-Resurrection-
□風の向こうへ [前編]
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夕暮れ時のシュテルンビルト市街、大小の光の球体を従え中空を滑走するスワロウテイルが、HERO TVのカメラに手を振る。
今回の事件も、スワロウテイルの活躍で無事に解決となった。
カメラが離れるのとほぼ同時に、銀色のシルエットと擦れ違う。その間際、スカイハイと目が合った。
スカイハイは少しぎこちなく右手を挙げて見せ、そのまま飛び去る。
「キング・オブ・ヒーロー……」
今期、スワロウテイルとスカイハイはポイントの獲得数で一位と二位を争っている。
前シーズンでバーナビーからキング・オブ・ヒーローの座を奪回した彼は、スワロウテイルが唯一ライバル視する存在だった。
その原因は、攻守、人命救助、移動と最もヒーローに適していると謂われる互いの能力の類似性にある。
スワロウテイルには光を操る能力もあるためかろうじて差別化はされているものの、スカイハイがキング・オブ・ヒーローとなってからは、二番煎じのような扱いを受ける事も少なくない。
「私だって、いつまでも二番目ではいられないわ」
スワロウテイルが一番と思ってくれるファンもいるし、ヒーローを休業した事に後悔も無い。しかし、二番に甘んじる事を許さないのは、他でもない自分自身なのだ。
スカイハイだけは、何故か越えなければいけないような気がしていた。
――――――
翌日早朝、まだ人気の無い街路をランニングしていると、後ろから犬の吠える声が聞こえた。
立ち止まり振り返った先には、ステラを見て尻尾を振るゴールデンレトリバーと、スカイハイことキース・グッドマンの姿があった。
走っているのが誰か分からなかったらしいキースは、振り向いたステラに目を丸くした。
「っあ、君だったのか、スワロウテイル君!おはよう、そしておはよーう!!」
予想以上の大声に、ステラは慌てて駆け寄る。
「ちょっ……と!声が大きいですよ!」
「あっ……す、すまない……!」
幸い住宅街からは離れていたため、お互い胸を撫で下ろす。
「……こんな早くからお散歩してるんですね」
腰を屈めると、ジョンが足元に寄ってくる。
「ああ……そう言う君は……」
「見ての通りランニング中ですけど」
「そうか、トレーニングセンターに来れない分を自分で……。天才の名に甘んじないのは、さすがだね」
「ヒーロー業のためだけじゃないですよ。唄う事にも体力は不可欠なんです」
「あ、ああ……成程」
キースはいつもと変わらず笑みを浮かべているが、交わす言葉はどこかぎくしゃくしている。
ステラ自身も、キースに対し他のヒーロー達と同じく自然に接する事が出来ていない自分に気付いていた。それは、彼をライバル視するあまりに。
しかし、キースの不自然な態度が気のせいではないとしたら、その理由は一体何だろう。
「……どこか、具合でも悪いんですか?」
今は、その程度の事しか思い付かなかった。
「えっ?い、いや、大丈夫。ありがとう」
「そうですか……。じゃあ、私はもう行きますね」
大丈夫と言われた以上、何も追及出来ない。
「スワロウテイル君……」
踵を返そうとした時、ふと呼び止められた。
「はい?」
キースの青い瞳に一瞬の躊躇いが映る。
「……すまない、度忘れしてしまった」
苦笑を浮かべると、「気を付けて」と残しステラより先に踵を返した。
キースの異変はわずかなものだったが、それは今の短いやり取りで確かなものに変わった。彼は、ステラに何と言おうとしたのだろう。
「ねぇ、最近のスカイハイ、ステラに対してちょっと変じゃない?」
撮影の仕事が重なったステラとブルーローズ。
スタジオの片隅で、ブルーローズは声を潜めてスカイハイの名を口にした。
「やっぱり……?」
ステラは、今朝キースに感じた違和感を思い出す。
「気付いてたの?」
「んー、なんとなく」
苦笑するステラとは対照的に、ブルーローズは意味ありげな笑みを浮かべる。
「もしかして……三角関係だったりして?」