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□世界は図書室の片隅で
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図書室の片隅に私達は居た。
ほんの一ヶ月前は此処は私だけの聖域だったのだ。私だけ____私、織村輝月(おりむらかづき)だけの。
目の前の彼____如月(きさらぎ)が来るまでは。
「織村さん何の本読んでるの?」
「…」
「放課後はいつも此処に居るよね、本好きなの?」
「……」
「本好きじゃなきゃ毎日此処には来ないか。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「………」
如月はクラスメイトだ。
明るい性格に美形とまではいかないが好感の持てる容姿。彼の周りには人が絶えず、いつも騒がしい。
一人読書を好む私とは大違いだ。
いや、私はそれで良かったのだ。
顔色をうかがっておべっか使うのも人に合わせるのも馬鹿らしい。
この、誰もいない静かな空間で一人本を読めればそれで良かったのだ。
___なのに何故、お前は此処に居る。
ああ、苛々する。
ガキンッ
口の中に含んでいた飴があっけなく砕けた。
私の場合飴は大抵溶ける前に噛んで砕いてしまう。
まるでそれは断末魔。私の口は、もういくつの果てを遂げたのだろう。
その鈍い音に気付いていたのか如月はにこりと笑い、私を指差しこう言った。
「星」
「…は?」
「星が、砕けた」
星?砕けた?何の事だか分からない。
事態に追いつけずにいた私に、彼は困ったような笑顔でごめん、と呟いた。だから、何が。
違うんだ、そうじゃなくて。と小休止。顔を照れさせ少し俯いて笑わない?と顔を向ける。
___お前の今までの愚行に比べたら大抵の事は沸点には届かない。私は一ヶ月耐えたのだ。だから、さっさと。
そんな思いをたった一言。
「早く」
如月は私の言葉を聞いた後、観念したように口を開いた。
「…星の砕ける音みたいでさ、好きなんだ」
何が?
飴が。
飴?
うん。
「星が砕ける音がするんだよ、飴って」
そうやってまた、ふわりと笑う。
メルヘンな頭だな。そう言おうと思ったのに、言葉は形にならず。
…星、か。
「そしたらなんだ?私の口は宇宙か?」
なら私は全てを飲み込む空の穴によく似てるな。生まれる事のない、消えるだけの宇宙。そこにぽっかりと空いた、宇宙の穴。
___私にお似合いじゃないか。
「違うよ」
「…?」
「世界が、広がってるんだ」
無限に生まれ、消えていく世界が。
バラバラッ
そう言い放った途端に手のひらから溢れた何か。
いや、溢れたのではない。手のひらに隠した、たくさんの星。
「…図書室は飲食禁止だぞ」
「じゃあ共犯だね」
…本当に変な奴。
でも不思議と苛々はもう無い_____…
「あ、やっと笑った」
「え?」
「俺、ずっと織村___…輝月さんの笑った顔、見てみたかったんだ」
ガキンッ
星の砕ける音がした。
(お前、本当は馬鹿なんだろう?)
(え?なんで?)
(……もういい)
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