【改訳】聖剣伝説3(移転)

□第5話
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「さぁデュラン!フォルセナに案内しなさい!」
「言われなくてもそうするつもりだ。フォルセナはここから黄金の街道を通って、大地の裂け目という崖にかかる吊り橋を渡ればすぐだ」
 お姫様育ちがそうさせるのか、アンジェラは桟橋から降りるや否や、人差し指を突き出して言った。指を鼻先にさされたデュランは二人を引き連れてマイアを出ようとする。すると、町の出入り口に小さな人溜まりが出来ていることに気がついた。三人がその横を通り過ぎようしたところで、一人の男が話しかけてくる。
「よう、あんた知ってるかい?ウェンデルの司祭様、ビースト兵を駆逐した後に前よりも強力な結界を張ったらしいんだが、それが禁呪の一種らしく、呪いで倒れられたらしい」
「なんだって!?」
「その呪いを解ける神官ってのがいるらしいんだが、何でもそいつも行方不明らしい。光の司祭様まで倒れられて、一体世界はどうなっちまうんだろうな……」
 男はそれだけ言って去っていった。
「ねぇデュラン。司祭様、大丈夫かしら……」
「うーん、正直わからないな。でも、シャルロットが側にいるんだ、大丈夫だろ。たぶん」
「だと良いんだけど……」

 三人は光の司祭の安否気にしつつ、黄金の街道を進んだ。
 そして、ポロンなどのモンスターを退け、大地の裂け目とよばれる洞窟に入った。大地の裂け目、そこは巨大な地下渓谷であり、その谷の深さがまるで大地が裂けてしまったように見えることから、その名がつけられた。

「懐かしいな。ほら、この吊り橋を渡ればフォルセナは目と鼻の先だ」
 デュランが先陣を切って大きな吊り橋を渡っていくと、橋の終わりに一人の女が立っているのに気がついた。
 あまり見ない服だな、と思いつつ近づくと、その女もデュラン達に気がついた。すると、その女は驚いた顔を作り
「あっ!フォルセナ兵!……アンジェラ王女まで!!」
 素早く笛を鳴らし、仲間を集合させた。
 その行動にたじろぎながらデュランは叫んだ。
「その服はアルテナ兵かっ?!ここで何をしてやがる?!」
「うるさい!ここで見られたからには生かしてはおけぬ!」
「ちょっと!私はアルテナの王女よ!物騒なことはやめなさい!!」
 アンジェラが制止しようとすると、その女性魔導士はじっと彼女の顔を見てニヤリと笑った。アンジェラも相手の顔を怪訝そうに見ていた。そして、何かに気付いた。
「あんた、もしかして……アイリス?」
 アンジェラは目を丸くして、魔導士の顔を見た。だが、彼女は顔色一つ変えず、
「アンジェラ王女、理の女王様より反逆罪で抹殺命令が出ております」
 その言葉に、アンジェラは耳を疑った。ショックで涙がにじんだ。
「ま、抹殺?!そんな……。私が何をしたって言うのよ……」
 アンジェラはつり橋の上にへたり込んだ。ぽろぽろと、涙が膝をぬらす。
「おいおい、穏やかじゃねえな」とホークアイ。
「黙れ!おまえも仲間だな?!おい、例の魔兵器を使うぞ!こいつらを橋の上に閉じ込める結界を張れ!」
 隊長格らしきその女が指示すると、二体のマシンゴーレムが吊り橋の前と後からゆっくりと歩いてきた。
「アンジェラ、泣いてる場合じゃないみたいだぜ」
 デュランに声をかけられたアンジェラが顔を上げ、こちらに向かってくるマシンゴーレムを見た。さらなる驚きが彼女を襲う。
「マシンゴーレムR?!こいつはアルテナで試作段階の新型のマシンゴーレムよ!ハイスペックだから、みんな気をつけて!」
 言うや否や、二体のマシンゴーレムが徐に腕を延し、その二の腕部分まで赤く光り始める。
「気をつけて!ロケットパンチが来るよ!」
 アンジェラの叫びを聞き、デュランとホークアイは橋の左右に飛びのいた。すると、さっきまで自分がいた場所をゴーレムの腕が剛速に飛び交っていった。
「あ、あぶなかった……。アンジェラの忠告がなかったらいきなり致命傷だったぜ」
「デュラン、呆けてる場合じゃないぜ!この機械人形をどうにかするんだ!」
 ホークアイの一喝に身を引き締め、デュランは剣を抜いた。
 二度三度と剣身を打ち込むが、マシンゴーレムの装甲は堅く、大きなダメージは与えられなかい。
「くぅ〜、かってぇ!」
「私に任せて!」
 アンジェラは叫ぶと、覚えたての呪文を唱えた。
「ホーリーボール!」
 前見た時と同様に、無数の光の玉が現れ爆発する。その衝撃で二体のマシンゴーレムはそれぞれ吹っ飛んだ。
「やったか?!」
「いや、まだだ!」
 ホークアイの言葉通り、二体のマシンゴーレムは立ち上がり、三人を目指して進軍してきた。
「無駄です、アンジェラ王女。吹き飛ばされた時は肝を冷やしましたが、マシンゴーレムの装甲にはマジックシールドの呪がかけられています」
「ベェだ!一回位で何言ってんのよ!もう一発行くわよ!」
 アンジェラが再び呪文を唱えようとすると、一体のマシンゴーレムの胸が開き、ロケットミサイルが発射されようとした。
「あぶない!」
 ミサイルが発射されると同時に、デュランがアンジェラの前に立った。
「デュラン!」
「うわぁぁ」
 ミサイルはデュランに直撃し、今度は彼が大きく吹き飛ばされてしまった。
「デュラン!」
 デュランに駆け寄るアンジェラ。
「……ケガはないか?」
「大丈夫だよ……。ごめん、私……」
 デュランはアンジェラの手を握った。
「あの時の、滝の洞窟での一発を、もう一度俺に見せてくれよ」
「でも……」
「大丈夫だ。次はうまくいく」
 デュランの励ましにもう一度立ち向かう勇気を得たアンジェラは力強く頷いた。
「今度は俺とデュランでマシンゴーレムの動きを止める。敵なんか気にしないで、しっかり呪文を唱えるんだ!」
 ホークアイは叫びながら、得意のダガーさばきをゴーレムに浴びせた。デュランも起き上がり、もう一方のゴーレムに突きを入れた。
「……邪気を吹き飛ばせ、ホーリーボール!!」
 アンジェラがさっきより強く念じ叫ぶと、さらに大きな光の玉が現れ、空中に円を描いて四散した。
「くっ!なんて魔力なんだ!」
 結界を張るアルテナ兵は驚いた。ついこの間まで全く魔法を使えなかったアンジェラとは思えない程の威力を目の当たりにして。
 大きく吹き飛ぶマシンゴーレム。しかし、再び立ち上がる。
「やっぱりダメなの……?」
「いや!今度はばっちり効いてるみたいだぜ」
 見ると、二体のゴーレムの装甲には亀裂が生じていた。
「デュラン、壊れた所に必殺技をぶち込んでやろうぜ!」
「おう!」
 ホークアイの提案を受け、デュランはバチバチ音のしている亀裂に十文字斬りをお見舞いした。反対側では、ホークアイがキレイで素早く華麗な必殺技、背面斬りを披露していた。

