リリカルなのは×ロスカラ  改訂前

□四・五話 後編 猫と折り紙と指きりげんまん
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 ご、午前中は酷い目に遭った。
 何百年も戦い続けてきた騎士ってのはやはり伊達ではないようだ。
 次の動きを予測して行動を練ってもそれを実力や経験で乗り切られる……上には上がいるんだな。
 だけど、こんな生活でも長く続くのならまんざらじゃない。そう思えて……魔法少女リリカルなのはA'S銀月の王と夜天の主始まります。


 四・五話 後編 折り紙と猫と指きりげんまん


 シグナムさんに変なスイッチが入って約六時間。昼食を食べ終えた僕はソファに座って休んでいる。
 稽古が終わった直後は体中の筋肉が悲鳴を上げていたけど、今はそれほどでもない。
 (痣になるような攻撃はほとんど受けていないし、何よりシグナムさんはなんだかんだ言っても手加減をしてくれていたらしい………が、流石にそれだけの実力差を見せられると凹むな) 
 
 そもそも人ならぬ身である守護騎士達の年齢は外見とは裏腹に数百を越えているらしい。そしてその存在がゆえに数百年という時間の大半を血と硝煙渦巻く戦場で過ごしたというのだ。
 それが意味するのは、シグナムの内には数百年分の剣技が蓄積されているという事。そんな経験値の差を人の寿命で埋めるのは土台無理な話。
 
「やっぱ手数をもっと増やした方がいいのか」
〈それ以前にライ様も本気では無かったようですが?〉

 次こそはシグナムさんに打ち勝つために幾つかの戦闘パターンを脳内でシミュレートしていたら、待機状態の月下が話しかけてくる。

「ん?ああ、あれ以上は互いに相手を殺したり傷つけるための戦いになるからね。
 いくらなんでもたかが稽古で首を賭けるつもりはないよ」
〈確かにそうですね、それは非効率的です〉

 元々僕の武術は単純かつ確実に敵を制圧、もしくは殺すための技に特化している。
 玉座についていた時も常に暗殺者に狙われていたため騎士道だとか競技的な意味の武術よりは『何時いかなる時、どんな状況でも敵と相対し続ける』為の武術を習っていたような気がする。
 正直な話、常日頃から武器を携帯し続けるのは困難なので身近にある物さえも武器として扱わないと生きていけなかったのだ。
 そこへバトレーがあれこれと現代の戦闘技術を体に刷り込んでくれたものだから悲しい事に欲しくもない戦闘技術ばかりが身についてしまって、自分の中で決まった戦い方というのがどうにも曖昧になってしまった。
 
「まあ、本気で首を賭けてもシグナムさん相手にどこまでやれるか自信は無いんだけどね」
 弱々しく微笑んで見せる。正直な話、死線を乗り越えてきた回数も明らかにシグナムさんが上だ。
〈ならばシグナム様に弟子入りをするというのも一つの手では?〉
「………死にそうな気がするんだが」
〈大丈夫、ライ様はそう簡単には死にませんよ〉
「とりあえずそれは褒め言葉として受け取っておく」

 確かに弟子入りも一つの手だが、既に”マニュアル”を徹底的に刷り込まれ、藤堂さん達との稽古で身に付けたりした日本の剣術などがある以上、他の武術に手を出すことが自分にとってプラスになるかマイナスになるかは正直なところよく分からない。
 まあ、剣術以前に僕は他に魔法を習得するべきなのかもしれないが。
(魔法の基礎体系に理数系の知識が必要とはいえ、構築式を一から作るとなれば流石に時間がかかるだろうし。
 そうなると、シグナムさん辺りに手伝ってもらうのが手っ取り早いかもしれない)

「おーい、ライ」

(だけど、今現在の月下に備えられている魔法とは別に即実戦レベルで使える上にすぐ習得できる魔法なんて限られるはずだ……)

「おーい、聞いてんのか?」

(となれば、月下の兵装と並行することで本来以上の能力を発揮出来るような補助的なものの方が良いだろうな)

