-Resurrection-

□It's all right. [前編]
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「ストーカー?」

 アポロンメディアのビルに入っているカフェで、虎徹とバーナビーは声を揃えた。
 2人の向かいに座るステラと、マネージャーであり兄のラルフは小さく頷く。

 この日、仕事でアポロンメディアを訪れていたステラは、その合間に虎徹とバーナビー、そして、ネイサンを呼び出した。

『いつからなの?それ』

 ステラの傍らにあるパソコンのディスプレイには、インターネットで繋がるネイサンの姿が映っている。

 ラルフはタブレットを開き、テーブルに置いた。

「先週辺りからほぼ毎日です。最初はペルセウス社前にステラへのファンレターと花束が置かれるだけだったんですが、急にステラの隠し撮りした写真も置かれるようになって」

 指でスライドされる画面に映し出される、それらの品。

 ふと、虎徹が画面を指差す。

「隠し撮りって……これ、ステラなのか?」

 そこに映るのは、ステラとはファッションも髪の色も目の色も違う女性の写真だった。唯一共通するとしたら、背丈くらいだろうか。

 無理も無いと思いながら、ステラは控えめに頷く。
 
「私、プライベートで出掛ける時は大体変装してるんです。全部、私の写真ですよ」

 虎徹は、尚もステラと写真を見比べては目をぱちくりさせる。

 しかし、次にラルフが見せた写真に、虎徹とバーナビー、ネイサンの3人は絶句した。
 それは、黒く焼け焦げた何枚ものステラの写真だった。

 ラルフは眉を寄せる。

「これは今朝置かれていた写真なんですが、急にこんな……。一緒に置かれてる花の花言葉も何か意味がありそうで……うちの社長の提案で、皆さんに相談しようという事になったんです」

 ディスプレイの向こうで、ネイサンが頬に手を当てる。

『花言葉?』

「……ガマズミの木の花。花言葉は、"無視したら私は死ぬ"よ」

 沈んだステラの声音とその花言葉に、一瞬にして不穏な空気が周囲を包んだ。

 わずかな沈黙の後、バーナビーが身を乗り出す。

「どうして、もっと早く僕に相談してくれなかったんですか?」

 焦燥や不安が入り交じった表情と声に、ステラは気圧される。

 そんな様子を察したのか、虎徹は宥めるようにバーナビーの肩を叩いた。

「まあまあ、ステラはお前に余計な心配させたくなかったんだよ」

「恋人の心配をする事が余計だって言うんですか……!?」

 バーナビーは虎徹に詰め寄る。そこに、いつもの余裕は無いように見えた。
 
『今はじゃれ合ってる場合じゃないのよ、アンタ達』

 ネイサンの一言に、バーナビーは我に返る。

 この中で、今はネイサンが一番冷静かもしれない。

『で、何か犯人に心当たりは無いの?』

 ステラは首を振る。

「職業柄、良くも悪くも沢山の注目を受けるから、その中のたった1つには全然……。ただ、本人と分からないくらいに変装してる私を、"ステラ"だと知って写真を撮ってるから……」

『もしかしたら、ステラを知ってる業界関係者かもしれないって事ね』

 ネイサンは言葉の先を読み、頷く。

 ステラは、膝の上で強く両手を握り締めた。
 芸能界に入り、有名になればなる程嫌がらせをされる事も増えた。しかし、このようなストーキングを受けるのは初めての事で、正直戸惑っている。
 自分の問題で誰かを巻き込んでしまう前に、何としてもこの犯人を捕まえなければいけない。自分自身も護れないようでは、ヒーローでいる意味が無い。

『……そう、警察にも相談してあるのね。ステラはこれからどうするの?』

 いつの間にか話は進んでおり、名前を呼ばれてようやく思考が引き戻された。

「……落ち着くまでは実家に帰ってようかと思ったんだけど、もしも家族に危害が及んだらって考えたら帰れなくて」

「じゃあ、しばらく僕の家にいれば……」

 すぐにバーナビーが提案するが、言葉を遮りラルフが大仰に首を振る。

「それは出来ません。ステラとバーナビーさんの立場上、2人の交際が公になるような事は避けなければ」

 潜められた声だったが、口調はとても強かった。

 バーナビーが素性を明かしたヒーローである以上、その身近にいる人間が犯罪者の怨恨や報復の対象となる可能性がある。

 バーナビーは、悔しむように下唇を噛んだ。

「だよなー……そもそも、お前んとこの親が、彼氏とはいえ男に娘を預ける訳ねぇもんなぁ」

 娘を持つ親の気持ちが分かる虎徹は、溜め息をついて腕を組む。

『それなら、アタシのとこに来れば?』

 ふと軽く出された意見。

「えっ、いいの……?」

『構わないわよ。しばらくはオトコを連れ込む予定も無いし。そこらの男やか弱い女友達なんかよりは、ずぅ〜っと預けて安心だと思うけど』

 ディスプレイの中のネイサンは、頬杖をついて笑って見せた。

 考えてみれば、そうかもしれない。
 
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