-Resurrection-【番外編】
□赤いコスモスに愛をこめて
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10月31日。
今日は、バーナビーと出会ってから初めての彼の誕生日だ。
ステラを乗せた車は、なんとなく浮かれた雰囲気の市街を進む。
バーナビーは今、メインストリートの巨大モニターの中でヒーロー達と笑っている。
一日中続くバースデーイベント。そこには、スワロウテイルのダブルが本物のスワロウテイルに代わり、仲間達と笑っていた。
ステラ=スワロウテイルという疑惑が出ないように、これまでもヒーローの本業以外のイベント等には全てダブルが出席していた。
本来であれば自分がいるはずのその場所には、自分ではない自分がいて楽しそうな笑顔を振り撒いている。
そんな光景を見るのは初めてではないのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
ああ、バーナビーが来るまでは、こんな寂しさに気付く事も無かった。
これが当たり前だと思っていた。
バーナビーの誕生日を祝いたい。
恋人という特別な存在であるのにという自負が、ますます寂しさを強くする。
全く違う世界の人達を見ているような、バーナビーだけではなく他のヒーロー達もとても遠くに感じ、見ている事が出来なかった。
視線を落とした先、スマートフォンの画面に溜め息をついた。
バースデーメッセージに、既読マークは付いていない。
仕方の無い事だ。きっと、仕方の無い事なのだ。
――――――――
「バーナビーさん、ヒーローの皆さん、次の会場へ移動します!」
スタッフに急かされ、文字通り目が回りそうだった。
連なって移動するヒーロー達の中に、スワロウテイルのダブルがいる。
ペルセウスエンターテインメントの技術なのか、間近で見ても本物のスワロウテイルと見分けがつかない程のメイク。そして、中の女優の演技力。
しかし、彼女はステラではない。
バーナビーは、誰にも気付かれない程の無気力な溜め息をついた。
誕生日を祝ってもらえる事は嬉しい。
それなのに、祝われても祝われても満たされない。
ここには、一番祝ってほしい人――――ステラがいない。
ああ、ステラと出会うまでは虚しさという感情など知らなかった。
会いたい。ステラに会いたい。
――――――――
昼を過ぎ、午後になっても、あのバースデーメッセージはバーナビーの目に触れていないようだった。この様子では、例え電話をしたところで繋がりはしないだろう。
日付が今日に変わった瞬間に、何故電話をしなかったのか。
ただ、おめでとうが言いたいだけなのに、それを伝える術が見付からない。
押し寄せる後悔と、焦燥。
そして、ざわざわと胸に広がっていく黒い感情。
ステラは、ぐっと両手を握った。
「……こんな気持ちじゃ駄目だ。これから歌わなきゃいけないんだから……!」
無理矢理、気持ちを持ち上げる。
バーナビーをすぐ近くで祝う事の出来る、自分ではない自分。それを妬んだところで、苛立ちを向けたところで、何も変わりはしない。
「…………分かってるけどね」
分かっているはずなのに、胸の奥は痛むのだ。
――――――――
午後になり、日が暮れて、長かったイベントはいよいよクライマックスになる。
目まぐるしく過ぎる時間、一日中笑顔を絶やさずいなければいけない時間は、思う以上に精神を削った。
しかし、それももうすぐ終わるのだ。
ようやくステラに会いに行ける。
その時、
「なあ、バニー。イベント終わったら、俺らヒーローだけで二次会だからな!」
こそりと耳打ちをしてきた虎徹の言葉に耳を疑う。
「ちょっと待って下さい」
「ファイヤーエンブレムが店を予約してくれてんだってよ。なっ?」
間違い無く、そこにあるのは悪意無き好意。
市民の気持ち同様、彼ら仲間の気持ちも無碍には出来ない。
曇りかけた表情を、眼鏡を押し上げる仕草で誤魔化した。
ステラは今頃どうしているだろう。
早ければ夕方には仕事が終わると言っていた。
今日に約束をしている訳では無い。しかし、ステラは待ってくれているような気がする。
ステラが誕生日を祝ってくれるならそれだけで満たされて、プレゼントもケーキもいらない。
「……早く、帰りたい………………」
つい本心をこぼしてしまえば、楽になるどころかますます胸に空いた穴が広がる。
最早、このバースデーイベントに関連する時間が苦痛になっていた。