-Resurrection-

□キミノウタ [前編]
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 言い掛けた時、虎徹がステラの後方に視線を向けた。

「おっ、ブルーローズ!お疲れっ」

 考えていた人物本人の登場に、かすかな緊張が胸を掠める。
 振り返ると、一瞬だけ合った視線がすぐに逸らされた。

「……お疲れ」

 元気が無いのか不機嫌なのか、カリーナは口数少なくランニングマシーンの方へ向かう。

 声を掛けようとしたステラの傍を抜け、虎徹が駆け寄っていった。

「ブルーローズ、ステラまた新曲出すんだってよ」

「知ってるわよ」

「さすがチェックが早いわね。アンタ、ステラのファンだものね」

 ネイサンの言葉に、カリーナはしまったと言いたげに口元を押さえた。

 一方、ステラは耳を疑う。
 これまでヒーローとして一緒に活動しながら、そのような素振りを見せられた事は一度も無かった。

 カリーナは、勢い良くこちらを振り向く。

「ちょっとやめてよね!私がいつステラのファンだって言ったのよ!」

「言わなくても見てれば分かるわよ。ステラの出るメディアは逐一チェックしてるし、良く聴いてる曲もステラのだし。今回の芸能界復帰も喜んでたじゃない」
 
 しれっとして続けるネイサンに、カリーナは頬を紅潮させる。

「ライバルが戻って来ちゃったから、対策考えてたのよ!……休業したまま消えるんだろうと思ってたのに、ホント迷惑…!」

 個人の好みがあるように、自身が万人に歓迎される訳ではない事は、分かっているつもりだった。しかし、正面からぶつけられた言葉は、思った以上に胸を抉る。
 今のカリーナは、以前バーナビーに"俄アイドル"と言ったステラと似ているような気がした。

 虎徹は、困ったようにステラとカリーナを交互に見る。

「おいおい……仲良くしろよ。お前ら、同じ歌手だろ?」

「同じ歌手……!?全然違う!私とステラは……ステラは、全然違う……!」

 苛立つカリーナの表情が、わずかに翳る。

「大体……あんたが一番うざいのよ!ステラがヒーローになる前からの知り合いだか何だか知らないけど、ステラばっか特別扱いしないでよね!」
 
 持っていたタオルを虎徹に投げ付けると、そのままフロアを飛び出して行った。

 これまでは本心とは逆の事を言っているようだったカリーナだが、この言葉は本心そのもののように聞こえた。虎徹へぶつけた感情、それはステラへの嫉妬のようで。

「悪かったわね、ステラ」

 ネイサンの声に、思考が引き戻される。

「さすがのあの子でも、あそこまでムキになるとは思わなかったわ……」

 申し訳無さそうに肩を竦めるネイサンに、ステラは首を振る。

「ううん……彼女が素直じゃないのは知ってる。それに、ああも必死で否定されたら、逆に自分の気持ちを肯定してるようなものだし」

 恐らく、カリーナにとってネイサンの言った事は図星だったのだろう。
 しかし、何故自分の気持ちに嘘をついてまでステラを否定するのか分からない。わずかに翳った表情や嫉妬のような八つ当たり、そこに原因があるのだろうか。

 はあ、と深く溜め息をつく。

「……虎徹さん、カリーナちゃんはどこのバーでバイトしてるんですか?」
 
 黙々と考え込む事が嫌になった。







 その日の夜、ステラは早速虎徹に教えられたバーを訪れた。店内には、既にピアノの音色と聞き覚えのある歌声が響いていた。

 見れば、ステージ上には弾き語りをするカリーナの姿がある。唄う表情は柔らかく、ここしばらくは目にする事の無かった笑みも垣間見えた。
 普段とは違うその表情だけで、唄う事はカリーナにとって特別なのだと分かる。学校生活やヒーロー業と合わせ、心から頑張っていると思う。

 その時、カリーナと目が合った。唐突に唄声が途切れる。

「えっ…………」

 一体何が起こったのか。

 客がざわつき始める中、驚いた様子のカリーナは逃げるようにステージを下りた。

 予想外の事態に、ステラは目を疑う。しかし、次の瞬間にはカリーナを追い掛けていた。

 
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