-Resurrection-【番外編】
□ノートルダムの鐘 【後編】
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スワロウテイルはふわりと下降すると、バーナビーだけをジャスティスタワーの屋上へ下ろした。
「スワロウテイル…………?」
騒ぎ続ける胸を押さえ付け、見上げるとスワロウテイルは真っ直ぐにバーナビーを見下ろしている。
その瞳には、決意のようなものが見えた。
「……この子供の姿になったっていう時も、私には教えてくれなかったわよね。虎徹さんが伝えてくれなかったら、きっと、今も私は貴方の身に起こった異変を知らないままだった」
心臓が、重い鼓動を打ち始める。
「……誰にも弱さを見せないで、自分だけを信じて生きていくなら、貴方に私は必要無いはず。ここで、お別れしましょう」
ほんの一瞬、心臓が止まったのではないかと思った。目の前の光景が、割れた窓ガラスのように崩れていくような感覚。
「嘘、でしょう…………?」
「仮面を被ったままの付き合いなら、相手は私じゃなくてもよかったはずよ。……大丈夫、貴方には虎徹さんがいる。私の代わりだって、いくらでも見付かるわ」
寂しさを隠した瞳で乾ききった笑いを浮かべる。
呆然としたままのバーナビーは、声を出す事も動く事も出来ない。
「タワー内のエレベーターはまだ動いてるわ。あとは一人で帰ってね」
スワロウテイルは、さよならと言うようにひらひらと手を振った。
「…………私は、貴方の何だったのかな……?信じてほしかったよ」
"ステラ"の顔に戻った言葉は、最後の叫びのようにも願いのようにも聞こえた。
ああ、こんな事になるなど考えもしなかった。
ステラの前では、いつも強く完璧な自分でいたかった。弱さなど見せては"バーナビー"ではなくなるような気がして、愛するステラに幻滅されるような気がして、それが怖くて。
彼女の言う通り、ステラを信じきれていなかった。
あの時の悪夢は、この瞬間を暗示していたのだろうか。
バーナビーは、後ろから突き飛ばされたかのような勢いで手摺から身を乗り出す。
「ステラ!!」
今まさに飛び立とうとしていた後ろ姿は、慟哭にも似た声に驚いたように振り返った。
「僕はっ……貴女に嫌われるのが怖かったんです……!だから、弱い自分を見せられなかった……。子供の姿になったのも……こんな姿じゃステラの隣に立てないから…………!」
大切な人を失うかもしれない恐怖に、思い出した悔しさが重なる。
子供の姿になっても、バーナビーである事に変わりは無い。ちゃんとヒーローとして闘えるのだと、証明したかった。ステラを不安にさせたくなかった。
我ながら全くスマートではない。それでも、失いたくない人が目の前にいる。
胸が裂けそうな程に痛い。これが本心なのに。
とっくに、ステラはバーナビーの"全て"になっていたのに。
「……嫌です……貴女を失いたくないんです」
涙で視界がぼやけた。
笑えてしまうくらいに女々しい。今度こそ、ステラは嫌になっただろうか。
涙を拭うのに手摺から手を離した時、不意に風に煽られ小さな体は容易く傾いた。
「あっ………………!」
宙に投げ出され、天地が逆さまになる。
驚いたものの、何故か怖くはなかった。
「不用意にフェンスによじ登るからこうなるんだよ。……私がいなきゃ、真っ逆さまだった」
バーナビーを受け止め、先刻同様抱き抱えたステラは、ゆっくりと空中で立ち止まる。そして、乱暴にバーナビーの目尻の涙を拭った。
「……泣きたいのはこっちよ」
「ごめん……。ありがとう、貴女がすぐ近くにいたから、怖くはありませんでした」
安堵して顔を上げると、むぎゅっと鼻を摘まれる。
「"信じる"ってそういう事なんじゃないの!?やっと分かったの!?」
「ぶっ……ふみません…………!」
すぐに手は離され、かと思うと、花の容貌がすぐ目の前に迫った。こつんと額と額が合わさる。
「呼び止めてもらえなかったら、どうしようかと思った……」
きっと、別れようなどと本心ではなかったのだろう。しかし、そうも思い詰めさせてしまった自分を大いに反省した。
しっかりと抱き締めてくれる、細くも強く温かい腕。もう二度と離すまいと、未だ小さなこの手でぎゅっと掴む。
「ステラ……僕の最愛。貴女は僕の全てで、だから……いつも貴女の理想でありたかった」
そうでなければいけないと、勝手に思い込んでいた。
「貴方が私の理想だなんて、一度たりとも言った事は無いけどね」
ストレートな切り返しにも、全くその通りであるため何も言い返せない。
「理想って何?貴方はクールぶってるけど実は感情に左右されやすくて、子供っぽかったり、プライドが高くて面倒臭かったり、へそ曲がりだったり他にも色々あるけど」