正義の魔王と壊れた勇者

□第二話 魔勇王の過去 決戦間近
1ページ/1ページ

魔王の城へと進んでいる俺と僧侶のミコ。そして、最近仲間に加わった女海賊のゼー・ロイパー。彼女の船はシエロ・ヴァールという、それは空を飛び、海面を駆け、海中も飛ぶのだ。その船のおかげで、魔王軍の攻撃に会う回数も減り順調に進んでいる。俺は、船首に立ち風を受け、迫り来る魔王の国を見ていた。
「勇者様っ!」
 エプロン姿のミコが後ろに立っていた。そろそろ、飯の時間か。
「ご飯ですよ〜。私が作ったんですよ」
 ピョコピョコという効果音が似合いそうに動いているアホ毛が頭の上で揺れている。和む光景だった。
「今、行くよ」
 ご飯を食べながら、不思議に思うことがある。船の中なのに波の音が聞こえない。そう、今は空の上なのだ。大陸の上を飛んでいて、もうすぐ、盗賊の隠し砦に着くそうだ。そこで補給をしたら、魔王の国に侵入するつもりである。
「おい、勇者! 勇者ってば!」
 ロイパーが話しかけてきたことに気付いてなかった。
「あ、ごめん。何の話だっけ?」
「テメェが魔王の国に入ったら、どうするか聞いてるんだよ」
 彼女は魚の身のようにプリプリと怒っていた。顔に傷がある怖い姐御が怒っているのだ。
「着いて来たいやつがいるなら、手を挙げてほしい!」
 俺は、この船の食堂全体に聞こえるように大声で言った。ざわついていた食堂が静かになった。海賊たちの顔がマジになっている。何を考えているのだろう。そこで船長が声を上げた。
「アタシは着いて行かせてもらうよ。ここまで送ってきたんだ。最後の最後まで一緒に行かせてもらうよ」
 その彼女の声が引き金となったのか、海賊たちが一斉に声を上げ出した。
「船長が行くなら、俺も行くぜ。そうだろ、野郎ども!」
 と、副船長の呼びかけに皆は答えた。
「「「「「あたりまえだぜぇ!」」」」」
「こんなに部下に恵まれるとは、アタシも嬉しいよ! よし、無線で他の船にも伝えろ」
 彼女は涙ぐんでいた。熱い人だ。
「いい人たちですね。勇者様」
 ミコが俺に寄り添ってきた。聖職者がこんなでいいのかと思うが、彼女はこの性格で教会に居られなくなったから一緒に旅しているのだ。
「そうだな、ミコ」
 俺は、彼女の頭を撫でてあげた。柔らかい髪の毛の感触が堪らないくらい気持ちいい。ミコがいるかぎり、俺は魔王なんかには負けないと思った。
 海賊たちが着いて来るということで砦で作戦会議があるそうだ。船長以外も乗り気だから、寝る時までも五月蝿かった。

 朝になり、もうすぐ砦に着くという連絡が入った。急いで甲板に出ると、谷の壁に直接、砦
が掘られている。そして、谷底には十隻の飛行軍艦が泊まっている。ロイパー海賊団の船は五隻。合計十五隻の艦隊で魔王の国に喧嘩を挑むには、いささか心許ない気もする。だけど、ここはならず者たちの力を信じてみようと思った。
 船長と俺とミコが砦の奥の部屋へと通された。そこには、協力してくれるという盗賊団の団長たちがいた。一人は、少人数だが盗みと暗殺の成功率は高いアサシン集団と呼ばれる者どもを束ねる頭領だ。もう一人は、数々の村を灰にしたという強盗集団の団長だ。恐ろしいほど頼りになる気がした。

 この日は顔を合わせた後、乾杯をし、宴会が始まった。
「ワハハハハ」
「ガハハハハ」
「アハハハハ」
 お偉い様方は高らかに笑いあっていたのだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