-Resurrection-
□僕が見る蝶の夢 [後編]
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『スワロウテイル、言い忘れたけど、人質を使うのは無しよ!』
それは寝耳に水。
「何のための人質要員なんですか!」
人質を使えば、駆け引きだけで戦闘にはならないだろうと思っていたが、甘かった。
要は、仲間が金庫から現金を運び出すまで、人質には指一本触れさせずドラゴンキッドを迎え撃てばいいのか。
考えている間に、派手な音を立てて扉が打ち破られる。
「スワロウテイル、人質は返してもらうよ!」
スワロウテイルに棍を向けるドラゴンキッドは、すんなりとこの状況を受け入れているようだ。
「こっちは中途半端な悪役ですけどね」
諦めて、腰に下げていた白いロッドを抜く。
「やるからには本気よ」
ロッドを振ると、それは美しく強靭な鞭へと姿を変えた。そして、鋭い音で床を打つ。
「それが新しい武器……!?」
目を奪われていたドラゴンキッドだが、すぐに我に返ると棍を握り締めた。
「サァッ!!」
迷う事無く放たれた電撃に、スワロウテイルも空気の能力を発動させる。
空気は絶縁体だが、強い電流には意味が無い。ならば、と空気を体の回りに滞留させ、向かいくる電撃に飛び込んだ。
電撃を捕らえ身に纏わせると、そのまま突進する。
耐性があるとはいえ電撃が付加された攻撃の威力は大きいようで、鞭での打撃を受け止めるドラゴンキッドは、あっという間に外へと押し出された。
ほんの一瞬、ドラゴンキッドと目が合う。
乾いた音と共に、その手から棍を弾き飛ばす。
「あっ……!」
ドラゴンキッドの視線が逸れると、しなやかな鞭の先端でその両手を縛り上げた。
「隙だらけだよ」
「……スワロウテイルもね!」
次の瞬間、両手から放たれた電撃は鞭を通しスワロウテイルへ感電する。
しかし、スワロウテイルの表情は変わらない。
「新しいスーツは耐電性も高いの」
能力を使って抵抗しなくとも十分な耐性。それを身を持って実感する。
正直、彼女の電撃をまともに受けるのは緊張した。
スワロウテイルは安堵の笑みを浮かべ、ドラゴンキッドはがっくりと肩を落とす。
その後、ドラゴンキッドはスワロウテイルから逃れる事が出来ず、時間内の現金強奪が完了して一対一のシミュレーションは終了した。
「パオリンちゃん、今回はらしくないミスがあったね」
ワイルドタイガーとバーナビーとのシミュレーションも終え、着替えたステラは休憩室でパオリンと向かい合っていた。
傍らには、虎徹とバーナビーもいる。
「私に棍を奪われたり捕まったり、隙だらけだったよ。これが本当の事件だったらどうするの?」
言葉遣いは柔らかくとも、口調は強い。
実戦ではないからといって油断していたのだろうか。それとも、相手がスワロウテイルだから甘く見ていたのだろうか。
どちらにしても、彼女らしくないミスの理由が知りたかった。
しゅんとしたままのパオリンは、膝の上で両手を握り締める。
「……ボク……スワロウテイルに見惚れちゃってた……」
「えっ」
思わず、訊き返した声が裏返る。
傍で、虎徹が吹き出した。
「見惚れてたって、同性にかっ?キッド、言い訳はちゃんと考えた方がいいぞー」
くっくと笑う虎徹に対し、パオリンは立ち上がり身を乗り出した。
「本当だよっ!男の人はどうか知らないけど……少なくともボクは、同性でも綺麗だなって思ったりする!スワロウテイルは戦う時もすごく優雅で……そう思ってるうちに負けちゃってた」
そして、再び静かに腰を下ろす。
「ひらひらって身軽に動く姿は蝶々みたいで、光と空気を操るのは女神様みたいで……でも、すっごく強いのはやっぱり魔女みたいで!ボクも…………あんな風になれたらな……」
キラキラと目を輝かせて話していたパオリンは、はっとしたように口を押さえる。
ステラは首を傾げた。
「それは……私みたいに、って事?」
頬を赤く染めたパオリンは、小さく頷く。