正義の魔王と壊れた勇者

□第一話 現在 出会い
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<第一話 現在  出会い>
 小鳥がチュンチュンと鳴いている朝、僕はこの村を離れる。家宝である退魔の短剣を腰に差し、養父に別れを告げて意気揚々と王都に急いだ。
 魔勇王を倒すべく、集められた三人の仲間たちと集うためである。しかし、なぜ、自分が前の魔王の子孫なのだろうか。他の人も前の魔王の子孫というらしいから、詳しい話でも聞けるといいな。こんなことを考えていると突然魔物の鳴き声がした。
「ウオ――――ン」
 この林道の林の中から目の赤い狼が二匹出てきた。狼たちは、僕の周りを円を描くようにしながら歩き回る。そして近付いて来る。ど、ど、どうしよう。僕、剣士と言っても、まだまだ未熟だ。一匹ならどうにかなるのになあ。ここで死ぬ訳にはいかない。
「仕方ない。行くぞ狼ども!」
 僕は短剣を逆手に構えた。その時、一匹の狼が飛び掛ってきた。大きな口に鋭い牙がびっしりと生えている奴の武器が僕に近付く。僕はそれが向かって、一歩踏み出した。
「勇者流俊足(ダッシュ)斬り」
僕が唯一使える技を食らわせる為に。まあ、相手に向かって走ってすれ違いざまに斬り付けるだけだけど。狼とすれ違う時に大きく開けた口に短剣を食わせるように捻じ込ませた。退魔の力が付いているから、少し斬り付けるだけで致命傷になるはずだ。
「キャイン」
 狼は意外と可愛らしい鳴き声をあげて倒れた。
 僕は一匹を倒して油断していた。もう一匹が後ろから飛び掛ってきたことに全く気が付かなかった。
「えっ!」
 気が付いた時には、時すでに遅し。奴らの武器は目の前にあり、視界の全てが埋まってしまっていた。白い牙と赤い口内が迫ってくる。
 これで死んだと思った。
 これで終わったと思った。
 自分の村を出て王都までの道のりで死ぬ勇者って史上初じゃないか?
 あれ、でも、変だな? もう、食べられてもいいと思うのに、狼は一向に近付いてこない。
「あ、あれ?」
 僕は、ドンと尻餅を着いた。視界が広くなり、誰かが狼を掴んでいることが分かった。身長は僕より高い。百八十センチくらい。露出度が低い鎧を着ているが、胸の所に作られた膨らみやチラリと見える太股から女性のようだ。顔を見ると、舞踏会のような仮面で顔を隠しているが綺麗かどうかはよく分からない。でも、おでこから尖がった二本の角が生えていた。
「う、う、うわああああ!」          二話に続く

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