宝物庫

□とある日曜日
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日曜日はいつも7時に起きて制服に着替える。
何故制服かというと、それは勿論学校へ行くからだ。
とはいっても勉強しに行く訳ではない、何たって今日は大半の学生は休みが取れる日曜日だ。
このほんの数文で矛盾が生じている気がしないでもないが、では何をしに行くか。
戦いに行くのだ、それも応接室に。
折角の休みだから昼まで寝ていたいというのが本音だが、応接室を根城にしているうちの学校の理不尽な風紀委員長、雲雀恭弥はそれを許してくれない。
元々はオレが強くなりたくて協力してもらっていた特訓なのだが、最近ではヒバリさんの方がオレに戦うことを強要しているといっても過言ではない。
まぁ一応あっちの厚意に甘えている(多分)んだし、日々成長しているヒバリさんと戦うのは結局楽しいのだから文句を言ったことはない。

「じゃあお母さん、行ってくるね」
「あらツっ君、今日も学校?」

リビングから顔を覗かせた母さんに首を縦に振ることで肯定の意を示して玄関へ向かう。
そのまま外へ出ようとしたが、ちょっと待って、という母さんの声に足を止め振り向くと、何やら包みを抱えた母さんがぱたぱたとスリッパを鳴らして近付いてきた。
オレの目の前まで来ると、抱えていた包みをすっと差し出しにっこりと笑う。

「ツっ君、これ持って行きなさい」
「……え?」



「おはようございまーす」
「…随分間の抜けた挨拶だね…おはよう、沢田」
「すみません、慣れてきちゃったもので」

応接室の扉を2度ノックして返事を聞く前に中に入った。
返事を聞かないのならばノックする必要などないではないかと自分でも思うがこれは癖なので仕方ない。
無意識にしてしまっているのだ。
してしまった後にあぁまたかと思って扉を開ける。
すっかり習慣化した動作。
始めの方はヒバリさんにつっこまれてもいたが最近では何も言わなくなった。
つまりは彼も慣れてしまったということだろう。
それかいくら言ってもオレが直さないものだから諦めたかのどちらかだ。

「来た早々悪いんだけど、今日は無理そうだ」

すっかり定位置となったふかふかのソファに腰を下ろしたオレに、ヒバリさんは書類に目を落としたまま言った。
無理、というのはもしかしなくとも特訓のことだろう。
今日のオレの用事はそれだけだから。

「今日はお仕事ですか?」
「今日も、ね。最近どうも目障りな群れが多い」

何度も言うが今日は大抵の人間なら休みを取っている日曜日だ。
そんな日に何故彼が学校へ出てきて仕事をしているのかと聞かれると、それは彼が並中風紀委員長の雲雀恭弥であるからという答え以外には答えようがない。
オレも知ったのはそんなに昔のことではない。
少なくとも今の沢田綱吉になる前は全く知らなかった。
というか誰が考え付くだろうか、休みの日にまで学校に出てきて仕事をする生徒(ヒバリさんを生徒の枠に入れていいのかは些か疑問ではあるが)がいるなんて。
やっていることは普段自分が好き勝手に不良やら何やらを咬み殺している結果でありその後始末であるから自業自得といってしまえばそれまでだが。

「じゃあ、オレ手伝いますよ」
「…どうしたの。変なものでも食べた?」
「失礼ですね、多忙なヒバリさんを置いて一人休日を楽しく過ごすなんてことオレがするとでも?」
「いつもの君ならそうする」

…まぁヒバリさんの言う通りだが。
思い出したがオレには今日彼と戦うこと以外にもやることがあったから申し出ただけだ。
それはお昼にしか出来ないことだから。

「何でもいいじゃないですか。大人しく何か仕事下さいよ」

我ながらあのヒバリさん相手に言うようになったものだと思う。
前世では彼に怯えるしか出来なかったことが嘘のようだ。



与えられたのはヒバリさんが仕上げた書類を分けてファイリングすることだった。
そう難しくもない仕事なので空いた時間にヒバリさんを観察していると、その視線に流石に耐えかねたのか彼はもう1つ仕事を増やした。
喉が渇いたからお茶を淹れろ、と。
やることもないので素直に頷いて備え付けの簡易キッチンに向かった。
そこには彼のお気に入りの紅茶が数種類用意されている。
時折なくなりそうになると補充しているのは草壁さんだ。
全く隅々まで気の利く人である。
ヒバリさん専用のカップを取り、ついでにオレも貰おうと来客用のカップを1つ取って適当に選んだ紅茶を淹れた。
紅茶の種類なんてオレが分かる訳がない。
前世コーヒーにはうるさい家庭教師に覚えさせられたのでコーヒーなら大体分かるのだが。
淹れた紅茶のカップを2つ持ってヒバリさんのところへ行くと彼は来客用のカップを見て、沢田のカップも今度用意しとくね、とぼそり。
驚いてカップを落としそうになった。



お昼になった。
時計を見るまでもなくぐぅと鳴くお腹の虫で気付く。
女の子としてはどうかとも思うが、男だった時の記憶が抜けないオレにとっては大した問題でもない。

「ヒバリさん、お昼です」
「あぁ、もうそんな時間か」
「お腹空きました」
「…生憎用意してないよ。今からでも出前か何か頼む?」
「あ、いえ」

珍しく持ってきた通学カバン(日曜日に来るときは大体手ぶらなのだ。戦うだけだし制服は校内で私服だとヒバリさんが怒るから着ているだけなので)から今朝母さんに渡された包みを取り出す。
可愛らしい模様のそれを解くと中から出てきたのは一人用にしては大きなお弁当箱。

「うちの母からです。二人で食べなさいって」
「あぁ、それで残ったんだ。それにしても随分と気の利く母親だね、僕の分までなんて」
「否定はしませんけど。毎週休みに出掛けるから、母さんオレに彼氏が出来たって勘違いしてるんですよ」
「なっ…か…っ!?」
「あぁ、ちゃんと学校の先輩に用があるだけだって言っておきましたよ」
「………そう」
「?」

何故かヒバリさんが一瞬にして顔を赤くしたり落ち込んだり忙しい。
でも今は空腹の方が問題なのでそれは置いておきお弁当箱の蓋を開けた。
いつもの顔に戻ったヒバリさんがオレの向かいに座り、いただきますと手を合わせる。
オレもそれに倣い手を合わせた。

「美味しそう」
「母さん料理上手ですから」
「こんな日も悪くないかもね」

綺麗に微笑んだヒバリさんがミニハンバーグを口に運びながら言った。
毎度思うが彼の笑顔は何度見ても慣れない。
今回もお陰で卵焼きを喉に詰まらせるところだった。

「…オレもそう思います。たまには戦闘じゃなくてのんびりしましょうよ」
「じゃあ尚更君用のカップが必要だね。どんなのが好き?今度草壁に買ってこさせよう」

因みにその台詞に今度こそ持っていた箸を落としてしまったオレが簡易キッチンまでそれを洗いに行っている間にミニハンバーグがなくなっていたのは余談だ。
その日からヒバリさんがすっかり母さんの料理の虜になってしまったお陰で、月に何度か一緒にお昼ご飯を食べることになった。
そんなとある日曜日。



 
 

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