-Resurrection-
□destind for... [中編]
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バーナビーは、一瞬面喰らったような表情を浮かべた。しかし、すぐにこれまでの柔らかな表情に戻る。
「一つだけ、どうか誤解しないで下さい。僕が芸能の仕事もさせて頂いてるのは、色んな仕事を通じ色んな経験がしたいと思ったからです。決して、中途半端な気持ちでやっている訳ではありませんからね?」
真剣に、念を押すように人差し指を立てる。
どうしてだろう。あの時同じ言葉を言われても、きっと信じる事は出来なかった。
それなのに、今なら分かる。今なら信じられる。
「貴方の真面目さは分かっていたはずなのに、貴方の行動の意味を曲解していました。…あの…仲直りの握手、して下さい」
ヒーロー同士、溝が残ったままではいけない。何か、和解の証が欲しかった。
おずおずと右手を差し出すと、バーナビーはわずかに目を丸くした。しかし、すぐにその手を取る。
幾分ひんやりとした大きな手は、まるで壊れ物でも扱うように優しくステラの手を包む。
何故か、自然と笑みが零れた。
「ステラ、お待たせ。戻るぞ」
ふと、離れたところからマネージャーの声が掛かった。
どちらからともなく、握った手が離れる。
「お土産ありがとうございました。私はこれで…」
「あ、あの!」
何かを言いかけたバーナビーが口籠る。
見上げた緑の瞳は迷うように揺れ、言うべき事を躊躇うなど彼らしくないような気がした。
「今度、食事にお誘いしても…いいですか?」
それは、意外な一言だった。
わずかな緊張を隠した眼差しは真っ直ぐステラに向けられ、ステラの返事を待っている。そこに、普段のバーナビーが持つ余裕は無いように見えた。
まさか、とは思う。
「…考えて、おきますね」
わざと試すように答え、意地悪く微笑んで見せた。
緊張が緩んだのか、バーナビーは困ったような笑みを浮かべる。
「…それは、期待していいって事ですか?」
「期待って、どんな?」
にっこり笑い、軽く会釈をして踵を返した。その視界の端に、満更でもなさそうなバーナビーの表情が見えた。
自分に向けられる素顔の笑みや真っ直ぐな視線、そこに秘められた好意とその意味に気付きつつある。
そこに、打算や不快感を感じないのは何故だろう。バーナビーがヒーローだからだろうか、それともいつかの自身と同じ目をしていたからだろうか。
今はまだ早合点かもしれない。それなのに、バーナビーのあのはにかむような笑顔が忘れられなくなる。
「まさか、ね……」
自身の中に芽生えつつある気持ちに気付かないふりをして、アポロンメディアを後にした。
唐突にエマージェンシーコールが鳴ったのは、ある日の深夜だった。
『工業地区郊外に建設中のトンネル内で落盤事故よ。深夜の点検中だった作業員が二名巻き込まれてるわ、すぐに向かって頂戴』
PDAから、深夜だというのに溌剌としたアニエスの声が響く。
蝶の羽根を模した白と紫のヒーロースーツに身を包み、背中に届く亜麻色の長い髪を銀のカラーリングで結い上げたステラ・ウェッジウッドこと"スワロウテイル"。
空気を操る能力を持つスワロウテイルは、花弁のような形のホバーボードに能力を加え、シュテルンビルトの空を滑走する。
星空を地に映したような市街上空を飛んでいると、湾へ一隻のホバークラフトが出るのが見えた。市街から現場へ行くには、湾を横切るのが一番近い。
「お疲れ様です」
ホバークラフトの脇へ並ぶ。
甲板には、二人のヒーローの姿があった。
「よぉ、スワロウテイル!」
焦れったそうに手摺から身を乗り出していたワイルドタイガーと、
「お疲れ様です。さすが、迅速な到着ですね」
その傍らで冷静に前を見ていたバーナビー。
ワイルドタイガーは、フェイスオープンをしてスワロウテイルを見上げる。
「スワロウテイル、遅くなったけどありがとな!お前んとこのヒーロー関係の人達のお陰で、ハンドレッドパワーも元の五分を維持出来るようになった」
輝くその瞳は、心からヒーローという職業に誇りを持っている証。この人がヒーローとしてヒーロー界に残る事が出来て、本当に良かった。