【改訳】聖剣伝説3(移転)

□第1章「運命の胎動」第1話
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 一日半の船旅を経て、デュランはウェンデルへの窓口とも呼べる城塞都市ジャドに着いた。
 船から降りる際に船乗りが
「何だか町の様子がおかしい。あんたも警戒しな」
 と声をかけてくれた。
 どうやら船乗りの見立ては正しいらしく、港から町中に入ると一人の男が来訪者に脅迫めいた挨拶を告げた。
「俺は獣人のルガー!討伐部隊のリーダーだ!ジャドの町は、我々ビースト軍が占拠した!大人しくしていれば、危害は加えない!また、この都市の外に出ることは許さない!港も門も封鎖する!」
 デュランは驚いた。
「門まで封鎖されたらウェンデルに行けないじゃねぇか!?」

 途方にくれながらジャドを歩いていると、至る所で獣人が我が物顔で歩いているのが見て取れた。その中でデュランは、一人隠れるようにしている獣人を見つける。
(獣人は鋼の肉体で、戦闘レベルも常人の何倍と聞くから力技での強行突破は厳しいだろう。しかし、手頃な奴から倒していけば、もしかしたら…)
 デュランは路地でコソコソする獣人に声をかけた。
「おい、そこの奴!」
「う、うわっ!?」
 獣人の男、いや青年はビクッと驚いていた。
 その姿を見て、
(こいつは、他の奴らとは違うんじゃないのか?目に殺意みたいなもんがねぇ……)
「おまえも奴らの仲間なのか?」
「ち、違うよ!オイラはケヴィン。あいつらと同じ獣人だけど、ここには光の司祭様に会いに来たんだ。大事なトモダチを生き返らせたくて……」
「じゃあ、どうしてそんなコソコソしてるんだ?」
「オイラ、奴らと同じビーストキングダムにいた。でも、今はわけあって追われてる。だから、見つかるわけ、いかない」
「……そうか。疑って悪かったな。俺も光の司祭に会いに行きたいだがこの状況だ。どうだ、俺と強行突破に出ないか?」
「それ、無理。奴らは人間討伐部隊、獣人の中の選りすぐり。オイラらたち、かなわない。絶対」
「そうなのか。どうすっかなー?」
 デュランは頭を抱えた。そんな彼を見かねたように
「夜を待つ」
「えっ?」
 ケヴィンはそれ以上はなにも言わず黙ってしまった。

 『夜』というキーワードを得つつも、デュランにはさっぱりだった。
(なんだよ、『夜』って?)
 悩みながら歩いていると、すぐ横にPABがあることに気づいた。
(居酒屋か……。ここは夜になれば人が来るからな、なんか手がかりがつかめるかもしれない)
 デュランはそう考え、店の中に入っていった。中はガランとして、暇を持て余してるマスターと旅人の出で立ちをした男がカウンターにいるだけであった。
「よお。あんたも旅人かい?こんなんじゃあ飲むしかないよな」
「そう言って飲みに来てくれる奴は殆どいないよ。町の人間は獣人が怖くて、夜は家の中に閉じこもっちまうのさ」
「そりゃ気の毒に」
 するとマスターはデュランに顔を近づけて小声で言った。
「だがそこが町を抜け出す狙い目でもあるのさ。奴ら夜になると野生の血が抑えられなくなるのか、獣化しちまって見張りも手薄になるのさ」
「本当か!?そりゃ良いことを聞いた。ありがとう!」
 デュランはパブを飛び出た。騒々しいその男の背に店にマスターは届かぬ声を叫んだ。
「あっ、おい!?……ちぇっ、一杯くらい飲んでけよな」
「ハハッ。ありゃ旅の素人だな。じゃああいつの分も俺が飲んでやる。もう一杯くれよ」
「おっ、流石だね、ダンナ!名前はなんていうんだい??」
「俺かい?俺はホークアイっていうんだ。また来たときはよろしくな」

