夜道の図書館

□愛しき幽霊
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 僕は小さい頃からずっと入退院を繰り返している。
 小学校に入学する頃でも入院しがちだった。つまり、小学校はちゃんと行ってない。故に友達もいない。独りぼっちだ。
 初めは、母や父がいつも病室に居てくれた。でも、やっぱり小学校に入学する頃にずっとは居てくれなくなった。だから、僕は大部屋にいたけど、いつも孤独感に襲われていた。一人で外を眺めて、一人で朝ご飯とお昼ご飯を食べる。すると、母か父が見舞いに来てくれる。家族の会話には思えない事をして、さようならだ。
 例えば、
「今日はどうだった?」
 と、親が聞く。
「特に何もなかったよ。ちょっと頭痛が長かったくらい」
 と、僕が言うだけだ。これに対して親は、
「そうか」
 と、言って終わりだ。家族とは思えないだろ。でも、仕方がない事じゃないかと自分に思わせている。そう、無理にでも思うようにしている。
 だって、僕は不治の病にかかっている。死ぬまでの時間が長く最も苦しむという病気の一つだ。病名は長いから覚えていない。治らない病気の為にお金を払うなんてドブに捨てるみたいだから。親は比較的成功している会社に勤めている金銭面の心配はしなくていいと言っていたけど、心配するつもりもないがな。
 小学六年生の頃だっただろうか。僕の何もない生活に一輪の花が咲いたのだ。
「あたし、葉月っていうんだ。君は?」
 同じ病室に彼女が入院してから数分で僕に話しかけてきた。常に目付きが悪いと言われる僕は話しかけられると思ってなかった。動揺した。
「ぼ、ぼ、僕は長月・・・です」
「ふーん、長月っていうんだ。同じ漢字があるね」
「そ、そうだね」
 僕は何故かここで恥ずかしくなって「もう寝るから、話しかけないで」と言った。そして、布団に潜った。
「そっか。また後でね」
 彼女は自分のベッドに戻って行った。
 他人とあまり話したことがない知らない人に話しかけられると焦る。どうすればいいか分からなくなる。でも、焦ると胸がドキドキするけど、いつもと違うドキドキだったような。こんな事相談できる人もいないし、どうすればいいか分かんない。
「はーい、長月くん。今日の調子はどうですか?」
 悩んでいたところに現れたのは白衣の天使でした。この天使は白井さん。入院した時からの付き合いで仲が良くなってしまった人だ。さっきから天使と形容しているけど、性格は悪魔である。
「朝早くに頭痛があったくらいです」
 白井さんはメモに何か書きながら、
「そうなんだ。最近は頭痛が少ないね。また退院できるかもよ」
 と、僕は勇気づけるように言った。別に退院とか言われても嬉しくないけどね。
「まあ、そうですね」
「えっ、退院するの嬉しくないの?」
 あたり前だ。退院したり、入院したり、何回繰り返してると思ってるんだ。
「あんまり嬉しくないですよ。友達いないし、どうせ、すぐに悪化して入院するだけだし」
 僕は呟く。
「こら! どうせなんて言葉使わない。幸せが逃げちゃうよ」
 白井さんはまたも勇気づけようとする。だから、僕にそんな言葉をかけても意味が無い。馬の耳に念仏。のれんに腕通し。
「治らないんですから、幸せとかもないんですよ」
「そっか。じゃあ、女の子に話しかけられて顔を真っ赤にした人に真っ赤になった理由を教えてあげようかと思ったけど止めるね。じゃあね」
 白井はそう言って違う部屋に行こうとする。
「ちょっと待って!」
 僕が呼び止めると彼女はこっちを振り向いた。
「それは恋だよ。長月少年」
 そう言って彼女は何処かに行ってしまった。
 恋。好き。愛してる。今まで無縁だった物がいきなり自分の目の前に現れた。どうするべき何だろう。白衣の悪魔は悩み事を増やしただけだった。
「くそ、相談相手間違えた」
 僕はもう一度布団に潜った。
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