「十文字斬り!!!」
「背面斬り!!!」

 金属同士がぶつかる鈍い音が大きく響き、二体のマシンゴーレムは勢いよく吹っ飛んだ。その衝撃は凄まじく、デュランの相手だったゴーレムは吊り橋から落ちていった。そして、はるか下の方で大爆発を起こした。
 一方、ホークアイのマシンゴーレムはぴくりとも動かなくなり機能を停止したみたいだった。

「やったー!」
 三様の喜びを見せる三人。そしてデュランは結界を張る魔導士たちに指をさし言った。
「さぁ、俺たちを通して貰おうか!」
「うぬぬぬ……んっ?……ヤバイ!逃げろ!皆撤退だあ!!」

 アルテナ兵はデュラン達の後ろを見ると、血相を変えて逃げ出した。
 疑問符を浮かべて後ろを見ると、機能停止したはずのマシンゴーレムが立ち上がり暴走気味に腕と頭をグルグル回していた。
 するとアンジェラが叫んだ。
「こいつ、魔力をコアに収束させてる。自爆する気だよ!」
「爆発するのか?!みんな、逃げろ!」
 警告音を鳴らしながら、ゴーレムはデュランたちを追いかける。フォルセナとは逆の方向へ。徐々に赤く発光していくマシンゴーレムの向こう、自分の故郷が遠退くことにデュランは歯噛みした。
 警告音が高鳴り、ミスリル銀製のボディが弾けた。その衝撃に吊り橋は大破し、裂けた大地の中へと落ちていった。
 爆発の直前、崖っぷちに跳んだ三人は、暗闇の中に姿を消していく木片を見ていた。。
 ひとり、アンジェラは沈んだ顔をしている。
「みんな、ごめんね……私のせいで迷惑かけて……」
「まったくアルテナって国は何てひでぇ国だ!」
 デュランが怒りを口にすると、母国を悪く言われたアンジェラは態度を一変させた。
「何ですって、デュラン?!フンだ!あんたも吊り橋と一緒に落ちちゃえば良かったのよ!」
「まぁまぁ。痴話喧嘩は別の時にしてくれ。それより、これからどうするんだ?」
「なっ?!」
 アンジェラは顔を赤らめた。
「そうだな。フォルセナへの一本橋も落ちちまったし、一旦マイアに戻るか」
「ちょ、ちょっと、デュランもちょっとは否定しなさいよ!」

 黄金街道に出るため洞窟内を歩くなか、アンジェラの顔はやはり沈んだままだった。他国への侵略、母親からの抹殺命令、自分でせいで道がなくなってしまった――そんな言葉が彼女の頭を埋め尽くす。
 出口に差し掛かったとき、デュランは言った。
「アンジェラ、見て見ろよ」
「……きれい」
 黄金街道、その名の由来はこの道にしか咲かない花にある。この花は色素の関係で夕陽を浴びると光を乱反射し黄金色に輝くのである。故に、この花が咲き乱れる街道は夕方になるとまるで黄金のように輝くのであった。
 彼らが洞窟で戦闘を繰り広げている間に陽は傾き、まさに今、黄金街道は黄金色に輝いていた。
「この道は夜になりゃ真っ暗になる。でも太陽が昇れば明るくなる。陽が沈む時も輝くんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「でもな、その輝きは夜暗いからなんだ。吸収した光を夜に全部抜いちまうんだってさ。だから、日が照るときに明るくいられるんだ」
「……」
「俺たちも同じだ。暗い、ていうか、辛い時があるからこそ、日があたる時に十二分に輝ける。今はさ、色々辛いけど、必ず先は拓けると思うぜ」
「"大悪来たれば大善来たる"ってことだな」
 デュランの言葉にホークアイが付け足した。
「今悪い時だからこそ、この先は善いことが起きる、そう変わっていくってことだ。昔、ある国の書に書かかれてた言葉だ」
「まぁ、そういうことだ」
「……ありがと。デュラン。ホークアイ」

 アンジェラは微笑んで礼を述べた。
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