-Resurrection-
□キミノウタ [後編]
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「カリーナちゃん、待って!」
裏口へと続く通路で、その後ろ姿を見付けた。
「……お客さんを前に歌手が歌を放棄するなんて、プロのする事じゃないよ。見損なったわ」
直前まで感心を抱いていただけに、裏切られた思いは強い。何より、客を蔑ろにした行動は、同じ歌手として許せなかった。
「貴女の歌が聴きたくて来たお客さんばかりじゃないかもしれない。でも、貴女がステージに立ったら、それはみんなカリーナちゃんのお客さんなんだよ?裏切っていいはず無……」
「あんたに何が分かるのよっ!!」
ステラの言葉を遮り荒らげられた声は、かすかに震えていた気がした。
カリーナは振り返り、ステラをその瞳に捕らえる。
「大成してるあんたには分かんないわよ……。ブルーローズの……ヒーローとしての人気にあやかって、やっと唄えてるような私の気持ちは……!今日だって、未だにこんなバイトを続けてる私を笑いに来たんでしょ!?」
言い終えると、ふいっと顔を逸らす。
ステラは、カリーナと同じ歳の頃には既に歌手デビューしており、海外メディアにも注目されていた。
カリーナは、自分とステラを比べて自信を失い掛けている。もしも見下されていたらと思うと怖く、ステラの前で歌を見せる事から逃げた。
それはきっと、ステラ・ウェッジウッドという歌手が好きだからこそ、余計に幻滅されたくないと思うのかもしれない。
「……私だって、はじめから大成してた訳じゃない。ヒーローとしての人気があったって、売れない歌は売れない。それでもブルーローズが歌手でいられるのは、ブルーローズの歌が好きだと思ってくれるファンがいるから」
説教臭くなる言葉をカリーナがどこまで聞いてくれるか不安だったが、今伝えなければいけない。
「ブルーローズとして唄う歌だって、貴女が想いを込めて唄えばそれは貴女の歌。誰かと比べて自分を卑下したら、ファンでいてくれる人達に失礼だよ。……私も貴女も、ファンに支えられてる"同じ"歌手」
言い終えると、黙って聞いていたカリーナは組んでいた腕を解いた。
「……同じヒーローなのに、ヒーローの名前が無くても大成してるステラが羨ましい……」
押し出すように紡がれた言葉は、紛れも無くカリーナの本心だった。
「声量も歌唱力も私とは全然違ってて……比べれば比べる程、ステラが嫌いになって。ステラがいるから私は歌手になれないんだって……勝手にあんたを悪者にしたわ」
"休業したまま消えるんだろうと思ってた"、あの時の言葉は、カリーナの願いだったのかもしれない。
カリーナは、ようやく顔を上げる。
「悔しいけど、でも、心の底では嫌いになりきれなくてっ…………もう、どうしたらいいか……!私、本当はステラのファンなんだもん……!」
悔しさや惑い、照れ臭さが混在する表情。きっと、これこそが本当の心なのだ。
しかし、まさか、良い感情をこうも素直に言葉にしてもらえるとは思わなかった。
決まりが悪そうに、カリーナは再びそっぽを向く。
なんとなく気付いていた事だというのに、改めて言葉にされるとやはり嬉しい。