リリカルなのは×ロスカラ  改訂前

□第五話 接敵
1ページ/6ページ


 闇の書の真の主としての覚醒。それがはやての生き残る唯一の道。
 だけど……たとえその悲願が成就しても、元通りの生活を営む事は二度と出来ないかもしれない。
 あまりにも異質な力の存在というのは総じてそういうものだから…… 魔法少女リリカルなのはA'S 銀月の王と夜天の主始まります。


 第五話 新たな邂逅


 文化レベル0——不毛な砂漠しか広がらぬ小さな次元世界で、対峙する二つの人影があった。
 騎士甲冑を身に纏い、その手に焔の魔剣レヴァンティンを構えた女性———騎士シグナムと
 黒いバリアジャケットとマントを纏い、閃光の戦斧を構えた少女———魔導師フェイト。
「預けた決着は、出来れば今しばらく先にしたいが。
 速度はおまえの方が上だ、逃げられぬというのなら…戦うしかないな」
「はい、私もそのつもりできました」

 お互いに武器を構えた姿勢から交わす言葉は強い決意を秘めた言葉———既に幾度も刃を交えた好敵手(ライバル)のような覇気が両者の間に満ちているものの、この二人が出会ってからまだ一月と経っていない。
吹き荒ぶ熱風が砂塵を巻き上げる。
そして両者の距離は一瞬で縮まり————


 ———同時刻・異なる次元世界にて———

 暗雲の立ち込めた空域で二人の人影が拳を構えた姿勢で睨みあっている。
 本来なら人間が単身で浮遊するなどあり得ない事だが、魔導を扱う者はそれらの物理法則を一時的に無視できる。
 重力の網から逃れ、拳撃に乗せた魔力は人間の腕力が生み出すエネルギーを遥かに超える。
 否、性格にはその二つの人影は”人”ではないのだ。
 本来は獣の姿こそが真の姿である両者は人外の印である狼の耳をその頭部から生やしている。
 筋骨隆々な大男の姿をした盾の守護獣———ザフィーラと
 茜色の髪を生やした女性の姿をした使い魔———アルフ。

「あんたも使い魔……守護獣ならさ、御主人様の間違いを正そうとしなくていいのかよ!!」
「闇の書の蒐集は我らが意思。我らが主は……闇の書の蒐集について何もご存じない」
「なんだって!?…そりゃ一体…」
 あまりにも予想外の答えが帰って来た事で困惑するアルフ。
 しかしそれを尻目に、強く拳を握りしめたザフィーラは言葉を吐き出す。

「主の為であれば、血に濡れる事も厭わず……
 我と同じ守護の獣よ。お前もまた、そうではないのか?」
「そうだよ、でも…だけどさ!」

 ザフィーラの語る主への忠誠心。その決意はアルフにも痛いほど分かる。
 かつて、自分もそれと全く同じ事を思い。決して契約で縛られているわけでないのに主であるフェイトの為に戦ったのだから……
 だからこそ、それでは駄目だとアルフは知っている。
 ———その決意は言葉だけでは変えられない———そう知っているからこそ、岩をも砕く二つの拳は数多ある次元世界の一角でぶつかり合う。
 

 
———さらに同時刻・別の次元世界にて———

『シグナム達が?』
『うん、砂漠で交戦してるの。テスタロッサちゃんと、その守護獣の子。』
『長引くとマズイな、そっちに行かなかっただけマシだと思いてえけど。助けに向かうか……っ!』
『ヴィータちゃん?』
『くそ、こっちにも来やがった、例の白服』
「ヴィータちゃん?ヴィータちゃん!……切れちゃった」
 
 ヴィータとの精神通話で連絡を取っていたシャマルは、突然精神通話の回線が切られて不安そうな表情になる。
 長年の付き合いで、ヴィータは強敵や本腰を入れて戦わなければならない状況では集中力を乱さないために精神通話の回線を切る癖があるというのを熟知していたためそれほど混乱するわけではなかったが————
 逆説的に、それだけ相手が手強いという事を示している。
「シグナムさんかヴィータ、もしくはザフィーラが戦ってるんですね?」

 全体的に蒼く流線的な装甲の騎士甲冑とバイザーを身に纏った少年——ライ——がシャマルに声を掛ける。
 ライはその精神通話に参加していなかったため会話の内容までは分からないものの、シャマルの雰囲気で大方の事情を把握していた。
 緑色のドレスの様な騎士甲冑の裾を軽く揺らしながらシャマルは答える。

「うん、三人とも管理局の魔導師と鉢合わせしちゃったみたい。
  それも互角に戦えるレベルの……」

 それを聞いてライは一瞬背筋に寒気が走るような錯覚に襲われる。
 (シグナムさんやヴィータと互角って……一体どんな猛者が来ればそうなるんだ?)
 ザフィーラの実力は知らないが、かなりの巨体である砂竜を簡単に倒せるシグナムとヴィータ。
 その二人と互角ともなればどこか現実離れした敵のようにも思える。
 何の根拠もなく———そう、ブリタニアの猛将と名高い豪傑であるアンドレアス・ダールトン将軍のようにたくましい魔導師がシグナムやヴィータと現在戦っている姿を想像してしまうのは戦っている当の本人達の姿を知らない者からすれば仕方ない事だろう。
 まあ、現実に戦っているは先日ライが出会った二人の華奢な少女なわけだが———

