挑戦する理由も無かった。
 なのに今は料理本にでも乗っているようなお手本通りの“知識”が頭の中に入っている。
 多分バトレーに脳を弄られたとき植えつけられた知識の一つなんだろうけど……一体バトレーはムニエルの作り方だの上手にピザを焼く方法だのを人の頭に植え付けて何をするつもりだったんだろう?  
「……執事か何かにでもしたかったのか?」
「どうしたんや?ライくん」
「ああいや、なんでもない」
「そう?ならええんやけど」
 どちらにしても、異質な知識が知らないうちに脳内へ埋め込まれていた事には不快感しか覚えない。
 役に立つ知識を埋め込んでくれたことには関してはバトレーに感謝すべきなのだろうか?
 それとも人の眠りを妨げて体や脳を弄ったことに腹を立てるべきだろうか?
 まあ、二度と出会うことはないだろうから意味はないのだけど……

「あらあら、美味しそうね。
 はやてちゃん、ライ君、私も手伝うわよ」

 僕が考え事をしている最中にでも近づいてきたのか、エプロンを着たシャマルさんが横に立っていた。
 個人的な感想だが、女性らしいピンクのエプロンがよく似合っていると思う。
  
「そうですか?じゃあ少し手伝ってくれませ————」
「「止めろぉぉぉぉ!!!」」
「きゃっ、なんなの!?」
「こら!シグナムにヴィータ、今は夜なんやからあんまり大声出したらあかんよ。近所迷惑や」
「もうしわけありません、主はやて」 「ごめんはやて」

 決死の形相でシグナムさんとヴィータ(+ザフィーラ)がキッチンに突撃してきた。(まあ、二人ははやてに怒られて静かになったけど)
 なんというか、食事にがっつくというよりは、命の危険を感じた人間の叫びによく似ているような気がする。
 ……とはいってもたかが夕飯の準備で死者が出る訳もないのだから、なぜそこまで必死なのか全然想像できない。 
  
「突然どうしたんですか、二人とも?」
「いや、シャマルに料理をさせるなと忠告に来たのだ」
「シャマルの料理はギガマズだからなー」
「そ、そんなことないわよ!最近は上手になってきたのよ」
「砂糖と塩を間違えた挙句、ただの水と料理酒を間違えたのにか?」
「うぅ!……」
「やっぱギガマズじゃねーかよ」
  
 
「しくしく。ねえザフィーラ聞いて、シグナムとヴィータちゃんが酷いのよー」

 シグナムさんとヴィータに完膚なきまで叩きのめされたシャマルさんだが、遂にはザフィーラにすがりつきだした。
 なんというか……動物に話しかける姿は憐れに思えてきたよ。

「俺も二人の意見に賛成なのだが……
 お前も疲れているだろう、ゆっくり休んでいればいい」
「そんな、ザフィーラにまでぇぇぇぇぇ!?」

 最終的にはザフィーラにまで慰められるというか突き放されるというか……シャマルさんは泣きながらどこかへと走り去って行ってしまった。
 ん?ザフィーラ?


「ザフィーラが、喋った!?」
「ああ!そういや忘れとったけど、ザフィーラは喋れるし人の姿にもなれるんやで」
「やはり……忘れていらしたのですか。」
 
 なぜだか落ち込んでいる(ようにも見える)ザフィーラ。力強い毛ヅヤと長い牙から連想できる勇猛な獣の姿とそれは妙な事にもマッチしていた。
 まあ、彼にも色々あるんだろうから余計な口出しはすまい。

「気を取り直して自己紹介をするが、我が名はザフィーラ。守護騎士の一人にして主はやてに仕える守護獣だ
 これから同じ屋根の下暮らすもの同士、よろしく頼むぞ」
「あ、ああ。こちらこそよろしく」

 さすがは魔法世界の住人。
 こんな絵本の中みたいな展開になるとは思ってなかった。
 探せば妖精とかも出てくるかもしれない。

「ラ—イーくーん?
 手がおるすになっとるでー」
「おっと、そうだったね」
「それと、ザフィーラとシグナムとヴィータはシャマル探してきてくれへん?
 多分そのへんで“の”の字でも書きながら落ち込んでるやろうからすぐ見つかると思うよ」
「わかったよ、はやて」 「了解しました」「匂いをたどればすぐ見つかります」

 三者三様の返答をしつつもはやての言うとおり残ったヴォルケンリッターはシャマルさんの捜索に駆り出される。
 そこにあるのは主の命令に従う騎士、というよりは家族の為に何かをするという温かい”日常”
 それだけでみんなの絆の深さが窺い知れる。その光景を”羨ましい”と思ってしまうあたり、まだ完全に僕が八神家に溶け込めていないのだと思う。そもそも完成された内輪のコミュニケーションは他所からすればそう見えるものなのだろう。

 ……そうだ、僕は僕で料理の途中だったんだ。
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