-Resurrection-【番外編】
□Invisible Reason
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夜の闇に染まった市街地帯上空を、ふわりと漆黒の影が舞う。
「おいっ!待て!なんでお前がっ……!?」
ビルの屋上を伝い追ってきたワイルドタイガーを、影はちらと見下ろした。
「……今更何ですか?」
ホバーボードに乗ったまま冷めた視線を向けたのは、片手に銀色のジュラルミンケースを抱えたスワロウテイルだった。
立ち止まるのを見計らったかのように、ワイルドタイガーの後方からバーナビーが飛び出してくる。
「説得なんて出来る訳無いでしょう。僕達は彼女を捕まえるだけですよ」
既に戦闘体勢のバーナビーだが、攻撃範囲の広いスワロウテイルにとっては敵ではない。
しかし、バーナビーは素早い鞭撃をどうにか躱しながら距離を詰めた。
「スワロウテイル……!」
そして、攻撃のわずかな隙に踏み込み、スワロウテイルに手を伸ばす。
「……バーナビー」
一瞬だけぶつかった視線。わざと真っ直ぐに、熱っぽく見詰め返す。
マスク越しで表情は分からないが、バーナビーの動きに迷いが映った。
間髪を容れずに放ったミドルキックは、彼の脇腹に命中し光の粒を散らす。
「うっ……わあっ!!」
「だああ!!」
空気の波を纏わせた蹴りは、バーナビーの体を勢い良く弾いた。受け止めようとしたワイルドタイガーを巻き込み、胸がすく程に長い距離を吹き飛ぶ。
訪れた沈黙に気を緩める事無く、頭上のゴーグルを下ろした。
あの2人の、任務への執念は知っている。
「……鬼ごっこはやめて、今度は隠れんぼですか」
吹き飛ばした先に、とうに2人の姿は無かった。
それぞれが隠れている場所は、ゴーグル内側のモニタに示された情報で把握している。
その時、モニタ内のワイルドタイガーが動いた。
直後、暗がりから伸びたワイヤーが腕に巻き付き、その拍子にジュラルミンケースが落ちた。
「よっしゃ!バニー!」
ワイルドタイガーの声とほぼ同時に、バーナビーが落下するジュラルミンケースのもとへと走る。
「わ・ざ・と、ですよ」
スワロウテイルは全く動じず、指をパチンと鳴らす。
ジュラルミンケースは空気に乗って浮き上がり、その間に腕に巻き付いたワイヤーを両手でぐいと引いた。
「へっ?」
落下物同様、ワイルドタイガーの体も空気に乗せて軽々と持ち上げ、楽々と引き寄せる。
「大物が釣れましたね」
冗談めいて笑って見せると、宙に浮くワイルドタイガーの体に力が入った。
嫌な予感がした。
「こうなったら……!」
瞬時に、能力を発動させるつもりだと察する。
スワロウテイルは、それを阻止するために衝撃波を放った。
「がっ…………!」
吹き飛ばされ、気を失ったらしい彼は力無く地に落ちた。
わずかに逡巡したものの、取り戻したジュラルミンケースを抱えると再びその場から逃走する。
バーナビーが追ってくる気配がしたが、スワロウテイルのスピードに勝てるはずが無い。
――――――
「大体の予想はしてたけど、こうもスワロウテイルにしてやられるなんてね」
ジャスティスタワー内のメディカルルームで、3人一緒にアニエスの総評を受ける。
ワイルドタイガーはシミュレーション後すぐに意識を取り戻し、念のための検査を終えたところだった。
「新しいスーツは、薄手なのに性能はとても高いみたいですね」
バーナビーは爽やかに笑む。
「何自分の事棚に上げて違う方向に話を持っていこうとしてるの。貴方が一番"してやられてた"くせに」
「ぐっ……」
しかし、あっという間に言い負かされる。
スワロウテイルに見詰められただけで手も足も出なくなっていた事を指しているのだろう、ベッドに腰掛けていたワイルドタイガーが噴き出した。
スワロウテイルは小さく溜め息をつく。
「それにしても、また私が犯人役っていうのが解せないんですけど」
今回は、スワロウテイルが多額の現金を奪って逃げるS級NEXTという設定だった。
加えて、ワイルドタイガーが妙な小芝居を入れたために、ますます悪役らしくなってしまった気がする。ドラゴンキッド同様、彼もその場の状況に順応するのが早い。
「スーツが悪役カラーなんだもの、しょうがないじゃない」
「酷い!」
以前テレビで目にした日本の5人組ヒーローには、黒い衣装で戦うヒーローもいたはずなのだが。
「とにかく、いい画は撮らせてもらったわ。タイガー、貴方も討たれ損じゃなかったわよ。あとは編集に任せて頂戴」
アニエスは言いたい事だけを言い終えると、満足げに部屋を出ていった。
「別に討たれてねーっての」
やや不満そうに、ワイルドタイガーは大きく伸びをする。