-Resurrection-
□僕が見る蝶の夢 [前編]
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「綺麗だなぁ……」
休憩室を訪れた時、付けっぱなしになっていたモニターに見覚えのある人物が映っていた。
それは、化粧品のCMで笑うステラ。
ドラゴンキッドことホァン・パオリンは、うっとりと見惚れる。
芸能人としてのステラ、スワロウテイルとしてのステラ、そして、素顔のステラ。どの彼女も可愛らしく、それでいて美しい。
パオリンは、以前からステラに憧れを抱いていた。
「……ボクも、あんな風になれたらなぁ……」
無意識に、願望が口から零れた。
「なぁに?アンタも化粧品に興味が出てきたの?」
「うわぁっ!」
不意に掛けられた声に、思わず飛び上がってしまった。
振り向くと、いつの間にかネイサンが立っている。
今の一人言は聞かれてしまっただろうか。
「う……ううん、ステラ綺麗だなって思っただけ。ステラの出てるCMなんて初めて見たから」
「芸能界復帰直後はともかく、あの子は元々メディアへの露出が極端に少ないものね」
言いながら、ネイサンはソファに腰を下ろした。
唄う以外、歌手としての仕事がどんなものなのか、パオリンにはまだよく分からない。しかし、メディアへの露出を控えたり、大規模なコンサートは一切行わなかったり、セーブしなければヒーローとは両立出来ないくらい大変なのだろうという事は分かる。
憧れの人は自分と同じヒーローなのに、とても遠い存在のように感じた。
「あーあ……ステラに会いたいなぁ。会ってお話ししたい」
あまりトレーニングセンターを訪れないステラと顔を合わせられるのは事件現場がほとんどで、言葉を交わす事も少ない。
ふと、ネイサンが顔を上げる。
「あら、会えるわよ?割とすぐに」
「えっ?い……いつっ?」
パオリンは目を輝かせ、向かいに座った。
「来週の頭」
「……って、明後日!?」
それは、本当に"すぐ"だった。
――――――
その日、ステラはスワロウテイルとしてトレーニングセンターを訪れていた。傍にはアニエスとHERO TVのカメラもいる。
「随分思い切ったわね」
アニエスは、満足そうにスワロウテイルを眺めた。
「以前の可愛いイメージから、ぐっと大人っぽくなりました。とても気に入っています」
スワロウテイルが身に纏っていたのは、モデルチェンジされた新しいヒーロースーツ。以前の白が基調だったスーツからは一転し、黒が基調のタイトなものへと変わった。
「いいじゃない、黒揚羽がモチーフなのね。肌の露出も増えて、視聴率アップに繋がりそうだわ」
最終的に視聴率へと行き着くアニエスの発言に、スワロウテイルは苦笑で応える。
その時、フロアに数人の足音が響いた。
「スワロウテイル!わぁっ、それが新しいスーツ!?」
感嘆の声と共に、カリーナが真っ先に駆けてくる。
「んまぁ〜、ローズ程じゃないにしても大胆ねぇ。随分思い切ったじゃない」
頬に手を当て、ネイサンはアニエスと同じ感想を口にする。
会う人ごとに良い反応を貰えるのは嬉しいが、何か物足りない。
ふと、ネイサンの背後から顔を出したパオリンと目が合った。
「パオリンちゃん久し振り。どうして隠れてるの?」
「この子ったら、久々にアンタと会うから照れてるのよ。ホラ、新しいスーツの感想言ったげなさい」
引き摺り出されたパオリンは、言葉の通りわずかに顔が赤い。
「あ……あの、えっと……」
スワロウテイルを見詰めては、すぐに俯きもじもじとウェアの裾を弄る。そして、意を決したように顔を上げた。
「スワロウテイル……なんだか魔女みたいで、素敵だね」
一瞬の沈黙が訪れる。
カリーナは呆れたように溜め息をついた。
「あのねぇ……もっと他の例えは無かったの?」
「えっ、えっ?じゃあ、黒揚羽?」
「そのまんま!」
しかし、パオリンは心からの良い意味でそれを口にしているようだった。
何より、"魔女"という言葉はスワロウテイルが最も探していた表現。
「ありがとう、嬉しい!」
喜びを隠さず、パオリンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「魔女って、私のイメージにすごくぴったりだね!」