短編

□雪
1ページ/2ページ

自分のせいで誰かに悲しんでほしくない。

誰かが自分のせいで悲しむのを見たくない。

だから、記憶を消してほしいと願った。


大切な者が無くなる恐さ、悲しさを知ったから。

知っていたから、だからこそ願った・・・

無力な自分が唯一出来ることがこれだった。

たとえ、自分の存在が忘れられても、いいと願うほどに思いは強かった。

あのあったかくて、大きな力強い手が大好きだった。

もう会えないと思ったけれど、また傍に居られることがうれしかった。

いつも自分をからかい、振り回していた大好きな人。

他にもたくさん大切な者がある。

それを敵から守るには犠牲が必要だった。


――あしきゆめ……

ねえ、もしも生まれ変われたらまた傍にいてくれる?

覚えていなくてもいい。

悲しい思いをしていなければいい。


今度会えたらこの思いを伝えよう。

今じゃかなわないけど、いつか…身分の差がなく、自由に誰かを好きになれる時代に生まれたら。

やっと気づいたこの思いを。


遠のいて行く意識の中そう願った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