短編
□獲物と捕食者
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「ヒバリさん!」
ガラッと突然乱暴に開いた応接室の扉をちらりと見遣った雲雀は、血相を変えて飛び込んできた綱吉に疑問符を浮かべる。
ここはノックをせずに開けるなと注意すべきところだが、如何せん雲雀は綱吉に甘いのだ。
「どうしたの、綱吉」
綱吉は息を切らせながらツカツカと雲雀の座るソファ前の机に近寄り、バンッと勢いよく机を叩く。
書類が少し散らかったが、気にしている暇はない。
「どうしたの、じゃありません!! 今日が誕生日だなんて聞いてませんよ! か、仮にもここここ恋人同士なのにっ」
どもりながら叫べば、ああなんだ、そんなこと、という呟き。
「だって訊かれなかったしね。今日祝ってくれなかったら後日お仕置きしようかと思ってたのに」
「……オレとしてはそうならなくてよかったです」
チッと小さく舌打ちをする雲雀に、顔を引き攣らせる。
そんなにお仕置きがしたいのか。
「でもどうやって知ったのさ」
「ああ、それは――」
昼食にパスタを食べていた時、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
母親と居候達は連休を使って旅行に行っていて誰も居なかったため、必然的に綱吉が出ることになる。
しかし扉を開けた瞬間、目の前の光景に絶句した。
なんだコレは。
「沢田、早く応接室に行ってくれ、いや行ってくださいー!!」
学ランを着た、真っ黒なリーゼント集団が玄関先で土下座してそう叫ぶ姿。
なんともシュールである。
「ど、どうしたんですか。風紀委員の方々……」
言わずもがな、真っ黒な集団は風紀委員達の皆々様だ。
その数は玄関に収まらず、道路の方まで溢れかえっている。
それを通りがかった近所の人がおっかなびっくり見ていくものだから、綱吉は泣きそうになった。
はっきり言ってやめてほしい。
「先程委員長がな、『今日はあの子は来ないのかな』と。ついでに『来なかったら罰として監禁でもしようか』とも言っていた」
ちなみにこれを聞いていた勇気ある風紀委員は、そんなことをすれば泣かれるのでは……と物申したらしい。
その返答は、『あの子の泣き顔って結構そそられるよね』だったそうだ。
「は……? え、なんで今日?」
しかしそんなことを全く知らない綱吉はただ疑問符を浮かべるだけである。
確かにこの連休中、雲雀に会っていない。
風紀の仕事も減るかと思いきや、休日だからと羽目を外す連中が意外に多いらしい。
だからこそ、今日も会いに行かないつもりだったのだが。
「もしかして、沢田は知らんのか?」
「へ? 何がです?」
「今日は委員長の誕生日だぞ」
今までの人生の中でも特大級の爆弾が、本日投下された。