〈管理局が本格的にこっちを捕縛しに来たのなら“ここ”も直に感付かれます、一時撤退を進言します〉

 淡々とした声でライの騎士甲冑の核である月下は警告する。
 今現在、ライとシャマルが居るのはシグナムの戦っている次元世界とは殆ど離れていない次元世界。
 周囲はほどよく茂った森で、木漏れ日が差し込み、木立が優しい葉擦れの音を奏でている光景はピクニックやキャンプに最適だ。
 少し辺りを見回すだけでも地球には存在しないような動植物が山ほど存在しているわけだが、リンカ—コアを持たない以上深く気に掛ける必要も無い。
 
 リンカ—コアの蒐集に手頃な魔法生物を探す為にシャマルの広域探査魔法を展開していただけで他の二人ほど派手に蒐集を行っていないライとシャマルの二人は恐らく管理局に見つかってはいない。
 とはいえ、もしも管理局の魔導師に見つかれば、直接的な戦闘能力の低いシャマルや未だに対魔導師戦経験のないライは少々不利な状況に追い込まれる可能性が高い———そう判断したがゆえに月下はそう言ったのだ。

「そうね、シグナムやヴィータちゃんならきっと逃げられ……えっ」
「!何か来たんですか!?」
「今そっちに情報を送るわ、見て頂戴」

 シャマルのデバイス——クラールヴィント——から幾つかの情報を乗せた帯状魔法陣が月下の核に接続される。
 ただ単に顔を隠すという機能だけではなく、月下のレーダーが周囲から入手した情報を取捨選択して映し出すヘッドマウントディスプレイの役目も果たすバイザーにこの次元世界の地形図が表示される。
 ライとシャマルの居る位置から同心円状に数十キロは鬱葱と生い茂る森に囲まれ、近くには小さな湖があるのがその地図を見れば分かる。
 言うまでもなく言葉を話せるような一定以上の文化レベルを持つ生物の類が周囲に住んでいないのは明白だ。
 しかし、問題はそこではない。
 まだ何キロも離れているが、着々と地図の右端——シグナムが戦っている次元世界に隣接する点———に向けて真っ直ぐに進む“六つの光点”
 空を飛んでいるであろうそれは特定の陣形を取っている。

「この場所、このタイミング、そしてこのルート……どう考えても季節外れの渡り鳥じゃあ無さそうですね」
「そうみたい。かといってもピクニックやキャンプ、なんて洒落込んだ雰囲気でもないわね」

 ならばそれらの正体は一つ。
 足止めをくらった狐(シグナム)を捕まえる|狩人達《魔導師》
 ほぼ同時にその考えに行きついた二人の表情は自然と曇る。

 光点の数は六、すなわち六人もの魔導師がシグナムを捕縛する為にこの次元世界の空を飛行している事になる。
 烈火の将の実力の一端でも拝めば、現在魔力も体力も完全な彼女がそう簡単に敗北するような腕の持ち主ではないと容易に想像出来るが、実力の伯仲した魔導師との戦闘中に後ろから挟撃などという展開になってしまえばそうも言っていられない。
 シグナムとて神話に出てくるような最強の戦士ではないのだ。

「月下…少々荒っぽいハイキングになりそうだけど、行けるかい?」
〈肯定。サクラダイト魔力伝導率、残カートリッジ数、胸部収納予備ハーケンワイヤー、飛燕爪牙(スラッシュハーケン)、高機走駆動輪(ランドスピナー)、他各種兵装とも全て正常起動値です〉
「ちょっと、ライ君、月下ちゃん。まさかあなた達……駄目よ!管理局の武装魔導師を六人も相手にするのは荷が重すぎるわ!」

 ライと月下の会話から二人が何をしようとしているか察したシャマルは必至でそれを制止しようとする。
 まだまだ大した魔法戦の経験もなく、月下に備え付けられた魔法を除けばライ個人で扱える魔法もせいぜい精神通話や肉体強化、そしてつい先日シグナムに頼み込んで習得していた”とある魔法”だけ。
 敵を倒すにしてもあまりに切れるカードが少なすぎる。
 いくら初戦で砂竜を倒したとはいえ対魔法生物戦と対魔導師戦はそもそも勝手が違う、そんな素人がプロの魔導師に対して突然戦いを挑むというのはかなり無茶な話なのは当然。しかも数は向こうが上なのだ。
 


「大丈夫です、何も正面切って戦いを挑むほど僕は正直じゃありません……
  だけど、狩人達を逆に罠にかけるには貴女の手助けが必要なんです、力を貸して下さい」

 その時、湖の騎士はただ黙ることしかできなかった。
 幾度もの転生で時には一国の王の下で蒐集を行う事もあった……そして目の前の少年の声には戦乱の時を生きた王の様なある種の完成された威厳が感じられる。
 そう、策を練り、兵を率い戦う古代の王の様な……
 (もしかしたら出来るかもしれない)
 大した根拠は何も無い……だがシャマルはこの言葉に信じるに足るものがあると判断した。

「仕方ないわね……私もそのハイキング、協力するわ。
 だけど危なくなったらすぐに止めてね?」
「ええ、引き際は心得てますよ……なんたって僕は嘘つき”ですからね」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