-Resurrection-
□風の向こうへ [後編]
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引いていく海水の中から、ぐらぐらと大きく揺れる客船が再び姿を現した。外にまで吹き出していた炎は、最早目で確認する事は出来ない。
そして、カメラがようやく"それ"を捕らえたようで、実況が騒ぎ出す。
客船からは大分離れた海面付近を、くるりと旋回して飛ぶスワロウテイル。その傍には、救助された人質と確保された犯人達が、それぞれ割れる事の無い空気の球体に入れられ水面に浮かんでいた。
人質の無事を確認し終えた時、かちりと金属音がした。見れば、犯人の一人が隠し持っていた別の銃を副市長へ向けている。
スワロウテイルが気付くのと同時に引かれた引き金。しかし、放たれた銃弾は上空に逸れ、銃は犯人の手から弾き飛んだ。
強い風が吹き抜ける。
「スワロウテイル君!」
スカイハイが上空から下りてくる。
彼を前にようやく観念したのか、犯人は空気の膜の上に崩れ落ちた。
「油断大敵だよ」
「すみません」
スカイハイの助力に感謝しつつ、苦笑を浮かべる。
そして、ようやく二人揃ってカメラに手を振った。
「スワロウテイル君!鮮やかだった!あの機転、実に鮮やかだったよ!」
犯人を引き渡した後、再びスカイハイがやって来る。
「私だけでは、あのような思い切った行動は取れなかった。ありがとう、そして、ありがとう!」
そこにほんの少し前まで感じていた違和感は微塵も無く、スカイハイ本来の表情が戻っていた。
「いえ、貴方が協力しようと言ってくれたから思い付いた案だったし、風の力があったから出来た事です。最後の最後で助けてもらっちゃいましたし……ありがとうございました」
気付かれないように、組み合わせた手を強く握り締める。
自身の能力でも大波を起こす事は出来たが、客船を破壊する可能性も高かった。しかし、それは口にはしなかった。
「実は……」
急に、スカイハイがトーンダウンする。
「実は、少し……君に負い目を感じていたんだ。私がキング・オブ・ヒーローになれたのは、スワロウテイルが不在だったお陰なんだと」
それは、予想していなかった言葉。彼に感じていた違和感は、この事が原因だったのか。
スカイハイは顔を上げる。
「けれど、今度は……今度こそは、君とキングの名を賭けて競ってみたい。"天才"と呼ばれるその陰で、努力を続けてきた君と」
上辺の評価に惑う事無く、彼はスワロウテイルの本質を見極め、敬し、認めてくれている。それはきっと、他の人々、他のヒーロー達に対しても同じ。これこそが、スカイハイが万人に愛される理由なのだろう。
「……私がいなくても、貴方は一度、バーナビーにキング・オブ・ヒーローの座を譲っていますよね」
その一言に、スカイハイの姿勢が強張る。
「でも、その後もう一度頂点に返り咲いた。腐る事無く市民のために闘い続けた結果……それこそがスカイハイが誇るべき強さだと思います」
強い対抗心の余り、スカイハイを認められずにいた。しかし、今はもう違う。彼を彼として認め、ようやく本当の意味でライバルになれた。
「どうか、負い目なんて捨ててキングの名を堅く守って下さいね。でないと、奪い甲斐が無いですから」
強く笑んで見せると、マスクの向こうのスカイハイも微笑んだように見えた。
「君のような人と同じ舞台に立てている事、とても嬉しく思うよ」
差し出された右手は、何故か握らずにはいられない。
握り合った手を離しながら、スワロウテイルはスカイハイを見上げた。
「それにしても、スカイハイさんのような人でも負い目を感じたりするんですね」
スカイハイである事や自身の役目に誇りを持つ彼には、縁の無いもののように感じる。
スカイハイは、顎に手を当て低く唸った。
「……風と空気……私と君の能力が似通っているから……かな。だからこそ君とは正々堂々競い合いたいと思っていたし、それが叶わず私がキングになってしまったから」
初めから、スカイハイもスワロウテイルと同じ気持ちを抱いていたのか。
「同じ能力を持ちながら、うまくやっているコンビの存在を忘れていたね」
脳裏によぎったのは、タイガー&バーナビーの姿。