 デュランは夜に備えて武器・防具を揃えに行くことにした。
 しかし武器屋に行くと
「獣人の奴らに武器を没収されちまった。これじゃ商売あがったりだよ」
 と商人がまさかな事を言い始めた。
「何!?武器置いてないってのか?」
「ああ。悪いね」
 デュランは頭を掻き、仕方なく店を後にすることにした。すると、長い後髪を束ねた15、6歳の少女が入ってきた。
(この子も武器を買いに来たのか?)
「あんたも武器を買いに来たのかい?だったら残念だか、それは無理だ。獣人共に持ってかれちまったらしい」
 デュランはその少女に話しかけていた。緑色の服を着た少女は少し驚く素振りを見せる。
「そうなのですか…?でも仕方ないですね。ご丁寧にありがとうございます」
「あっ、いや、そんな礼を言われることじゃねぇよ」
(武器を買いに来たってことは、この子も旅人か?それにしても随分丁寧な言葉遣いをする子だな)
 相手もデュランと同じことを考えていたらしい。
「あの、私は『リース』と言います。風の王国ローラントから来ました。あなたも旅人なのですか?」
「ああ。俺は草原の王国フォルセナのデュランだ。ちょっと訳ありでウェンデルに向かってるんだ」
「あなたもなんですか!?実は私もなんです。あの……、ここから出られる良い方法などご存知じゃありませんか?」
「それならパブのマスターが良い情報教えてくれるぜ」
「パブ……ですか?」
 幼さを残す少女の顔が急に曇った。
「パブならさっき言ったのですが、カウンターに座ってた髪の長い男の人に、その……、気持ち悪いこと言われて……」
「ナンパされたのか?」
 少女は無言で頷いた。
(たしかに、軽々しく声かけそうな顔してたもんな、あの長髪)
「なら俺が教えてやるよ。耳を貸してくれ」
 デュランはリースに、夜になれば獣人は獣化して、見張りが手薄になるということを小声で伝えた。
(それにしても、こんな少女がモンスターのいる森の中を一人で進むなんて危険だな)
「ところで、君は一人でウェンデルに行くのかい?もしそうなら、旅は道連れ世は何とかだ、俺がお供してやろうか?」
 リースは瞬きを二、三回してから微笑み、
「いえ、大丈夫です。こんな情報まで教えて頂いた上に、そのようなご迷惑はお掛けできません。それに私にはこれがありますから」
リースは腰背に仕舞う三槍に手をかけた。
(そんな華奢な体で槍術ができるのか?)
「そうかい?まぁ、無理にとは言わないけど」
「はい。ご心配ありがとうございます。それに私、こう見えても【アマゾネス】なんですよ。それでは、失礼します」
 少女は礼儀正しく頭を下げ、店を出ていった。
「大丈夫かねぇ。まぁ、いいや。俺も行くか。武器売ってない武器屋に用はねえし」
 
 デュランは店を出て、夜になるまでに体力を回復させようと思い宿屋に足を向けた。そこに女の馬鹿でかい声が訊こえた。
「いったいわねぇ!!どこ見て歩いてんのよ!!」
「なにぃ!キサマ、人間の分際でオレ様にたてつこうってのか!?」
「人間の分際?ふん!ただの狼男が偉そうにしてんじゃないわよ!」
 誰かが獣人に喧嘩を売ったらしい。遠巻きに眺めるジャドの市民たち。デュランも思わず声の響く方向に目をやった。
「てめぇ、このアマ!随分ナメた口きくじゃねぇか!」
 獣人に反抗的態度を取っていたのは、自分より少し年上の美人な女性だった。怒り心頭の獣人はその美女に今にも殴りかからんとしている。
「待てよ、獣人のおっさん!」
 デュランの体と口はすでに動いていた。もともとの熱血漢であるからして、一方的なケンカを見過ごすことはできなかったのである。
「そんなガタイした男が女に手を挙げるとは、獣人ってのも情けない種族だな!!」
「なんだその目は!?やろうってのか!?」
「望むところだ!」
「ちょっとアンタ!」
「君は下がっていろ!」
 視線を背にいる女性に向けて彼女を後ろに下げた。そして、剣を抜こうと前を見ると、すでに獣人は戦闘態勢にあり、剣を抜く間もなく、獣人の剛腕がデュランの体を吹き飛ばした。
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