正義の魔王と壊れた勇者

□第三話 現在  戦士と鍛冶屋
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<第三話 現在  戦士と鍛冶屋>
 僕は助けられていた。角の生えた女性に。彼女は、狼を押さえていた手に力を込めて、そのまま頭を握り潰した。僕は、その光景に圧倒されたのである。
「おーい、大丈夫か?」
 今度は茂みから女の子が出てきた。いかにも弓や銃を使う感じの鎧を身に付けている。しかし、背中に背負っている物は巨大な箱。まるで棺桶のような。
「あ、はい」
 僕は、服に付いた土ぼこりを落としながら立ち上がった。棺桶を背負った女の子が顔を近づけてきた。
「もしかして、お前が今回の勇者と言われる・・・カレジか?」
「はい、そうです」
 彼女は少し唖然となったが、顔が歪み、何かを噴出しそうになったと思ったら。
「アーハッハッハッハッハ」
 と、大笑いを始めた。まさか、こんな奴が勇者だなんてなぁーと笑っている。僕は勇者なんかには見えなくて、か弱い少年に見えるだろう。
「クルーオル、笑いすぎ・・・」
 角のある女性が静かに言った。クルーオルってもしかして!
「もしかして、お二人は僕と一緒に魔勇王を倒すという命を受けた。クルーオルとタシターン
ですか?」
「そうだよ。僕がクルーオルだ。十七歳。悪魔の血を受け継いでいると言われている種族の生き残りで武器を作るのは天下一だ」
 棺桶を担いだ女がクルーオル。すると、角のある女性がタシターンか。
「私は・・・タシターン。十五歳。鬼と人のハーフで、力が強いで・・・す」
 大きな体とは裏腹に声は小さかった。そして、可愛い声だった。
「あ〜、こいつはしゃべるの苦手だから、気にするな」
 と、クルーオルはタシターンの鎧をパンパンと叩く。この人は、よくしゃべるなと言うのが素直な感想です。
「僕は、カレジです。十六歳。魔王の血族です」
 魔王の血族。その言葉を聞いた時、二人の顔は強張ったのが分かった。昔、世界を恐怖と戦乱へ陥れた男の血が流れているのだから。
 その時だった。さっきの狼が大群が僕たちを囲んだ。
「背中を合わせろ、死角に入らせるな!」
 僕は二人に言う。三人で背中を合わせて、押し競饅頭のようになる。そこにやってきたものは、大きな狼だった。
「勇者御一行か。ここで倒せとは言われてないが、このフォレストハウンド様の前に出てきたことを後悔させてやる!」
 大きな狼は高位な魔物だったらしい。人語を話せた。ということは力もあるということになる。そして、奴は大気がビリビリと震えるような咆哮を上げた。それが合図だったのか、狼たちは僕たちに飛び掛ってきた。
 僕は足が震えていた。こんなにたくさんの敵に囲まれた事なんて一度なかったから。でも、二人はそうでもないらしい。クルーオルは、背負った箱を自分の目の前に置く。そして何やらスイッチを押すと、箱が開き、幾つもの槍が飛び出した。考えも無しに飛び掛ってきた狼たちは、次々と槍の餌食になり、肉塊と化した。
「どうよ!」
 と、余裕のドヤ顔スマイルもかまされた。そっちに気を取られていると、いきなり突き飛ばされた。
「あぶない・・・」
 そう言うと、タシターンは金棒を思いきり地面に叩き付ける。一匹の狼を潰し、その衝撃で周りの狼たちをぶっ飛ばした。僕はいらない気がするよ、みんな。すると、二人の攻撃をすり抜けた一匹の狼が僕の前にいた。退魔の短剣で居合い斬りに挑戦する。そうしないと間に合わないからだ。振り抜かれた刃は狼の鼻頭を切り付ける。傷は浅いがこれで致命傷になる。聖銀は魔物にとっては毒のような物だ。かすってもジワジワ効いてくる。切られた狼は動かなくなった。
「まだまだぁ!」
 クルーオルは箱の一部を開けると、黒い玉を取り出し、それを投げつけた。まだ、フォレストハウンドの周りいる狼たちの集団の真ん中に落ちると、それは爆発した。
 ドカン!
 僕は目を閉じてしまった。爆弾かと思ったら、大した威力もなく、ただ閃光が広がっただけだったからだ。
「今だ、タシターン! 僕が作った。圧剣疾風切札の力を見せてやれ!」
 あれ、剣だったのか。剣にしては刃の厚さがあり過ぎるから、金棒かと思ってた。
「まさかあががあががあああがっががああ」
 二人の声ではない声が聞こえてきた。目を開けた時には、狼たちの死体の山だった。数秒の間に何があったというのか。フォレストハウンドまでも倒れていたが生きてはいるようだ。
「どうよ、カレジ。これが僕たちの力だ」
 と、クルーオルは笑う。その後ろには、凄く疲れているタシターンがいた。
「凄いね、ホントに」
 と、僕は言う。その時、奴が動いた事には誰も気付かなかった。   第四話に続く

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