「あたしを無視すんじゃねぇーーー!!」
 
 突如、考え事をしていた僕の鳩尾にお見舞いされる鋭い飛び蹴り。
 飛び蹴りは偶然なのか、午前中シグナムさんとの稽古で打たれた場所と寸分違わない部分にクリーンヒット。肺の中の空気を根こそぎ持っていかれるような衝撃に思いっきりせき込む。
 
「げふっ!!げほっ!な、何するんだヴィータ、痛いじゃないか」
「何度も呼んでんのに答えねえお前が悪いんだよ」
「ああ、そうだったのか。ごめん考え事してたんだ。
 だけど仮にも女の子なんだからスカートのまま飛び蹴りは感心しないよ?」
「飛び蹴りをされた事自体にはツッコミ無いんだな」

 思いっきりジト目で睨みつけられる。言われてみればその通りだな。
 鉄槌を振り回して砂竜と死闘を繰り広げる姿を見たせいですっかりそういった感覚が麻痺したみたいだ。

「まあ、細かい話は置いといて。
 僕に何か用事があったんじゃないのか?」
「そうそう、ヒマだからゲームしようぜ〜」

 そう言いヴィータは手元に持っていたゲームのソフトらしきディスクを僕に見せ、次に八神家のリビングに設置されている据え置きのゲーム機を指さす。
 ここ数日何度かはやてとヴィータが一緒にやっているのを見かけたから、僕にも相手をしろという事なんだろう。
 しかし、そういったTVゲームの類に僕はどうも疎い傾向がある。
 そもそも生きていた時代が時代なのでチェスとかならともかくTVゲームなんてした事が無い。
 知識があるとすれば時々リヴァルやカレンが話題に出してきた、ブリタニアが日本進攻以前に世界中で流行ったらしい竜の名を冠するRPGや配管工の中年兄弟がさらわれた姫を助け出すらしいゲーム(きっと配管工を装ったエージェントか何かが活躍するんだろう)のタイトルくらいだ。

「大体事情は理解したけど、何故相手が僕なんだ?
 その手の娯楽物はやった事が無いんだけど」
「はやては今忙しくてゲーム出来なくて、シャマルもザフィーラもシグナムもアクションゲームが苦手
 だから残ったのはおまえだけなんだよ」

 (それだけの理由で飛び蹴りを受けるのはなんだか腑に落ちないような気もするんだけどなぁ)
「まあいい、僕でよければ相手を……って答えを聞く前から既に臨戦態勢ですか?」
「ほらほら、細かい事は気にしないでさっさとコントローラー握れよ」

 僕の答えを聞く前にゲームを起動画面にしている辺り答えを聞くつもりは無さそうだ。
 そうテンション上がった声で促されるとどうにも断れず、結局二人してテレビ画面の前に座る事になる。
 これからやるのは対戦形式のアクションゲーム。
 なんでもこっちの世界で30年以上も前から大人気のSFアニメシリーズのロボットを動かして戦う物らしい。
 ヴィータ曰く『元の作品?別に知らなくてもゲームとしては楽しめるだろ?』との事なので、多分適当に面白そうなゲームタイトルを選んではやてに買ってもらったんだろう。

「じゃあさっさと始めんぞ!」
「おい、まだ操作方法も分からない人間にそれはないんじゃ……」

 僕の抗議もむなしくゲームは戦闘画面へ

 画面内でヴィータが操るロボット(白と赤と青のトリコロールが特徴)が何やらビームらしき物をバカスカ撃ってくる。
 それに対して適当に選んだ僕の機体(緑色でモノアイ、装備はマシンガン)はまさしく無抵抗で屠られる。必死で操作方法を書いた説明書を読んで抵抗するが当たり前のようにHPゲージは削られ—————

 YOU LOSE 
 無情にも僕側の画面に敗北を示す表示が現れる。
 
「よっしゃあ!買ったぁ」
「………」
「まあ、初めてにしてはよくやった方、ん?どうしたんだライ?」
「……やろうじゃないか」
「はあ?」
「もう一度、今度は負けない……大方のルールは覚えた、次は勝つ」
「よし、もう一回やんぞ!!」

 負けたままだというのはどうにも癪だ。
 次こそは完膚なきまでに……叩き潰す!!

〈はあ、こんなところで負けず嫌いを発揮せずともよいのに〉
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