-Resurrection-
□destind for... [前編]
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バーナビーの復讐やマーベリックとの戦いが終結を迎えてから一年後。
ヒーローに復帰した虎徹とバーナビーは、アポロンメディアのメカニックルームを訪れていた。
「えっ……斎藤さん、今何て…?」
元より声量の低いメカニック斎藤であるため、三人の椅子の距離はとても近かった。しかし、虎徹はさらに身を乗り出す。
「(…だから、ワイルドタイガーのハンドレッドパワーの継続時間が、元の5分間に戻せるって言ったんだよ)」
かすかな声は、今度こそ虎徹の耳に届いた。
「それ、本当なんですか…!?」
傍で聞いていたバーナビーも、虎徹同様に身を乗り出す。
斎藤は頷き、部屋の奥に佇む虎徹のヒーロースーツを指した。
「(ただし、それはスーツを着ている間に限る。君のスーツに、能力を増幅させるデバイスを組み込んだんだ。スーツを脱げば、勿論能力は一分間しかもたない)」
「デバイス…斎藤さん、じゃあ俺…!」
斎藤は、今にも飛び上がりそうな虎徹を制する。
「(話は最後まで聞け。スーツ着用時に能力を発動した場合、次に能力が使用出来るまで24時間かかる。それを忘れるな。それと、後日デバイスの試験も兼ねてシミュレーションをするから…)」
「斎藤さん、ありがとうございますっ!!」
言い終えるか終えないかのうちに、虎徹は斎藤の手をがっしと掴む。
虎徹の輝く眼差しに、斎藤は眼鏡の奥でかすかに目を細めた。
「(私の力だけでなく、ペルセウスエンターテイメントのヒーロー事業部の協力のお陰だよ。…向こうにも優秀なメカニックが揃ってる。さすが、"スワロウテイル"を擁する企業なだけあるな)」
「ペルセウスエンターテイメントの?」
バーナビーが訊き返した時、虎徹は既に席を離れ、自分のヒーロースーツの前ではしゃいでいた。
「…虎徹さんは、スワロウテイルとは長いんですよね…?」
メカニックルームから戻る廊下の途中で、前を行く上機嫌な背に問う。
「んー?ああ、あいつがヒーローになる前からだから…9年くらいになるか」
虎徹は指を折りながら、感慨深げに答える。
バーナビーは、虎徹の隣に並んだ。
「…彼女は、どんな人なんですか…?」
スワロウテイルことステラ・ウェッジウッドは長くヒーローを休業していたが、マーベリック戦の途中から復帰し、虎徹達の危機を救ってくれた"天才ヒーロー"。
スワロウテイルの休業中にヒーローデビューをしたバーナビーは、情報での人物像しか知らない。
「どんなって…10代でヒーローデビューして、デビューシーズンではお前と同じ総合第一位と、MVPを獲得した最年少記録保持者」
「そんな事は僕だって知ってますよ。そうじゃなくて、人柄とかヒーローそれぞれとの関係とか人柄とか…もっと他の……って、何ですかその目は!」
虎徹は、いつの間にかにやけた目でバーナビーを見ていた。
「成程ねぇ、ステラは可愛いし美人だもんなぁ。ついに、バニーちゃんにも春が来たか」
「からかわないで下さいよ!僕は、ただ…」
弁解の言葉がすぐに出てこないのは、何故だろう。
ただ、ステラを思い浮かべると胸の奥が絞るように苦しくなる。優しげな中に悲壮を宿した瞳が、忘れられない。
「バニー」
ふと我に返った途端、前方に回り込んだ虎徹にばしんと両肩を叩かれた。
顔を上げ、目に飛び込んできた眼差しは真剣で、かと思うと、すぐにくしゃっと笑う。
「素直になれよ、バニー。ただでさえ競争率の高い相手だぜ?ぐずぐずしてっと、他の誰かに奪られちまうかもしれない。…本気なら、頑張れよ。お前はもう、普通の幸せを手にしていいはずだ」
この人の言葉には不思議な力がある。これまで何度勇気付けられてきた事か。
悩み、迷っていた自分は何だったのかと思えてくる。
「…ありがとうございます。本当は、誰かに背中を押してほしかったのかもしれません。臆病になるなんて…僕らしくないですよね」
弱く笑んで見せると、虎徹は誰を思い浮かべたのか、懐かしむような目で頷いた。
「誰かを好きになるってのはそういうこった。とにかく、俺は応援すっからな!」
「はい……」
虎徹はくるりと背を向けると、ひらひらと手を振り去って行った。
一人ではないという事がどれ程心強いか、改めて感じる。
結果がどうなるかは分からないが、今は自分の気持ちに正直になってみよう。
きっと、これが本気の恋というもの。
「ステラちゃん、振り返って笑ってー……はい、オッケー!」
市内の撮影スタジオでフラッシュを浴びながら微笑むステラ・ウェッジウッドは、ヒーローであると同時にプロの歌手でもあった。
「ステラちゃん休憩しましょー」
カメラマンの一声に、ステラはふうと一息つく。