【改訳】聖剣伝説3(移転)

□プロローグ
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 ……とある世界、とある日、とある場所に、弱々しい光が忽然と現れた。そこは人々から忘れられた小さな島の上空。
 そんな小さな異変を誰も知らない平凡な日からこの物語は始まる。六人の青年と三つの悪と世界の命運が交差する物語が……。
 北の広い雪原に一人の少女が行き倒れた頃、中央の鬱蒼とした森で一人の少年が叫び、南の砂漠では一人の男が親友殺しの疑いで投獄された。

 そして同じ頃、ファ・ザード大陸北西部、草原の国フォルセナでは……
「お……ン……しっかり……」
 世話役の男がフォルセナの若き衛兵に声を掛ける。しかし、銅製の胸当てをまとうその青年は返事をしない。剣先を硬い床に付け、ジッと前しか見ていない。
「声を掛けても無駄さ。準決勝の時もそうだったが、試合開始直前になると相手しか見えなくなっちまうんだよ。そいつは」
 もう一人の世話役の言った通り、今の彼には高鳴る心音と闘技場へと開ける入り口の光しか感じられなかった。長年掛けて研ぎすまされた集中力の賜である。
 そして決戦の刻となり、ファンファーレが鳴り響く。
「おい、デュラン。出番だぜ!しっかりな!」
 ドクン、ドクンとの脈音に合わせながら、光の指す方に歩みを進める。
 同じように反対側から現れるアーマーナイト、ブルーザー。彼も何か喋るが、デュランの耳には入らない。
 唯一聞き取れたの、
「ただ今より剣術大会若手部門、一位決定戦を行う!両者前へ!」
 デュランの剣術の師匠であり、フォルセナ国の統治者――英雄王の声だった。彼は厳かな顔で闘技場の真ん中に立ち、二人の剣士を呼ぶ。
 にらみ合う二人の顔を見てから、英雄王はゆっくりと右手を上げる。
「はじめ!」
 彼が右手を振り下ろすと同時に、渋い声が場内に響き渡った。
 合図と同時に、ブルーザーは一歩二歩と踏み込み、大剣を一突きする。デュランはひらりと左前方に進み出ながらそれをかわし、剣を降り降ろし一太刀、素早く胸を突いての二太刀目をいれる。
「くっ、キサマ」
 ブルーザーは苦顔を見せつつも、デュランが英雄王の死角に入ったことを確認し唇の端を釣り上げた。彼は素早くデュランに切り込むが、集中力が極限に高まっている彼に避けられないはずはなかった――はずだったが。
カラン――と、デュランの剣が地に落ちた。
「てめぇ……」
 デュランの鋭い視線がブルーザーの右手に――その手に握られているスパナに――向いた。
 ブルーザーは左手で一閃を放つと同時に鎧に忍ばせていた凶器で、回避したデュランの右手を打っていたのだ。
「倒れろ!」
 ブルーザーが再び一閃を降りおろす。
 デュランは突差に自由のきく左手で剣を拾いながら、その一撃を回避し、敵の懐に潜り込んだ。
「!?」
 声をあげる間もなく、彼の一撃がブルーザーの鎧を打つ。
 ガシャン!――大きな音ともに彼は後ろに倒れた。しかし、デュランの追撃は終わらない。立ち上がろうとするブルーザーに、
「これで最後だ!」
 と言い放ち、勢いよく跳躍した。
「十文字斬り!」
 デュランはフォルセナの強兵が得意とする必殺技を放った。
 鉄が鉄を打ち砕く衝撃音と、その衝撃に吹き飛び地面に叩きつけられた鎧の衝突音、そしてブルーザーの叫び声が闘技場に響きわたる。
「うぉおおッ!……ま、マイッタァァ!」
 静まり返る場内に、再び低く渋い声が響きわたる。
「そこまで!デュランの優勝だ!!よくやったぞ!腕をあげたな、デュラン」
 英雄王の声に呼応するように、城壁から観戦する国民が沸いた。
 沸き立つ観衆の中から、デュランは一人の女の子――妹のウェンディ――を見つけ出した。おばさんのステラと共に大はしゃぎで喜んでいるのを見てから、デュランは剣先を天空に突きつける。
「見てるか、父さん」
 雲ひとつない空、強い日差しもが彼の勝利を祝っているようだった。

 草原の王国フォルセナの傭兵、デュラン……
 父親は英雄王のかつての友人であり、『黄金の騎士』と称されるロキであったが、デュランが幼い頃に行方不明となる……。
 母親も病気で亡くしてからは、伯母のステラのもとに妹のウェンディと共に引き取られた。父親の思い出はほとんどないものの、やはり血は争えず剣術において若手の中では右に出る者がない程の腕で、フォルセナ国の傭兵として英雄王に仕えるようになった……
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