-Resurrection-【番外編】

□夜に君という光
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 仕事で嫌な事があった。
 些細な事なのに、今日は普段以上に考えてしまう。

 自分のやり方は間違っていたのかもしれない。では、他にどうすればよかったのだろう。
 きっと、もっと賢いやり方があったはずなのに。

 スワロウテイルとして活動している時も、同じような後悔を何度も経験してきた。その度に、やり直せる、取り戻せる、同じ失敗を繰り返さなければいい、そう言い聞かせて這い上がり明日に繋げてきたのに。

 ああ、どうしてだろう。

 今夜は、そういう前向きな気持ちが起こらなかった。
 逆に、過去の嫌な記憶まで思い出し、後悔や自己嫌悪、寂しさがどんどん広がる。そして、抜け出せなくなる。

 何故こうも負の感情に支配されるのか、その理由は分かっていた。

 夜は、人を弱くする。

 光の使者、女神の化身と謳われるスワロウテイル。だというのに、夜に負けて弱さに支配されているなど情けない。

 ステラは小さく溜め息をつき、いつもよりゆっくりと市街を歩いた。なんとなく、一人にはなりたくない。
 家族や友人の顔が浮かぶ中、最後に思い浮かんだのはバーナビーの顔。
 遅い時間なため、どうしようか迷いつつ携帯を取り出す。そこへ、タイミングよく着信があった。

『すみません、深夜に。僕です』

 それは、今まさに会いたいと思っていた人の声。

「バーナビー……」

『ちょっと……考え事をしながら走っていたら、どうしてもステラの声が聞きたくなって。今、部屋ですか?』

「……ううん、帰り道。少し歩きたかったから、まだ家には着いてないの」

『歩きって……一人でですか?ステラ、こんな時間に歩いてなんて……あ、見付けた!』

「えっ、もしもし?」

 会話の途中で、通話は一方的に切られてしまった。

 バーナビーは、一体何を見付けたのだろう。

 不思議に思いつつ携帯の画面を見ていると、不意にすぐ傍でブレーキ音と共に一台のバイクが停まった。
 ふわりと涼しい風が頬を撫でる。

「ステラ、夜一人で出歩くなんて危ないですよ」

 バイクに跨がったままこちらを向いたのは、

「バーナビー……!」
 
 心配げな表情をしていた彼は、すぐに柔らかく笑む。

「遅くまで頑張ってるんですね。お疲れ様」

 その笑顔や言葉だけで、棘立ち或いはどうしようもなく不安だった心が一瞬にして凪いでいく。
 泣きたかった訳ではないのに、気を抜けば涙が滲みそうだった。

 それを笑顔の裏に隠した。隠したはずなのに。

「……何か、ありました?」

 バーナビーは、笑みを浮かべたまま気遣うような表情でステラの顔を覗き込んだ。

 この人は、強がりも許してはくれないようで。

 言葉にしたら涙が先に出てしまう気がして、こくんと頷くだけで答える。

「……僕に話せる事なら、聞きますよ。話せない事なら、今日は傍にいます。どうにも……夜は人を弱気にさせますからね」

 静かに紡がれた言葉に、ステラはふと気付く。
 バーナビーは、考え事をしながら外を走っていたと言っていた。それも、こんな時間に。

「もしかして、バーナビーも何かあったんじゃないの……?大丈夫?」

 そう思ったら、自分の事よりバーナビーの方が心配になった。

 しかし、バーナビーは優しくステラの頭をぽんと叩く。

「急に昔の事を色々思い出してしまって……でも、会いたい人に会えたら、すっかり気持ちが晴れました」
 
 そして、ステラの手を握る。

 バーナビーのような強いヒーローでも、不安に駆られる夜がある。こうして、誰かに救いを求める事も。
 きっと、"強がり"は"強さ"ではないのだ。

 ステラは、ぎゅっと手を握り返す。

「……半分は愚痴になりそうだけど、話……聞いてほしい」

「ええ、いくらでも」

 促されてバーナビーの後ろに乗り、そっと腰に腕を回す。

 本当は、会いたい人に会えた今は、鬱々とした気持ちの大半は消えてしまっていた。それは、バーナビーの言葉と同じ。

「バーナビー、ありがとね」

 バーナビーは、きょとんとした顔でちらと振り返る。

「まだ何の愚痴も聞いてませんけど?」

 そう肩を竦めながらも、ステラの回復を感じ取ったのか、どこか安堵したように笑った。

 走り出すバイク。彼の体温と心地よい風を感じながら、心の休息を実感していた。

 泣きたい夜も、一人ではない。

 今夜、夜の魔力はもう解けた。










 夜に君という光









 Fin.
 

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