短編
□雪
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自分のせいで誰かに悲しんでほしくない。
誰かが自分のせいで悲しむのを見たくない。
だから、記憶を消してほしいと願った。
大切な者が無くなる恐さ、悲しさを知ったから。
知っていたから、だからこそ願った・・・
無力な自分が唯一出来ることがこれだった。
たとえ、自分の存在が忘れられても、いいと願うほどに思いは強かった。
あのあったかくて、大きな力強い手が大好きだった。
もう会えないと思ったけれど、また傍に居られることがうれしかった。
いつも自分をからかい、振り回していた大好きな人。
他にもたくさん大切な者がある。
それを敵から守るには犠牲が必要だった。
――あしきゆめ……
ねえ、もしも生まれ変われたらまた傍にいてくれる?
覚えていなくてもいい。
悲しい思いをしていなければいい。
今度会えたらこの思いを伝えよう。
今じゃかなわないけど、いつか…身分の差がなく、自由に誰かを好きになれる時代に生まれたら。
やっと気づいたこの思いを。
遠のいて行く意識の中そう願った。